ようこそロケットベーカリーへ 〜殺し屋パン屋おじさん、初めての恋をする〜

ハマハマ

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14「Requesting《頼みごと》」

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 求愛……? 小六男子が? 小四女子に?

 ……わ――私でさえ出来ぬことを……小六が……?


「ねえ喜多さん」

 カウンター仕事をこなしながら、どうやらカオルさんも聞き耳立てていた様だ。娘のことだ、そりゃ気になるよな。

「それってくん、とかいう男の子?」
「おう、そうそう。聞いた話じゃそんな名前のやつらしい」

「やっぱりそっかぁ……。でもイジメじゃなくてホッとしました。ありがと喜多さん」
「おぅ、良いってことよ! 俺急に暇んなったからよ、色々と頼ってくれて良いぜ!」

 急に暇に……? ついこの間までバタついてた奴が?

 すぐに問いただしたいが、さすがにこの場では憚られる。またうほうほされるのが目に見えるしな。

「お仕事落ち着いたんですか、良かったですね!」

 まぁ、おそらくそういう事なんだろう。

「あんがとよ。ただ問題があってだな……」

 なんだ? ここで口にして大丈夫な問題なんだろうな? 今はうほうほはいらねえぞ、おい。

「暇が大っ嫌いなんだよ俺は! なんか用事くれ、俺に!」

 そういやそんな奴だったな。
 仕事中毒ワーカホリックな訳じゃなく、ただただ暇が嫌いなんだよな。

 仕事でも遊びでも構わないらしいが、観たくもないテレビをぼんやり見たりするのが嫌なんだとさ。
 本人はそれを、『俺は欲張りだからな』なんて言うんだが、合ってんのかなそれ。

「ところでカオルさん」

 とりあえず暇な喜多は放っておいて、もう一つ気になる点を確認だ。

「それで野々花さんは今日、どちらに?」
「それがあんまりにも学童は嫌だって言うもんだから……あたしと一緒に連れて出て図書館に置いてきたんです」

 喜多と私の視線がばちりと合う。

「よぉぉっしゃ! 用事ゲットだぜ!」

 ――え? え?

 なんてカオルさんがオロオロしてるがこれはもう決定事項だ。

 ちらりと壁の時計を確認した喜多が続けた。

「ほんじゃカオルちゃん、俺ってば野々花姫をランチに誘うけど、構わねえ?」

「え――っ、えぇっと、喜多さんなら野々花も喜ぶと思うし……もちろん良いけど……せっかくお休みなのに良いんですか?」
「良いも何も! あったりまえじゃーん!」

 ――ちょっと過保護すぎるきらいがあるが、どうやらカオルさんは自宅でさえも野々花さんを一人っきりにしたくない様子。
 本来なら私が行きたいが、ここに喜多を残したとてパンは焼き上がらない。

「よし、頼んだぞ喜多」
「ゲンっ――ゾ、ウ……が俺に頼みごと! 嬉しいねぇ~っと!」

 ギリギリでうほうほ回避だな。

「一旦はここに寄れよ」
「おぅよ、カオルちゃんに野々花の顔見せてからだな! じゃな!」

 羽織らせた調理着を脱いでバックヤードに放り投げるや否や、慌ただしく出て行きやがった。
 急いで行くのは良いが、私の服を放り投げるなバカ。

「すいませんねカオルさん、どうにもせわしない奴で」
「いえそれは良いんだけど……、喜多さん良いのかな?」

「問題ありません。カオルさんも見た通り、喜多のやつ本気で喜んでますから」
「そっか。ならまぁ、お任せしちゃおっかな」

 納得した様子でカウンター仕事に戻るカオルさんの背を見ながら、カオルさん親子のことに思いを馳せる。

 シングルマザーのカオルさん。
 小学校四年、十歳の一人娘、野々花さん。

 十歳なら自宅で一人留守番させる家庭もあるだろう。ただまぁ、朝から夕方となると少し長いか。

 ……これはもう、カオルさんには土曜も休んでもらうしかない……か――あっ。

 焼き上がったベーコンエピをオーブンから出す際、えらい事に気付いてしまった。

「カオルさん」
「はい?」

「もうすぐ夏休みじゃないんですか?」

 振り向いたカオルさんへ疑問をぶつけると、即座にカオルさんの笑顔は崩れた。

「……そうなんですよぉ。へへ……どうしたら良いかなぁ?」

 引き攣った笑みを浮かべるカオルさんもまた、それはそれで可愛いかったのは言うまでもない。
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