歳下で純情でちょっと×××な優吾くん〜わんこ系幼馴染から8年分溺愛されます⁉︎〜

麻梨

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第4話 優吾②【据え膳と誠実と猛禽】

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 この世に生まれて19年。

 人生の4分の3以上燻らせた初恋の相手の家に上がるチャンスをわざと逃した俺を、誰か褒めてくれ。


「いや、ただのヘタレだろ」


 学食で向かいの座席に着く黒澤が「アホか」と続ける。

 言葉の勢いに音声がつくなら、いまのは「ズバっ!」だろうか。確実に刺さったので「ドスっ!」かもしれない。


「く、黒澤ぁ~」


 俺だってさぁ! 家に帰ってから「あれ? やっぱり据え膳食うべきだった?」って思ったんだよ!?


「でもさぁ、蒼乃ちゃん顔色も指先も青白い気がしたんだよ。寝不足で付き合わせたらかわいそうじゃん」


「家に上がって、距離を詰めて、手を出さなければいい話じゃねぇか」


「そ……それだと幼馴染ポジから脱却できねぇっていうか、男として意識して貰えないかもって……」


「気を見て襲えばいいだろ」


「えぇー……しれっとゲスいこと言う……」


「『交際相手しか家に上げるな』なんて、お前自身も付き合うまで上がれなくなったんだぞ」


「あ……そっか、そうじゃん!」


「バカだろ、お前」


 男として意識して欲しいが故に、『自分のことも警戒しろ』ってアピールしちゃった……。
 黒澤は心底憐れむ眼をして溜息をつく。


「純情ゴリラが裏目に出たな」


 恋愛相談なんて今までしたことなかったけれど、初回アドバイス……というか、反省会が辛辣オブザ辛辣で心が折れそう。


 先程からとりつく島もない相談相手、黒澤司は俺が知りうる同級生の中で最もモテる男、だと思う。


 同じ教育学部に席を置いていて、実習で何度か組んだのが仲良くなったきっかけ。「こいつ頭いいな~」って思っていたらマジで優秀だった。

 知能の高さって会話に出るものなんだな。


 黒澤はとにかく面が良い。
 筋肉質でゴツい俺と違って、こう……スタイルがシュッとしている。

 顔よし、スタイルよし、頭が良いときたら、逆になにすりゃモテないのよって感じ。


 ……実際のところ、口は悪いし、ぶっきらぼうだし、付き合いが良い奴じゃないので寄ってくる女の子に結構辛辣なんだけど。


 俺は、昨日・一昨日の出来事を、逐一真っ先に黒澤に相談した。というか、キャパシティオーバーで一方的に報告しちゃった。


 一昨日なんて調書が終わった深夜1時に、感極まった思いが爆発しちゃって


「黒澤ぁあああ! 蒼乃ちゃんに会えたぁあああっ!」


 って電話したら「何時だと思ってんだてめぇ」って露骨にキレられたけれど。


(朝方リダイヤルしてくれたんだよね。やっぱいい奴だと思う。キレてたけど)


 電話口で、

『『蒼乃ちゃん』って、お前が8年間気持ち悪い初恋を引きずっている、あの『蒼乃ちゃん』?』


「そう! めちゃくちゃイケメンな警察官になってた! すっげぇの! 自分よりでかいおっさんをぶん投げて取り押さえてさぁ!」


『男だったのか』


「ちっげーよ! 女の子だよ! お姉さんって何度も言っただろ!」


『イケメンの使い方を間違えてんだよ。お前の話じゃ、『将来の夢は教師』って言ってたよな?』


「そー、それな。会えたことが嬉しすぎて、その辺のことは聞けなかったんだよなぁ。つーか、すっげぇ忙しそうで、まともに会話なんかできてねーの」


 愚痴半分、報告半分。

 俺がほぼ一方的に「警察官の蒼乃ちゃんがいかに格好良かったか」を聞かせまくったその日、途中から

『もうお前、蒼乃ちゃんのところ言って来いよ。骨は拾ってやるから、デートにさそってこい』

 応援と言うか投げやりな感じで送り出された。


 そして本日


「日程決まってないけれど約束だけは取り付けてきた!」


 意気揚々と報告したところ


「スタートラインに立ったぐらいでドヤってんじゃねぇ」


 しれっと返されて今、である。全部正論っすわ……。


「で、実際どうなんだよ。脈は」


「……でっかくなったなぁって思われただけな気がしマス」


「まぁ、普通は近所のストーカーみたいなガキンチョが8年も片想いを拗らせ続けてるなんて思わないだろうしな」


「え、俺ストーカー?!」


「書道教室が終わるまで待ち伏せしていただの、遭遇率の高い図書館をうろついていただの言ってただろ」


 事実なんだけど……他人にまんま言われると確かに気持ち悪いな、俺。


「……なぁ、大人の女の人とデートってどこに行けばいいと思う?」


 黒澤は俺が広げたタウン誌を、神妙そうに覗き込む。あ、黒澤もあんまり自信なさそう。


「俺とお前が普段行くようなところを全部避けるしかないな」


 俺らが普段行くところ……。ラーメン屋、牛丼屋、うどん屋、焼肉屋……食い物ばっかだな。あとは、ゲーセン、ボウリング……こないだ釣り堀行ったっけ。


「あ、映画館」


「それは無難かもな」


「黒澤って彼女とどこデートしてたの」


「どっちかの家で映画見て、一緒にメシ作ったりする。遠出は……数えられる程度だな。お互いバイトが忙しかったし」


「へぇー……なんか落ち着いてる」


「その後フラれてるから、参考にするなよ」


「あ、そう……。いい線いってる気がしたのに……今更だけど『付き合ってない男を家にあげるな』がブーメランすぎてしんどい」


「馬鹿のくせに馬鹿なりに誠実に向き合おうとしたことはよくわかってるよ、馬鹿だけど」


「馬鹿言い過ぎぃ……」


「金も車もない大学生が『自宅』を使えなくなると、できることのふり幅が狭くなるっつーことが学べてよかったな」


 しこたま傷口に塩を刷り込まれた後。


「でも、お前の言う蒼乃ちゃんが明らかにチョロいお前をつまみ食い感覚で誑かすような奴じゃなくてよかったよ」


 ぇえ……そこでデレるの?
 そういう心配はしてくれるのね、黒沢くん……。


「蒼乃ちゃんに限ってありえないね! それにさー、警察官だよ? 倫理観がしっかりしている蒼乃ちゃんにぴったり……」


「誑かされてほしいお前がそれを言うのか」


「あ」


「つーか、今気が付いたけれど、相手の管轄内で会わない方がいいんじゃねぇの? 一応18歳成人を迎えていても、28歳と19歳って世間的に見て微妙だぞ」


 ……盲点だった。
 年齢の壁は、自分だけの問題だと思っていた。

 蒼乃ちゃんは大人で、しかも、信用がすべての職業。

 俺の存在が影響を及ぼす可能性だって、全くないわけじゃないんだ。


「……あぁ、そこを考慮すると、『お互いの家には行っていない』っていうクリアなお付き合いは後に好転するかもな」


「つ、つまり?」


「年齢差が気にならない状況に至るまで、長期戦でおとす、とか?」


 年齢差はどうあがいても縮まらない。でも、10代と20代では確かに字面が全然違う。

 ……20代と30代なら普通なのにな……まぁここまで来たら待てるけどさーーとはいえ。


「蒼乃ちゃんさー……めっちゃくちゃ美人だったんだよ……! 昔から真っ黒お目目がくりくりで肌が白くて『え? お人形さん?』って感じで異次元に可愛かったけれど、今はさぁ! なんかもうさぁ! 清楚の権化?! きれいすぎて何も言えねぇ~って感じ?! とにかく今フリーなのがただの奇跡なんだって! ここからぽっと出の男にかっさらわれるとか絶対無理! まじで無理! 今すぐ俺と結婚して!」


「それを聞くとお前が『ぽっと出の男』の可能性も否めねぇんだよなぁ……」


「黒澤はどっちの味方?!」


「応援はしてんだよ。骨も拾ってやる」


「望みが薄いみたいな言い方やめてー!」


 うるせぇ、と頭をひっぱたかれなければ、蒼乃ちゃんが「彼氏できたの」と俺に紹介する妄想が止められなかった。「結婚式に来てね」とか言われたらその場で吐くかも……。


 あぁー!
 ダメだ!
 ぜんっぜんデートプラン浮かばねぇ!


 少しでも男として意識させたいのに、できればすぐにでも付き合って欲しいのに、正直なにもかもが足りていない。


「デート先……ほ、本人に聞くのは悪手かな……?」


「……悪くはないと思う」


 あ、黒澤も自信ないのね。

 おーけー、Go●gle……『年上』『女性』『デート』『プラン』『本人に聞く?』で検索……。男二人でスマホを覗き込む光景って、どう見えたのかな。


「相変わらず仲がいいね」


 頭上から降りかかる女の子の声に顔を上げた。

「あ……櫻井……」

 ふわっと、なんかこう、女の子っぽい匂いがした。

 構内でよく見る流行りっぽいワンピースを着ている櫻井は学内の男子からかなり人気だ。「優吾、櫻井さんと付き合ってねぇの?! 紹介して!」って何度言われたことか……。

 俺は小、中、高、大と櫻井と付き合いが長くて、確かにすげぇ女の子らしくなったよなって思う。

 ただ……友だちの距離感で仲良く、っていう感じではない。

 最近は尚更。
 櫻井と黒澤の相性がよくないし。

 さすがに露骨に顔に出したりしないけれど、なんかこう、黒澤の空気感がちょっと濁ったのを肌で感じた。


「なになに? デートの特集?」


 櫻井が俺らが見ていた雑誌を覗き込む。

 うん、俺の方に距離が近いの、なんで?


「誰か相手でもできたの?」


 椅子を引っ張ってきて隣に座った櫻井は「ここなんか良さそう」とナイトプールを指している。おぉ~……パリピっぽい。


「こういうところって櫻井行ったことある?」


「ないない! だから行ってみたいなーって! どうせならさ、夏のうちに水着イベントしたいじゃん? 若いうちに」


 二の腕でぎゅって、胸のあたり寄せるの、目のやり場に困るんだよな……。困って黒澤に視線をやれば、ストローで氷つっついて遊んでいるし。


「水族館とかもいいよね~! 海は……暑すぎてアレだけれど、好きな人とならどこに出かけても嬉しいと思うな!」

「あー、そういうもん?」

「そういえば、この前プラネタリウムの特集も見たなー。すっごくロマンチックなの! 優吾くん、地味に星とか花とか詳しいじゃん?」

「や、星は『夏の大三角形』と『北斗七星』と、『かに座』しか見つけられん。あとあれだ、『オリオン座』」

「……それ詳しい方だと思うよ」


 櫻井はちょっとだけ表情を曇らせている。なにその反応。

 ちなみに、由来は全部蒼乃ちゃんだ。

 天体とか占いの本を読んでいた蒼乃ちゃんが子ども会の天体観測のイベントで教えてくれた。

 当時の俺は蒼乃ちゃんが7月2日生まれなので『かに座』を血眼になって探した。


 一瞬、はちゃめちゃに可愛かった当時の蒼乃ちゃんの顔がよぎって、そして櫻井に「なんで詳しいの」って言われなくて心底よかったと胸をなでおろす。


 同じ書道教室に通っていた櫻井は、もちろん蒼乃ちゃんのことを知っている。なんだったら、俺と蒼乃ちゃんの取り合いもしていた。

 でも、蒼乃ちゃんが引っ越しして以降、俺がいつまでも蒼乃ちゃんのことを好きでいることに、櫻井は少し意地悪なことを言うことがあった。

 以降、俺は櫻井の前で蒼乃ちゃんの話題を避けている。

 俺は同担オッケーなタイプだけれど、介錯違いは許さない派なのだ。


「ねぇ、どうかな? プラネタリウム。夏休み中さ、一緒に行かない?」

「あー……俺はちょっといいかな。絶対寝るもん」


 興味がないわけじゃないんだけれどな……。

 正直「今度遊びに行こうよ」みたいな社交辞令を異性とはしたくない。

 前に同じ教育課程の女の子から誘われて、「みんなで遊ぼう」の流れだと思ったら、待ち合わせには彼女しかいなかった。後に「デートしたのにどうして付き合ってくれないの?」と詰め寄られたときはマジで焦った。


 穏便な断り方をしたつもりが「蜂須賀君って思った以上に子どもだし、性格悪いよね」と言われたのは結構傷ついた。

 ……櫻井ともそういうこと、あったんだよなぁ。俺含めた男二人、女の子二人で課題やろうって誘われて、蓋を開けると二人っきり、みたいな。


「それで? デートは誰と行く予定?」


 こ、怖ぇ……なに、なんか眼が鷹っぽくない……?

 有無も言わさない詰め方に「えぇ……」って声が詰まった。

 言わないとダメなん?

 この前、調書を取られたときの警察官より怖いんですけど……。


「俺」


 あまり長くない沈黙をぶった切ったのは、まさかの黒澤。

「俺とこいつがデートする」


 一間、二間と空いた静寂の後……ちょっと惚れそうになったよね。だからモテるのか、お前は……!


「そ、そーそー! 本番のための予行練習? 的な?!」


「……それなら私でよくない?」


「それは櫻井に失礼だろ。女の子相手にそんなゲスいことしたくねーの! つーか、俺は黒澤きゅんとデートしたいの!」

「控えめに言ってキモイぞ、お前」

「ここで裏切るのなんでー?!」

「うるせぇ。そろそろ午後の講義始まるぞ。先行くからな」

「あ、ちょ……待って待って一緒に行く! じゃあな、櫻井!」


 ばっさばっさとタウン誌を片付けて、学食を後にする。逃げるように、っていう表現が最的確でさ……櫻井にはちょっと悪いことをしたかなって思った時だ。黒澤に尻を膝蹴りされた。

「いてぇっ! え、なになに急に」

「急じゃねぇ。……お前、いい加減あいつのことどうにかしろよ」

「えぇ……櫻井?」

「ほかに誰がいるんだ。思わせぶりなことしてんじゃねぇよ」

「してないだろ俺は!」


 せっかく大学に入学したんだから、と。誘われるままに参加した映画サークルに櫻井も同時に入った。

 最初のうちは飲み会だの映画鑑賞会だの、普通に緩く楽しんでいたんだけれど……女子の先輩たちがさ、露骨に俺と櫻井をくっつけようとしてくるの。

 恋愛リアリティショーの再現か? みたいなシチュエーションも作られたりして、正直かなりうんざりしていた。

 結果、サークルに顔を出さないよう避けまくっていたら男子の先輩からも「あれだけ好かれているんだから責任取ってやれよ」って詰められるし……。

 その後に「じゃあ、俺が貰っていい?」って言われたときは、まじでクソだなって思った。

 あんたも大概ろくでもないじゃんって。


「あのさ、黒澤……。俺、櫻井に『多分、櫻井の思いに俺は答えられんよ?』って伝えているんだよね……」

「……まじか」


 意外、という顔をされる。
 そうなのよ。

 告白されてもいないのに断るっていう、自意識過剰なことをやっているのよ、俺。


「お前にしては……バッサリいったな」

「うん」

「それで、……いや、それでもアレか」

「うん……!」

「それは……確かにどうしようもないな」


 そこから先は、お互いに微妙な空気になった。

 人から好かれることが嫌になる、なんてあまり口にしたくない。

 だってそれは、間違いなく贅沢な悩みだから。


 俺は普通の同級生よりも体格が良いし、それこそ黒澤に言わせれば『ゴリラ』だからさ。

 ちょっときつめに詰め寄るだけでも、女の子にとっては怖いと思う。

 ここだけの話、サークルの女子の先輩たちから詰められたときに「俺は櫻井に対してその気がないので」って少し苛立って口にしたら「怖い」って泣かれたんだよね。

 真顔の俺って迫力があるんだって。アレもけっこうキツかったな……。


 結局、『年上の女性との理想のデートプラン』が浮かばない俺は、バイト先で身近な年上の女性、宮下さんと、気にしなくていいのに「先日はお騒がせしました」と謝りに来たネイリストさんにその話題を振って……死ぬほどからかわれるに至った。

 見かねた店長から


「優吾、お前のアピールポイントは『料理』だ! 俺がもっと教えてやるからふるまってやれ」

と助け舟を頂いたのに

「店長。俺、馬鹿だから、その伝家の宝刀を自ら封印しちゃったんだ」

 瞬間的に泥舟に変えた俺は店長からも「アホか!」と言われることになる。

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