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しおりを挟む「え、私勉強なんてしたくありません…」
手元にあった資料がぐしゃりと捻れた
(「いけない。いけない。しっかりするのよシャーロット」)
王妃様からお願いされアイシラ様の教育を始めるためにそこそこの資料を持って王女宮に来た私はアイシラ様のその言葉に全身の力が抜けそうになった
ボロボロとクッキーの食べかすを床にこぼしながらアイシラ様は「勉強はしたくない」とはっきりと言い張ったのだ
「……王女でも、貴族の娘でも必要最低限は学ばなければなりません」
「え…でも女性は結婚したら家にあるだけでいいんでしょう?貴族はそうだってきいたもの…」
話と違うわ…と何故かしょんぼりしながら打ちひしがれているアイシラ様に私は頭を抱えた
さて、どうしたものかと思案しているとアイシラ様が突然ぱあっと笑顔になり私に近づいてきた
「シャーロットさんってフィルナンド様の後ろにいた方よね?!フィルナンド様とはどういう関係なの?!」
「きょ、教育係です…」
矢継ぎ早に質問攻めしてくる彼女に引きながらも私はなんとか声を出した
それにしても私のことをシャーロットさんと呼ぶのね…
「教育係…婚約者ではなくてですか?」
「はい。婚約者ではありません。私はブルジョワ階級ですから殿下の婚約者には慣れませんよ」
「へー、そうなんだ。歳は?」
「……25歳になります」
「なーんだ、全然敵じゃないわね」
心配して損した!と、急に言葉が崩れた彼女を私は目を丸くして見つめた
「25歳っておばさんよね~それならフィルナンド様もとられる心配はないわ!むしろ、私に協力して欲しいぐらい!」
「アイシラ様、なにをおっしゃって…」
くるりと回りながら一人でうんうん、としているアイシラ様に声をかける
勢いよく私の方を振り返り、ビシッと指をさしてきた
「私とフィルナンド様との仲をとりもって!!」
この時私はいかに自分が人を見る目がないのだと痛感した
天使のように振る舞う彼女の中身がカロリーナ様達も手を焼くほどの女狐だったと知るのはまだまだ先のことだ
ーー
「アイシラ様…殿下はお忙しいのでお引き取りください」
「いやよ。どいて、邪魔」
あの日から何日が経っただろうか
まともな授業をすることもなくアイシラ様は私から逃げ回っていた
正確にいうと私の授業からだ
(「猫をかぶるのも上手いなんて…見誤ったわ」)
どうやら本性を出しているのは私の前だけなようで他の教師陣からは大変素晴らしいと評価を受けているそうだ
その反動なのか、私を見下しているのか定かではないが、彼女は今日も今日とてフィルナンド殿下の元に私の授業をほっぽり出してやってきていた
扉の前で、入りたいアイシラ様と入れさせたくない私とで静かな攻防が起きる
今は殿下の執務中で邪魔をさせたくなかったのが私の本音だった
「……何をしている」
「殿下」
「フィルナンド様!」
私たちがマゴマゴと扉の前で言い争ってるのが聞こえたのか扉からフィルナンド殿下が顔を出した
焦る私と、喜ぶ彼女を交互に見た後、はぁーと大きなため息をついて私たちを部屋に招き入れた
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