ChaSe?

MIZUNOE

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【α嫌いのΩ】2.α、連敗中

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 京都は顔をしかめ、
「キサ?これ、誰に貰ったの」
 昨日、如月が御堂から貰ったカプセルシートの一部を返すとパソコンを閉じた。
「昨日の医師。御堂さん」
「あー、なるほど。…納得」
「何?そんなに特殊なものなのか」
「特殊と言うか、高価なのよ。メーカーも、モノも。1カプセルで、…そうね、le brouillardのアフタヌーンティーセットくらいかな」
「何だよ、そのセレブ価格…。それ、ほいほい人にあげる金額じゃないけど」
「だーかーら、よ。価格に見合った効き目だって言うけど、ある程度の期間は飲まなきゃいけないらしいから、よっぽどのセレブしか使えないわよ、そんなの。おまけに、そんなもの「当分やるから飲みに来い」って、どんなナンパ?さすが、医師ともなると太っ腹ねー」
「ナンパはないと思うけどね。Ωでも男はお断り、って言ってたから、ちょっと気が楽。おまけにさ」
「何よ」
「御堂さんのお姉さん、le brouillardのパティシエで、オーナーの奥さんなんだって」
 京都が半眼になった。
「…どーゆー家?」
「俺も同じこと聞いた…」
 で?と京都がパソコンを閉じた。
「で?結局、なんだったの、昨日の体調は?」
「フェロモン発生不全の、Heat?よくわからないけど、栄養不足のせいもあるんじゃないかって言われた」
「確かに、あり得るから怖いわね。…で、この立派なお弁当まで持たせてもらったの?」
「ついでに、って夕食ご馳走になって、余ったから昼にでも食べろって」
「どれだけ出来のいいセレブなのよ」
 溜息をつきつつ、
「でも、暫く、夕方はごはん食べにおいで?ハルも心配してたよ。最近忙しかったから、余計に自分のこと後回しにしてたでしょ」
「…ありがと。でも、昨日の今日でいきなり約束すっぽかしたら今後の付き合いに支障が出そうだから、今日は御堂さんとこ行ってみる」
 京都は小さく頷いた。
「…そう?じゃ、明日ね?」
 携帯電話が小さく振動し、京都が画面をスワイプして受電する。
「朝宮さん?お世話になります。ああ、…はい、1時間後なら大丈夫ですよ」
 小さく頷きながら如月に向かって片手を上げ、京都はパソコンを持って立ち上がった。クライアントからの電話だ。
 静かに閉まったドアを見やり、如月は小さく伸びをした。
「さ、仕上げてしまうか」
 セカンドモニターの電源を入れ、如月はデスクに戻った。

 クリスマスまで、あと3週間。
 平日だと言うのに、今日も改札を出ると駅前は幸せオーラでいっぱいだった。
(息詰まりそう…)
 ややげんなりとして、足早にそこを通過する。
 にこやかな会話、笑い声。
 お約束のイルミネーションは、確かにいつ見ても綺麗だ。
 それなのに、ぞくり、と如月は背中が冷たくなって小さく肩を震わせた。
 ぽん、と頭を叩かれ、
「は…?」
 驚いて顔を上げれば、進行方向を向いたままの御堂が隣に立っていた。
「ひでー顔してるな。ほら、行くぞ」
 とん、と背中を押されて歩き出せば、周りの視線が突き刺さった。
 相変わらずの長身は、最近の流行もおさえた大人な着こなしで周りを気にもせず、大股で颯爽と歩く。この辺りでは大きな駅のロータリーの人々の視線を釘付けにし、隣を歩く如月にも視線が刺さってきて、如月は思わず俯いた。
 華奢な如月は、いかにも男性的な容貌の御堂に比べどちらかと言えば中性的で穏やかな顔立ちをしていて、身長は低くはないが御堂よりも頭ひとつ低い。衣類は、一応それなりに小綺麗にはしているが、御堂ほどのオーラはない。
「…わ!」
 躓きかけた如月の方を見ることもなく、御堂はその腕を掴んで支え上げた。
「危ねえな。気を付けろよ」
「…転ぶの得意なんです。ありがとうございます」
 く、と御堂が喉で笑う。
「何?」
「そんな特技あんの」
「は?」
「面白いな」
 御堂の腕は、いつの間にか如月の腰に回っていた。
(何、こいつ⁉︎)
 結局、回った腕は解けず、持ち帰られ状態の如月は憤慨気味だ。
「何すんですか!」
「…何でかな。…何か、自然に…」
 御堂の自宅に着き、昨日に引き続き引きずり込まれるように中に入ると、開口一番で如月が抗議に出た。茶化す様子もなく、御堂本人も首を傾げている。
「からかうのもいい加減に…ッ!?」
 ぐい、と引き寄せられたと思った途端、あっさりと唇を塞がれた。
「…⁉︎」
 眼を見開いたまま、如月はある意味パニックだ。ぬるりとした舌に歯列を割られると、何かが口の奥に押し込まれ、
「ん、…っ!」
 反射で飲み込んでしまい、力任せに御堂を突き放すと、御堂はくす、と笑った。
「別に、からかってねーけど」
 ぽい、と手元に飛んできたペットボトルを掴むと、
「心配すんな、昨日のサプリだよ。それ、飲んどけ」
 ぱき、とキャップを回し、苛立ちとともに如月はボトルの水を飲み干した。
「必死で相手を威嚇する猫みたい」
「うるっさい!」
 さもおかしい、という様子で御堂が俯いて肩を震わせた。
「何ですか!」
「悪い悪い…さっきの、ごめん。…終わらなさそうだから、どうやって黙らせようかと思ったら、つい」
 肩を震わせたまま、御堂は昨日のようにキッチンに立った。
「キサ?」
 静かに呼ばれ、如月は顰めた顔で振り向いた。
 やはりどう見ても迫力がないそれに、御堂はやはりおかしくなった。
「何ですか」
 コートを直して玄関に向かう如月を見、御堂が目を細めた。
「手、洗って、食器出して。白い、右の大きなやつと、グラスを2つずつ」
 2つずつ?
「帰りますから、ご自分でどうぞ」
 ブーツに足を突っ込み、素気なく答えると、
「夕食の用意、あるのか」
「…御堂さんに心配されることじゃありませんから、お構いなく」
 くす、と御堂が微笑した。
「まあ、そうなんだけど。こっちはできてるから、食ってけよ。さっきの悪ふざけは悪かった。お前見てたら、何でかああなったんだよ。ビーフチシューは、嫌いか?」
 一瞬、如月が動きを止めた。
「…好き」
「この後の予定は?」
「別に…」
「じゃ、問題ねーな。ほら、皿取って」
 結局、御堂に肩を押されてコートを脱がされ、引き戻されるとあっさりと御堂のペースに乗せられて。
「…御堂さん、αの典型ですよね。俺が一番嫌いなタイプ」
「そうなの?」
「そうですよ。自信満々で、自分の思いが全部通ると思ってて、通しちゃう」
 半眼で見つめてくる鋭さの無い視線に、思わず御堂の唇が緩む。
 くす。
「何がおかしいんです」
「悪い悪い…。それ、迫力なさすぎなんだよ。まあ、そうだな。自信満々だの自分の思いがってのは置いといて、自分のしたいことでどうにもならなくて、やきもきした事はねーな」
「…でしょうね」

 自分に好意や好奇の目を向けない相手は、初めてだ。
 御堂はふと、自分が如月に確実に興味か、それ以上の感情を持ったことに気づいた。同級生でさえ、親友の桜橋以外は常に自分の顔色を伺うか少しでも利用してやろうという意識が見え見えだった。しかも、相手がΩであれば、尚更だ。それが、この如月はどうだ。
 自分に意識すら向けず、それどころか手を伸ばし、間合いを詰めれば「近づくな」と毛を逆立ててくる。それでいて、妙な危うさというか、何か微妙な雰囲気を放っている。
 この如月は、御堂にとっては、初めての人種だ。
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