歳下で純情でちょっと×××な優吾くん〜わんこ系幼馴染から8年分溺愛されます⁉︎〜

麻梨

文字の大きさ
10 / 22

第9話 蒼乃⑥【合鍵と守れない約束と不穏な彼女】

しおりを挟む

 例えば、翌日も当たり前のように休日で

「今日は何する?」
「一緒に朝ごはんつくろっか」
「その後は映画でも見る?」
「もうちょっとベットにいようよ」

 こんな風に、好きな人と時間を気にせず、ゆっくりと過ごせたなら。

 それが、口頭でわざわざ約束するまでもない「恋人なら当たり前のこと」なら。

 私はこの先、「当たり前」を裏切り、「普通ではないこと」を失望させ続けることになる。

 シフト制とは名ばかりで、融通が利かず、夜勤が続き、休日返上も珍しくない。

 休みだけれど『待機』だから『召集』に備えて都内から出られないし、飲酒もできない。

 管轄内でデートしようものなら、同僚に職務上の関係者……事件関係者と関わってしまうこともあるだろう。

 朝も昼も夜も関係なしに電話一本で招集される私は、叶えてあげられない『普通』が多すぎる。

 優吾くんは私と……警察官の私と付き合うメリットって、あるのかな。


  ★


「……あ、いま、何時……!」

 浮上した意識は、刹那に覚める。

 咄嗟に時計を見た。時刻は7時15分。よかった、まだ間に合う。

「優吾くん、ごめん、起きて……」

 ぎゅう、と私にくっついていたぬくもりは、すごく愛おしく……けれど、あどけない寝顔にほだされてはいけない。

 声をかけつつ、着替える。制服は全て本署にあるので、華美でない服装で出勤するのが一般的だ。

 チノパンにシャツ、スポーツ用ウィンドブレーカー。支度に時間はほとんどかからない。今更だけれど、通勤時の私はなにを職業にしている人かわからないと思う。

 しばらく美容室にかかれていない黒髪を、低い位置で結わえたところで、優吾くんが眼を覚ます。……ポニーテールの方がオシャレだってわかっているけれど、帽子が邪魔になるので結び直さないといけないんだよね。

「おはよ……え、蒼乃ちゃん出勤……?」

 むにゃむにゃしてる優吾くん可愛い……え、眼をこすってるところとか、赤ちゃんみたいなんだけど……じゃ、なくて!

「おはよ。うん、仕事じゃないんだけれど、出勤なの」

「どゆこと……?」

 うん。ホント、その反応が全てだよ。
 意味わからないよね。

「通常点検っていう……なんていえばいいのかな。手錠とか拳銃とか、装備品に不備がないかを点検する儀式みたいな……」

 説明するのが難しすぎる。他の業界で言うところのなんなのだろう。朝礼? いや、朝礼のために出勤しないか……。

 三日後に本部の方が来訪されるため、今日からみっちり、全員参加で通常点検が行われる。集団行動命なので休日など関係ないのだ。

「勤務はないんだけれど、本署……警察署の方に行かなきゃなんだ。ごめんね、慌ただしくて……あ、そうだ、優吾くん服!」

 洗濯物、回してそのまま……。

「それは大丈夫、あの後干しといたから」

「……生乾きじゃない?」

「大丈夫、着られるって。一緒に出たほうがいいよね?」

 立ち上がった優吾くん。完全に全裸なの忘れてる……!

 ぱっと顔を背けたけれど……明るいところでみると、刻まれた筋肉の凹凸がくっきりと見えて、すごく、男の人なんだなぁって……。

 腹筋とか、鼠径部の、なんていうの、あの筋肉……。とにかく、すごくえっちなの……!

 ……昨日私、あの身体の優吾くんに愛されちゃったんだ……。

「あ、あの、えっと……今日、大学は……?」

「都合の良いことに午後に2枠で、その後バイト」

「じゃあ、服がちゃんと渇くまでうちにいてもいいよ」

「え?! いいの?!」

「だって、あの時間からの夜干しじゃ生乾きでしょ? 私、11時くらいに帰ってくるから、それまで自由にしていて?」

「……どうしよう。昨日から俺にとって都合の良いことしか起きないんだけれど」

 お言葉に甘えます! と元気のよい返事。
 うん……あのね。元気なのは良いんだけれど……。

「ぱ、ぱんつは、生乾きで履けないかもしれないけれど、その……タオルでもいいから、できれば、隠して……!」

「あ……ご、ごめん!」

 すごく、こう、男の子なんだなって……。

 慌ててバスタオルで腰巻きを作る優吾くんは「スカートってこんな感じかぁ」としみじみしている。

 それだけ聞くと変態っぽいよ、優吾くん……。

「戻ってこられる予定ではあるんだけれど……一応、合鍵渡しておくね」

「帰ってこられない可能性もあるんだ?」

「多いにある。めちゃくちゃある」

 思わず食い気味に言ってしまった。優吾くんは「すっげー嫌そうな顔」と笑った。

「蒼乃ちゃんでも、そんな顔するんだなぁ」

「……どんな顔してた?」

「んー、Gが目の前を横切ったみたいな、殺意と嫌悪が混じってる感じ」

「Gはひっぱたけば済ませられるけれど、事案はもっと後を引くから……」

「Gのがマシっていう人初めて見た」

 優吾くんは合鍵を見つめながら、嬉しそうにしている。
 あぁ……出勤したくない。

 家を出るリミットは8時。通勤ラッシュに辟易して、最近はロードバイクで出勤している。
 いつもより更に適当に準備を整え、「行ってくるね!」と声をかけた。

「昼飯、つくっとくね」

「え、でも……」

「帰ってこられなかったら夜にでも食ってよ。冷蔵庫に入れとく。ほら、急ぐと危ないから、気を付けてね」

 玄関の手前まで見送ってくれた優吾くんは「本当は外まで行きたいけれど、これだからなぁ」と腰巻バスタオルを指さす。……そうね、間違いなく通報されるね。

 ふいに、くいっと顎を取られ、上を向かされた。
 あ、と。気が付いたときには、唇が重なる。

「……行ってらっしゃい」

 優しく、でも、名残惜しむように、離れるキスは……少しだけ、色っぽくて、見送りのキスにしては意地悪だったと思う。
 それに、あんなに明るい声なのに、まるで捨てられた犬みたいに耳と尻尾が垂れているみたいな顔なんだもの。

「行ってきます……いい子にしててね」

 私からも、優吾くんのほっぺに唇を寄せて、家を出た。

「~~~~ッ!」

 どうしよう、めちゃくちゃ照れる……!
 絶対顔が赤い……!

 多分、ドアの向こうで、優吾くんも、同じ顔をしている気がする。

   ★

 結論からいこう。

 私は優吾くんに「ただいま」って言えなかった。

 通常点検は滞りなく終了し、さぁ帰ろうと意気込んだのちに、花苑交番管轄内で不審者の目撃情報が。

 最近、管内では室外機の窃盗の他、網戸の張替え業者を名乗る人物が事前に網戸を傷つけ「今すぐ張替えしますよ」と自作自演を行う事案が発生していた。

「普段は大人しいうちの犬が隣のお庭に向かってずっと吠えているものだから」

 110番してくれたご婦人は、お隣の縁側でカッターナイフを握りしめる男の後姿を見たという。

 不審者と直接対面することはなかったようだが、ご婦人は大層おびえていた。近年は、空き巣の警戒のみならず、大胆不敵な強盗が横行している。通報による報復を恐れるのは当然だ。

「巡回を強化します。なにか異変を感じましたら110番でも結構ですが、躊躇うようなことがありましたら、こちらでも対応致します」

 私は『警察官が巡回しました』と書いてあるパトロールカードを渡した。そこには花園交番の番号と、もよりの警察署の番号が記載されている。

「えっと、躊躇う、というのは……?」

「不審な電話とか、不審な車を見かけたとか……緊急時ではないけれど、不安になるようなことがありましたらご利用ください。些細なことでも結構です。これが花苑交番の番号です。もちろん、緊急時には110番で」

 ご婦人は

「お守り代わりに、目のつくところに保管します」

と、犬にもパトロールカードを見せていた。

「玄関近くにあると訪問詐欺の対策にもなりますよ」

「まぁお札みたい!」

 言い得て妙である。

 ちなみに、お隣の異変を察知したたいそう優秀なワンちゃんはポメラニアンだった。

 私にものすごく懐いてくれるのは嬉しいけれど……きみは番犬として戦わなくていいからね。危ないから。

 このように、午前中はまるまる潰れる。

 優吾くんにメッセージは送れたが、罪悪感は凄い。

「嘘つきは泥棒のはじまり」って言うけれど、警察官はよっぽど嘘つきだ。

 国民を守る職務のために、大切な人との約束を破ることなんてしばしばある。……どこの業界にもありえることなのかもしれないけれど、「時間が合わない」を理由にフラれる警官は少なくない。

 結婚後の生活のビジョンだって定まりにくい。土日が休めない職場は多くても、夜勤と休日出勤がプラスαなんて最悪。

 昨夜は宿直当番で、本日半日勤の予定だった榊くんもまた、表情は暗い。

「浅月も勤務時間外だよな」

「うん……どこかで振替……」

「無理だろ」

「だよね」

 食い気味に会話できちゃうんだな。

 通報を受けたら急行、現着、検証、聞き込み……それで終わりなわけじゃない。

 詳細を説明したらきりがないけれど、機動捜査隊との連携とか、報告書のまとめとか、近隣に子どもの施設があるときは特別警戒するとか、状況に応じて発生する業務は多岐にわたる。

 だから、私達は「今日は長引くぞ」という嗅覚に非常に敏感だ。

 そして

「この後、何かある気がする」

「……やめてよ」

 ヤマ感、と言っていいのかな。

 榊くんの「嫌な予感」は良く当たる。
 ……鍛えられた能力なのか、引き当てる能力なのかは不明だけれど。

 とはいえ、まさか

「30歳に近い警察官が19歳の大学生と付き合うって、職務的にどうなんですか?」

 落とし物を探している、と言って訪れた女子大生が、最初から私を攻撃するためだけに訪れるなんてことは、誰も想像できなかったと思う。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

ハイスペックでヤバい同期

衣更月
恋愛
イケメン御曹司が子会社に入社してきた。

腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~

有木珠乃
恋愛
両親を亡くし、二人だけの姉妹になった一ノ瀬栞と琴美。 ある日、栞は轢き逃げ事故に遭い、姉の琴美が務める病院に入院することになる。 そこで初めて知る、琴美の婚約者の存在。 彼らの逢引きを確保するために利用される栞と外科医の岡。 「二人で自由にならないか?」を囁かれて……。

DEEP FRENCH KISS

名古屋ゆりあ
恋愛
一夜を過ごしたそのお相手は、 「君を食べちゃいたいよ」 就職先の社長でした 「私は食べ物じゃありません!」 再会したその日から、 社長の猛攻撃が止まりません!

禁断溺愛

流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。

不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました

入海月子
恋愛
有本瑞希 仕事に燃える設計士 27歳 × 黒瀬諒 飄々として軽い一級建築士 35歳 女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。 彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。 ある日、同僚のミスが発覚して――。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...