22 / 68
22「Square《四角》」
しおりを挟む火曜日の朝。
いつもの朝のルーティンを済ませ、丸二日摂取できなかったカオルさんの笑顔『にへら』を全身に染み渡らせているところだ。
厨房に立ちすくんで目を瞑り、指先や爪先まで丁寧に染み渡らせていると、バックヤードに着替えに入ったカオルさんから声が届いた。
「店長! ケータイなんて持ってたんですか!?」
私のぱかぱか開くケータイを手にカオルさんが飛び出した。
そんなに驚く事じゃないと思うんだが――
「それくらい持ってますよ。僕だって現代人なんですから」
「そう言われればそうですね。なんでかそういうの持ってない気がしてました」
てへ、とテロップが着きそうな顔でコツンと自分の頭に拳を当てたカオルさん。
あざと可愛いい――ってやつか。あざとい万歳だ。可愛い過ぎて一瞬呼吸が止まっちまったよ。
「さっき喜多に連絡したんですよ。ちょっと用があって」
「あ、もしかして野々花の件ですか?」
「え? ええ、まぁそうです。スケジュールの件で」
「ホントお手間かけてすみません。二人ともお忙しいのに――」
これには食い気味に否定する。
「全然! 僕も喜多も楽しんでますから!」
そしてにっこり私なりの笑顔。
するとカオルさんも『にへら』。
「ふふ、だったら良いんですけど。ありがとうございます店長」
「いえいえ、どういたしまして」
な……なかなか良かったんじゃないか? 私の今の笑顔。
「じゃあ店長」
「なんです?」
「電話番号、教えてください」
――デンワバンゴウ?
ん? と瞼の裏を見るように一瞬見上げ、あぁ、電話番号かと思い至った。
「だ、だったらそれ、弄ってくれて良いんでカオルさんの番号入れてください」
当然カオルさんの携帯番号は知っている。履歴書にあるから。けれどカオルさんが手に持つ、私のケータイを指差して言う。
「あ~~店長さては、使いこなせてませんね?」
「ち、違いますよ。手がほら、こ、粉だらけだからですよ」
「じゃあまぁ、そういう事にしときましょう」
そう言ったカオルさんは私のケータイを操作し、そして私のケータイを見ながら自分のスマホも取り出して何ごとか触った。
私のケータイに入ってる連絡先は喜多とロケットベーカリーだけ。まさか三つ目がカオルさんになるとは……。
「野々花の予定とか、メールしたりしても良いですか?」
……そうか、そうだよな。野々花さんの体験パン屋の為だよな。
「ええ、もちろん」
それでも一歩前進、だと思って良いだろ――
「あたしのどうでも良い話とかそんなのも、用がなくても送って……良いですか?」
照れた笑いのカオルさん。
……二歩、いや、これは三〇〇歩前進……
「も、もももちろん! 僕も何か送ります! メール、まだ使ったことないですけど!」
仕事終わり、二階の部屋に戻ってケータイを見ると、背面の小さなモニターが青く点滅していた。
喜多から着信か? と思ったが違った。
『今日もお疲れ様でした⬜︎! 明日もよろしくお願いします⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎』
めちゃくちゃ癒されたが……なんだこの意味深な四角は……
0
あなたにおすすめの小説
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる