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(「そうね、あれは確かロベリアがエルムと婚約した時だったわね」)


私が16、彼女が14の時に従兄弟であるエルムとロベリアの婚約が整った


エルム・ロータス

母の弟の息子にあたるエルムは私の1つ上の従兄弟だ
母の弟である叔父様は体が弱く、当主としての役割を果たせないと言う理由で母が侯爵家を継いだ
体の弱い叔父様は子が望めないと医師に言われていたが、ロータス侯爵家の地方領地に療養生活を過ごしている時に恋仲となったメイドとの間に奇跡的に子供ができた


それがエルムだった


ロータス家の直系子孫になるエルムは生まれて3歳で母の下に養育に出され今までずっと次期当主として教育を施されている

そんなエルムが婚約者として選んだのがロベリアだった


入婿当主の私生児であるロベリアの立ち位置は難しい
ロベリアが貴族に嫁ぐとなると良くて後妻、もしくは平民でも裕福な部類に入る商家が限界だ


ロベリアの未来を心配してなのかは分からないがエルムは母や祖父母の反対を押し切ってロベリアを婚約者へと指名した


次期侯爵夫人となったロベリアに母は渋々ながら教育を行い出した


しかし、今まで自由気ままに生きてきたロベリアにとってその教育は苦痛だったのだろう

何度も授業から抜け出していたそうだ
そして、その時から彼女の我儘に拍車がかかった
あれが欲しい、これが欲しい、これは嫌、あれが良い


自分の思い通りにいかないと癇癪を起こすなど随分と教師陣たちが頭を悩ませていると言っていた


そんな彼女が突然急に変わってしまっていたことは喜ばしいことだが、あまりの変貌に正直驚きの方が強い


「明日のお茶会で何かわかるかしら」

ぽつりと口から溢れた言葉は静かな室内に溶け込んでいった




ーーー



「御機嫌ようロベリア」

「ご機嫌ようリリスお義姉様」

我が家には家名の通りロータスの花々が咲き誇る庭園がある
庭の半数以上が沼地であったこの場所を先祖たちが整備し、ロータス侯爵家の名物といえばこのロータス庭園と言われるほどの名所になっている

もちろん屋敷の敷地内なので実際の観光名所ではないが、我が家に要人の方をお招きした時や、母が開く茶会では必ずこの庭園が使われる


(「お母様よく、ここを使わせたわね」)


つまり、ここの庭園は当主ーー今は母になるが、その人の許可をもらわない限りは使えない場所なのだ

ロベリアはそこをお茶会の場所として指定してきた

「リリスお義姉様、テーブルまでご案内致しますわ」

「え、ええ。ありがとう」

庭園の入り口に待ち構えていたロベリアにそう言われ庭園の中に足をすすめる

沼地だとは思えない程整備され、ロータスが所狭しと植えられている庭園はいつきても圧巻の一言だ

「さあ、リリスお義姉様はこちらに」

「ありがとう。…あら、エルム?」

庭園の真ん中に位置する四阿の中にいたのはロベリアの婚約者であり私の従兄弟でもあるエルム本人だった

私と同じロータス家特有の銀髪を持つ彼はその見目麗しい顔立ちと次期侯爵という立場から社交界でも人気の青年だった

私の姿を見てエルムはすっと立ち上がりコツコツとこちらに向かって歩き出した

「久しぶりだね、リリス。いや妃殿下と呼ぶべきかな?」

「まだ成婚式が終わってないからリリスでいいわよ」

「そうだね。でも誤解されたくないし、アマリリスと呼び直そうかな」

「好きにして」

3歳の頃から我が家で暮らしているエルムは従兄弟といえどほとんど兄妹のように育ってきたため、私のことを愛称で呼ぶ。れしかしそれも成婚式を終えたら呼ばれることのなくなる愛称だ

「エルムもいたのね。てっきりロベリアと2人だけかと思ってたから」

「僕がいることを伝えてなかったのリア?」

「あっ…その、リリスお義姉様を驚かそと思って」


私の横に立つロベリアに視線をスッと向けたエルムは普段私と対峙する時には見せない冷ややかな視線をロベリアに向けていた

冷ややかな視線を向けられたロベリアはなぜか恍惚とした瞳でエルムを見返している

(「え、どうして?どっちかというとロベリアがエルムを避けてたはずなのに」)

ロベリアのあの恍惚とした瞳、ほんのりと赤らんでいる顔

(「まるで、恋、してるみたいね」)

2人の関係に違和感を感じつつもエルムのエスコートで準備された椅子に座った


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