17 / 22
【R18】第16話 蒼乃⑨【筋肉と誘惑と人間不信】
しおりを挟む「……なにか、あったんだね」
「……いろいろあって人間不信になりそうでした。いや、あれは人の皮を被ったばけものだったかもしれない」
「そっか……こわかったね」
「こ……わかった、です。うん、すげえ怖かった」
「素直でいい子。おいで」
「もういるぅ……!」
あは! そりゃそっか!
私の胸に頭を寄せて、ぐりぐりと甘える優吾くんの頭を撫でた。
柴犬みたいな髪質、前より硬くなったかも。
思いっきり息を吸い込む気配がする。「癒されるぅ」って言いながら、谷間で深呼吸するのはやめてほしい。あと胸を寄せて顔でぱふぱふしないで。
「蒼乃ちゃん、いまのめちゃくちゃイケメン」
「そうかな」
「格好いい、好き、抱いて」
「もう抱いてる」
「うん、顔が幸せ」
「ばか」
IQ3くらいの会話で、くすくす笑いながら、互いの温度を確かめ合う。
今日も今日とて暑いのに。
くっついていたら、汗かいちゃうのに。
一縷の隙間も許さない距離感に、甘え合う幸福に抗えない。
「電話はいっぱいしたけれどさ……やっぱり直接会うのはちがうね」
「次の約束が定まらない上に、電話一本で仕事に行っちゃう女は嫌?」
「『構ってもらえない』が理由で嫌いになるような軽い男じゃないでーす。でも、寂しいことには変わりはないから、日本中の悪い奴らが一斉にいなくなっちゃえばいいなってまじで思ってまーす」
「だいぶ無茶言う……」
「だってさぁ、警察官が暇を持て余す世界になったら蒼乃ちゃんはずっと俺といちゃいちゃしていられるよ?」
「あはっ! 全方面に理想的だ! そんなに平和になっちゃったら、残るのは交通課とか生活安全課の仕事くらいかぁ」
「あー、犯罪関係なく事故は起きちゃうもんね……。蒼乃ちゃんは、俺と会えない間に何かあった?」
「逮捕術訓練中に左のほっぺ殴打しちゃったんだけれど、口の中で歯が刺さってひと針塗ったくらいかな」
「大怪我じゃん!? なにそれ当日に教えて!?」
「当日は私も気が付かなかったんだよねぇ……」
「そんなことある!?」
でっかい口内炎だなぁくらいに思っていたんだけれど、榊くんに「口内炎は出血しねぇから!」って歯医者に連れて行かれたんだよね。……その帰り道に櫻井葵乃ちゃんが中年男性に絡まれているのに遭遇したので、何事も必然だなって感じだ。
「口の中、見せて」
「え、やだ」
「なんでぇ!?」
「なんか、恥ずかしい……」
「もういろいろ見ているのに!?」
「ばか!」
優吾くんって、優しくて、気遣いができて、頼りになるし、頼ってくれるし、甘えたなところが可愛いけれど……思ったよりえっちだ。
私達のスケジュールは相性が良くない。
警察官と大学生。
一見して融通が利きそうだけれど……蓋をあければ、三交代勤務+残業、休日拘束のオンパレードの私と、学生業+居酒屋のバイト+学童補助員をこなす優吾くん。
大学が夏休みに入り、学童補助員のバイトを週4で入れた優吾くんは、司書免許講習もあるそうで……しっかり勤労学生している。根が真面目だよね、本当に。
だから、こうして顔を合わせてーーお家デート、というやつを堪能しているのは、実に3週間ぶりだった。
……というか、優吾くん……君は3週間前のデートでは手が触れ合っただけで顔を赤くしちゃうくらい純度100%だったのに、今や私の胸を顔面で楽しんでいるとか距離の詰め方にびっくりだよ。
私は以前、友人の紹介で会食の機会があった男性に「時間の融通を利かせる気がないですよね」とフられた経験がある。
だから、優吾くんに時間のすり合わせができないことを電話口で謝罪したときは戦々恐々だった。
「8年、会えなくても一途に思いを募らせた俺にそれ言う?」って食い気味なパワーワードが返ってきたんだけれど。
ちなみに、優吾くんは多分、合鍵を返す気がない。
ちゃっかり自分の家の鍵と一緒にされているのが見えてしまった。小狡い一面もちゃんとあるんだね。
今日、優吾くんは部屋に来るなり、開口一番
「……待てるし、待つし、会えないが理由で冷めるとか絶対ないけれど……やっぱり蒼乃ちゃんが足りない。俺、この8年間どうやって生きてきたのかわかんなくなった」
玄関先で私に抱きつく優吾くんは、電話口で私を勇気づけた人とは別人みたい。
おいでって両手を広げてあげると、大型犬よろしく抱きついてきて……。
毎年引越しの可能性がちらつく職業なので、私は大物の家具を購入することに慎重派だ。よって我が家のソファは一人用。
優吾くんとは……ベッドの上でじゃれあっている。
「蒼乃ちゃんは、人間不信になりそうだったこと、ある?」
「あるよ。何度も」
「何度もあっちゃダメだろ……教育実習の件とか?」
「そうだねぇ……それ以前に、親がアレだし……」
「あぁ……蒼乃ちゃんって人生ハードモードだよね……」
「そうでもないと思うけれどなぁ」
私はわりと考え方がシンプルなのだ。だから回復が早い。それに、
「今は、優吾くんがいるからちゃんとメンタルリフレッシュできているもん」
照れくさくて、へへって笑ったら、優吾くんがシャツの裾から手を侵入させる。
背筋をわざとゆっくり這う快感に、息が詰まった。
「あぁっ……んっ……!」
ぷち、と。
下着のホックを外された。
支えをなくした胸が、ふるりと揺れて、シャツ越しにカップをずらされてしまう。
「……ムラっときたんで、脱がしていい?」
「揉みながら、言わないで……!」
自身の服を雑に脱いだ優吾くんは、相変わらずの肉体美。
深い溝をつくる胸筋に触れると、くすぐったそうに眼を細める。
「優吾くんって、身体、ずっと鍛えていたの?」
「……一応」
なんか、含みある言い方と言うか、眼を反らすの、なんで?
優吾くんはたっぷり眼を反らしてから、口ごもって、続ける。
「……高校の、二年かな。……いや、去年もかも。俺さ、どんなに運動しても体力が有り余っていて……ぶっちゃけそっちの欲も強い方っぽくて」
うん、真面目に説明してくれるのは嬉しいんだけれど……ずっと、胸、さわりっぱなし……。
「他の女の子にグラつきたくないから、むらむらしたら筋トレしてました」
わ、わぁ……。
それって健全なのか、どうなのか……。
「ちなみに、大学のダチにそれ言ったら『純情ゴリラ』ってあだ名になった」
「言い得て妙だね」
「蒼乃ちゃん、引いてない? もっとこう、シュっとしている男のがいい?! 筋肉落とす?!」
「引いてない引いてない! 落とさないでいい! ……こことか、ちょっとえっちだなって思っちゃった……」
する、と。
盛り上がる外腹斜筋に指を這わす。
その下の、腹筋と、脚の付け根に繋がるところ……鍛えていないと存在しない身体のくぼみは、どうしようもなく色っぽい。
女の人を誘惑する身体、だと思う。
優吾くんの表情はわかりやすい。
眼の奥がどろりと熱を持って重たくなる瞬間は獣のように雄々しくなる。
……暴走しないように理性を繋ぎ止めて、歯を食いしばり我慢している顔が扇情的で愛おしいなんて、私は酷い奴だろうか。
(もっと、見たい)
私に触れられて、欲望に揺れる優吾くんを。
私は手のひらを胸元に滑らせ、優吾くんの筋肉の窪みに指を這わす。
「ん……!」
ぴく、と。
眼を細めて……くすぐったいのか、それとも……。
男の人の、大人しく愛られる姿が、下腹部をわななかせるようにきゅんとしちゃうなんて知らなかった。
「……プール行くときは、ラッシュガードとか、着て欲しいな」
「え?!」
「優吾くん、恰好いいんだもん」
私だって、気が気じゃない。
若くて可愛い女の子が、彼の周りにはそこいらじゅういるのだから。
「ワァ……エッ……ワァ……」
「……それ、どういう表情?」
「感動してる……っ! 身体、鍛えておいてよかった……っ! ゴリラでよかった……っ! 蒼乃ちゃんが嫉妬してくれる日が来るなんて……ワァ……」
優吾くん……私のこと、なんだと思っているんだろう。
感動(と、本人は言っている)で、震える優吾くんに、「集中して」ってキスをしかけたら、今度は涙目で喜ぶ。口もと、にやけているし。
……この前、キスが下手って言われたの。気にしているんだからね?
たっぷりの時間をかけて、優吾くんの腰がゆらめく瞬間を観察する。
私は上顎を舌先でこちゅこちゅと擦られるのに弱いけれど、優吾くんは舌を絡めて、吸われるのが好きみたい。
上がる息が煽情的で……彼の興奮が伝わる。
営みのはじまりが、揺蕩うように幸せだなんて……彼としか経験できないことなんだろうな。
それでも優吾くんは
「今日も挿れない」
最初に宣言した。
「……私、もう大丈夫だと思うよ」
身体の奥が、切なく疼いている。
じれったさを感じるほどに、貪欲になれた私は、優吾くんだったら絶対に大丈夫、だと思うのに。
「ん……でもさ、絶対痛くしたくねぇの。もっと、蒼乃ちゃんにとって、気持ち良いことだけしたい」
「……優吾くんは、辛くないの?」
「ぶっちゃけ、前回はめちゃくちゃ気張りました。だから、今日は……ここで、俺に触って欲しい」
するりと、腹部の下、柔らかい秘部をなぞる。
触る、の意味がわかっていなかった私は、このあと、信じられないくらい恥ずかしい体制で、彼にすべてを晒してしまうことになる。
★
「あぁっ! ん、う……ゆ、うごくんっ、それ、やだぁっ!」
「ん……ぁ……! 痛い? キツいなら、体制、かえる……」
「そうじゃな……あんっ! ぞわぞわって、きちゃうからぁっ!」
「はは……気持ちいいんだ? じゃあ、止めてやれない。俺も、スゲー気持ちいい……はは、くっつけてるだけでも多幸感やばい……ッ!」
脚を大きく開かせて、ひと際敏感ではしたない……濡れに濡れた秘部を晒して、そこに宛がわれた優吾くんの剛直。
太くて大きいそれがぴったりとくっついて……あまりの熱さに身体が跳ねた。
秘部越しに伝わる、ずっしりとした質量は凶悪なほど逞しい。そこに詰まる欲望を、今にも吐き出したいだろうに、優吾くんは眉間に力を入れて耐えている。
耳を塞ぎたくなる音。ひくひくと切ない中心部の入り口を、ぐちぐちと音をたてて嬲られる。溺れるみたいに、嬌声しか出てこない。
……挿入が困難な私は、この性戯に至ったことが初めてではない。
けれど、たっぷりの愛液に塗れて、火傷しそうな温度にうっとりしながら、ぐちゃぐちゃにされる快感に酔いしれるなんて味わったことがない。
「ああっ、あんっ! も、蕩けちゃう、からぁっ!」
この日もまた、優吾くんは私の身体をたっぷりと愛してくれた。
前回教え込まれた甘い絶頂は、私の肉体に強く刻まれている。それを詳細に再現する触り方は、苦しい程に気持ち良い。
快感を一度でも覚えると、「また、あの気持ちいいのがくる!」って、身体が期待してしまうから、殊更に弱くなるものらしい。
敏感な突起は優吾くんの舌に歓喜して、貪欲な中はきゅんきゅんと指に甘えた。自制なんてできなかった。
優吾くんは、じっくりと私の顔をみて、弱点を執拗に責めてくる。
擦って、つまんで、舐めて、吸って……。
「可愛い」「大好き」「気持ち良い?」「感じているところ、すごいそそる」「もっと気持ち良くなって」「上手」「可愛い」「大好き」……。
褒めて、讃えて、愛でて、甘やかし……はしたない姿に興奮してくれる。
自分がどろどろになっていく感覚が、こんなにも幸せだったなんて。
優吾くんに触れられなければ、きっと一生知らなかった。
あんなに怖かった、男性の欲望の象徴のような肉棒すら、優吾くんのものなら愛おしい。
……数分前。私は、一糸まとわぬ優吾くんの、聳え勃ったそれと対峙した。
本当に人体の一部なのかと疑うような、明らかに筋肉の塊とわかる肉質。腹筋にくっつきそうなほど、硬く聳える太い竿は、ぼこりと血管が膨らんでいる。
悩ましいほどにずっしりしている剛直の、赤ちゃんの拳大ある亀頭はずんぐりと大きい。
……なんていうか、人好きする笑顔の、人相の良い優吾くんとは似ても似つかない凶悪さ。
(これ、挿入るの……?)
おそらくは一般的なサイズの、あの人と上手くいかなかったのに?
覚悟を固めたはずの身体がこわばる。
下腹部に引き攣るような痛みを思い出した。
裂かれるような痛みと、内臓を押し上げられる吐き気は……殴られたり叩きつけられたり、おおよそ他の女性が局面することがない状況を経験しているのに、それを上回る恐怖の対象だった。
「……ごめんね。小さくしてあげられなくて」
申し訳なさそうに、眉を下げる優吾くん。
そんな無茶、言うわけないでしょ。
「……触ってもいい?」
「は……あ? え、あ、うん! 怖くないなら……」
恐る恐る、手を伸ばす。
皮膚の張り詰めたそこは、柔らかいけれど硬いという、不思議な感触だった。
ぴくん、と大げさに跳ねるのが面白くて、先っぽの窪みとか、傘の部分を撫でると
「……ぁッ……!」
小さく、息を詰める姿が愛おしい。
「き、気持ちいい?」
「……正直に言っていい?」
「うん……」
「めちゃくちゃくすぐったい」
「……下手でごめん」
「へへ……器用なのに、蒼乃ちゃんでも苦手なことあんのね」
優吾くんは嬉しそうに眼を細めて……。
「でも、蒼乃ちゃんが触ってくれているんだって、すげぇ興奮する……」
とろん、と。
うっとりした表情で、熱っぽく息を吐き、私の手をとって
「こことか、もっと、ぎゅってできる?」
気持ちいいところをおねだりする様は、他の誰も見たことがない姿なんだって。
そう思うと、胸の鼓動が加速する。
本当に痛くないの? って、心配になるような強さで、指に力を込める。
「あッ……つ……蒼乃ちゃ……っ」
びくんって、優吾くんの顎が上がった。
「ごめん! 強い?!」
「ちが……いまの、もう一回……そのまま擦って……」
上がる息に合わせて、上下する。
別の生き物みたいだと思った部位は、ずっしりと重たいのに、私の手に懐くようにどくどくと脈を打つ。
歯を食いしばる優吾くんは、眉をひそめ、目を閉じ、そして
「ごめん、すげぇ気持ちいいんだけれど……蒼乃ちゃんに触りたいの、我慢できねぇ」
「……私だって、優吾くんのこと、気持ちよくしたい……」
挿入に至れなくても、身体の部位を使うことで、男の人を気持ちよくする方法は知っている。
口元にかかる髪を耳にかけて……私の意図を、優吾くんは察したのだろう。
「ごめん、興味がないって言ったら完全に嘘なんだけれど、今は、俺にさせてほしい。俺のすることに、集中して?」
彼の、優しいキスが好き。
激しく貪るような、深いキスも大好き。
私の好きなことを、全部教えてくれた優吾くんは、はしたない蜜壺に指をにゅぽにゅぽと突き立てて……。
「ん、ふ……あぁっ」
上擦った、甘ったるい声に耳を塞ぎたくなる。
彼に触れられるところ全てが、甘く痺れて、蕩けるように熱い。
じわりと広がる心地よさがどうしようもなく怖いのに、身体は「もっともっと」って、従順に強請ってしまう。
「もっと聞かせて……蒼乃ちゃんの声、めちゃくちゃ可愛い」
ちゅう、と。
音を立てて首筋に吸いつく。
ちくん、と広がるわずかな痛みは、皮膚から肉へ、ひたすらに淫靡な刺激を与えて、どろりと子宮を重たくさせた。
「や、あぁっ……! 痕つけないで……あっ……!」
媚びた声が喉から溢れ、びくりと跳ねる身体を制御できない。
「素股、させて?」
逃げられないおねだりに、頷く私は、もう、ずっと彼のことしか見えていない。
陰核を露出させるように、陰唇を持ち上げて、外気に触れる……。
「あぁっ……」
恥ずかしいのに、気持ちいい。
エラの張った雁も、浮き出た血管も、長いストロークですれ合う度に、とろりと欲望が溢れてしまう。それにぬるぬると塗れる彼自身はさらに欲を昂らせ……ぐちぐちと淫猥な水音が部屋に響くから。
「蒼乃ちゃん、マジで可愛い……」
うっとりと、悦楽に浸る優吾くんが、あまりにも色っぽくて、きゅんきゅんと身体の奥が疼いてしまうの。
「あんっ!」
「あー……こりっこりで気持ちいい……」
優吾くんは角度をかえて、雁で私の陰核をひっかけるように、執拗にこする。
気持ち良すぎて腰をへこへこと逃がしてしまう私を、胸の頂をきゅうっと摘まんで叱るの。
「あぁっ! いま、胸ぇ……っ」
痛いくらい引っ張られるのも、指先でほじられるのも大好きになってしまったそこは、背を弓なりにして喜んでしまう。
「あぁああっ!」
恥ずかしいのに。
はしたないのに。
優吾くんの剛直に秘豆を擦り付けて、自ら腰をかくかくと振ってしまう。
敏感な場所を擦り合う、原始的な行為が、こんなにも激しい快楽で身体を犯してくるなんて。
「い、きそう……! 優吾くん、も、私……!」
甘えた声で縋り付けば、抱きしめて、キスをして、特別強く密着して……。
「俺も、イキそう……!」
セックスそのものみたいな、強くて深く、奥を捉えたがるピストンは、私に激しい快楽と甘い痺れを教え込み、優吾くんの欲望を浴びるまで続いた。
何度も何度も気をやりそうになりながら、私は深くて逃せない絶頂のよりどころを探していた。
最後までしない、と。
彼は約束してくれた。
私の覚悟が決まるまで、いくらでも待つと。
けれども……大きな手のひらに愛されて形をふにゅ、と変えてしまう胸も、刺激に従順すぎてふくりと腫れてしまった秘豆も、切なくひくつく恥ずかしいぬかるみも……
舐められて、擦られて、とびきり愛されて
そこで止められてしまうことが、愛情なのか試練なのか、快楽に沸いた頭では判断がつかない。
「蒼乃ちゃん……可愛かった……もうちょっと、くっついて」
一ミリの隙間も許さないように、膝を跨がせられ、抱きしめられる。
座って対面すれば、彼の身体がいかに逞しく鍛え上げられたのかを全身で感じる。
(あったかい……)
盛り上がった胸筋は、ビジュアルに反して意外と柔らかかった。
力を入れていない筋肉って、こんな感じなんだ……。
ドキドキするのに、安心感が勝ってしまうのは何故なんだろう……。
この身体がその気になれば、私なんて簡単に組み敷いて、好きなだけ弄ぶことができるのに。
彼は私に、そんなことはしない。
「蒼乃ちゃん、ぐったりしているところも可愛い……ね、キスしよ……顔あげて」
重なる唇の心地よさに腰が重たくなっていく……ふにふにとはまれるのも、舌が絡み合うのも、上顎を舐められるのも、堪らない。耐え難いほど、気持ちいい。潤みきったぬかるみが、またはしたなく疼きだす。受け入れたくてたまらない奥がきゅうきゅうと切なく彼を求めてしまう。
「気持ちいい?」
「ん……」
うまく返事ができなくて、角度を変えキスを深くしても
「言葉で伝えて」
欲しいものが与えられるまで繰り返される。
私を射抜く雄々しい彼は、どこまでも優しく、けれども煽るように甘えるの。
私は、この眼を知っている。
ずっと、ずっと前から、私の熱をどうしようもなく掻き立てる、捕食者の眼。
脳裏で、8年前の記憶が、炎のようにゆらめいた。
「蒼乃ちゃんのことが好き。ずっとずっと、大好き。……俺さ、これからいい男になる。絶対、蒼乃ちゃんに相応しい男になるから……だから、大人になったら、俺と結婚して』
心と身体がばらばらになるほど、気持ちよくてたまらない快感を、まさか、彼に教えられる日が来るなんて……8年前の私は想像もつかなかっただろう。
集中して、と。
少しだけ唇を噛まれた。
考えているのはあなたのことなのに。
よそ見もできない程、あなたに夢中なのに。
「答えて、蒼乃ちゃん……。蒼乃ちゃんは今、誰に触られて、気持ちよくなっちゃうの?」
2
あなたにおすすめの小説
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~
有木珠乃
恋愛
両親を亡くし、二人だけの姉妹になった一ノ瀬栞と琴美。
ある日、栞は轢き逃げ事故に遭い、姉の琴美が務める病院に入院することになる。
そこで初めて知る、琴美の婚約者の存在。
彼らの逢引きを確保するために利用される栞と外科医の岡。
「二人で自由にならないか?」を囁かれて……。
DEEP FRENCH KISS
名古屋ゆりあ
恋愛
一夜を過ごしたそのお相手は、
「君を食べちゃいたいよ」
就職先の社長でした
「私は食べ物じゃありません!」
再会したその日から、
社長の猛攻撃が止まりません!
禁断溺愛
流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。
不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました
入海月子
恋愛
有本瑞希
仕事に燃える設計士 27歳
×
黒瀬諒
飄々として軽い一級建築士 35歳
女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。
彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。
ある日、同僚のミスが発覚して――。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる