ようこそロケットベーカリーへ 〜殺し屋パン屋おじさん、初めての恋をする〜

ハマハマ

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24「Match《似合う》」

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「そろそろですかね?」

 そわそわと落ち着かない私に、ちらりと時計を見たカオルさんが答える。

「そうですね。そろそろ着くかな?」

 本日金曜、今日は一学期の終業式。
 朝のうちに終わって放校だから、野々花さんはその足で喜多と図書館で合流。昼ピーク終わりにここロケットベーカリーに向かう予定だ。

 今日の午後からついに、野々花さんの体験パン屋さんがスタートする。
 我々の昼休みも済み、野々花さんと喜多も昼食は済んだだろう。
…………

 ……しかしあれだな。
 しれっと喜多に迎えを頼んではいるが、奴と私の間柄――裏の仕事の間柄とは全く関係のない『お願い事』だ。

 しかも夏休みの間ずっとだ。さすがに喜多に足向けて眠れないな――

 からんころんとドアベルが鳴り、入ってきたのは野々花さん。さらに手を引かれる喜多。

「それ……どうしたの?」
「なんかずっとこんななんだけど……これ平気なの?」

 ぼーっ、と焦点の合わない瞳の喜多に近付き、ちょいと強めに頬を張った。
 バチンと喜多の頬が音を上げ、そしてようやく喜多の意識が戻ってきた。

「おい喜多、平気か?」
「お、――お、おう、平気だイ◯シ」

 誰がイシ◯だ。ならカオルさんがノ◯シかよ。
 オマエちょっとゾ⬜︎リにハマり過ぎじゃねえか?

「いやちょっとあんまりにも面白くってな……」

 ゾ⬜︎リの何がどう良いか、途端に饒舌に話し出した喜多を遮る。

「ビールでも飲みながらまた今度聞く! 今はせ!」

 しかも私は別にゾ⬜︎リに詳しい訳じゃないんだ。勘弁してくれ。気を取り直して体験パン屋さんの始まりだ。

「カオルさん、悪いんですけど喜多にコーヒー淹れてやって貰えますか?」
「かしこまりーん♪」

 やはり仕事しながらも愛娘が手の届く所にいる安心感か、カオルさんがいつも以上に明るい。
 ただ、楽しそうにそう言ったカオルさんを目にし、野々花さんは少し呆れ顔だ。

「じゃ着替えて手を洗おうか。こちらへどうぞ」
「はい店長!」

 さすがカオルさんの娘、はきはきと気持ちのいい返事だ。

「バックヤードに上下ひと揃いと靴にキャップ、全部用意してあるから」
 ちゃんとキッズサイズで用意した。カオルさんと何度も確認したからばっちり合うはずだ。

「あ――ありがとうございます!」

 バックヤードと言っても更衣室と倉庫を兼ねた様な小さなものだ。閉じたカーテンから離れて厨房に戻る。

 厨房に私、カウンターにカオルさん、イートインに喜多。
 それぞれがバックヤードを向いて立ち、視線を彷徨わせてほんの少し、開いたカーテンの音に合わせて視線が揃う。

「……どう、ですか? 変じゃないですか?」

「か――かわ――んんっ、似合ってます、変じゃないですよ」
「ほんとですか?」

 ウチみたいな町のパン屋が何を気取ってんだ、なんて言われるかもしれないが、ウチのコックジャケットはちょいとオシャレだ。

 ズボンは黒で統一だが、立て襟スタンドカラーのシャツタイプコックジャケットは白黒茶の三パターン。そして黒のギャルソンエプロン。

 ちなみにカオルさんたちカウンタースタッフには我々のコックジャケットによく似た白のブラウスに黒ズボン。そしてギャルソンエプロンを黒と茶の二パターンを用意している。

 そしてどちらも黒のキャップ。もっと丸っこい……キャスケット? ハンチング? なんかそんな帽子が定番だと思っていたが、こっちの方がオシャレだと言い張るもんでな。

 ……私? いや、全部喜多のアイデアだ。
 私にオシャレが分かる訳がない。

「野々! めっちゃくちゃ可愛い! さすがあたしの娘!」
「もう! ママったら!」

 言いながらも嬉しそうにはにかむ野々花さん。
 それをウンウンなんて頷きながら微笑みと共に見る喜多。

 おい、ちょっと待て。その父親っぽいポジションは私に空けておいてくれ。

 ……オマエ、まさか……
 なんてな。そんなことないよな。

 ……ないよな?
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