婚約継続中なのに逃亡?元悪役令嬢、勘違いで癒しカフェ開店中

しずく葉

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44. 未来を託すものとして

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春の陽射しが、城の白い壁をやわらかく照らしていた。
中庭の桜はすでに散り始め、花びらが風に乗って空を舞う。

玉座の間に続く廊下を、アレクシスは静かに歩いていた。

――あの日、《café fuu》で交わした約束。
それを果たすために、今ここに立っている。

彼の表情には、もはや迷いはなかった。

向かう先は、王と弟・ユリウスの待つ謁見の間。

「兄上!」

開かれた扉の向こうから、ユリウスが真っ直ぐに駆け寄ってくる。

「ああ、ユリウス。待たせたな」

アレクシスは笑みを浮かべながら、弟の肩に手を置く。

「父上には、僕から伝えた。君を正式に王太子とするように申し入れた」

「……本当に、いいんですか? 兄上が継げば、誰も異を唱えることはないのに」

「君なら、もっと自由な風を吹かせられる。僕にはできないことを、君ならできる」

ユリウスはきゅっと唇を結び、静かにうなずいた。

「……その期待に、応えてみせます」

アレクシスは一歩引き、王へと頭を下げる。

「陛下。王太子には、弟ユリウス殿下を推挙いたします。そして私は、その補佐に回ることをお許しいただきたく」

老王はしばし沈黙し、やがて深くうなずいた。

「……よかろう。アレクシス、お前がそう申すのなら、ユリウスに託してみよう」

その言葉が場を静かに支配しかけた、まさにその時――

「――お待ちくださいませ、陛下」

厳かな声が響いた。
文官長、ヴァレンティン卿が一歩進み出る。

「いかにアレクシス殿下のお言葉とはいえ、王太子の座をこのように早急に決めるのは、あまりにも――」

「ヴァレンティン卿……?」

老王が眉を寄せる中、ヴァレンティンはひざまずいたまま続ける。

「我らは長年、アレクシス殿下こそがこの国を導くお方と信じてまいりました。
そのお方が継がぬとあらば、いったい誰を、何を信じて王太子とお認めすればよいのでしょうか」

その言葉に、騎士団のカミルも顔を伏せたまま低くつぶやく。

「……正直なところ、若殿下に命を預ける覚悟ができておりません」

ユリウスの表情がわずかに曇る。
だがアレクシスは、一歩も退かなかった。

「……それは想定していました」

ゆっくりと視線を巡らせ、静かに言葉を紡ぐ。

「だからこそ、今こうして、皆の前で申し上げたいのです。
私は王太子を退きます。そして、それでも私を信じてくださるのであれば――どうか、ユリウス殿下の力となってください」

「……!」

「彼は、私とは違う。だがその違いこそが、これからの王国には必要なのです」

アレクシスの言葉に、場の空気がわずかに変わった。

老王が再び口を開く。

「……ヴァレンティン、カミルよ。信じるべきは血か、器か。
それを見極める目を、お前たちは持っていると信じておる」

沈黙の中で、アレクシスは静かに立ち尽くしていた。

――この国の未来のために。
――そして、クラリッサとの約束を果たすために。

物語は、静かに動き始めた。



* * *

最後までお読みくださ李、ありがとうございました。
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次のお話も、あたたかな気持ちでお迎えできますように。
またのご来店、お待ちしております🌿
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