異世界ニートを生贄に。

ハマハマ

文字の大きさ
76 / 185

58「はやしらいす」

しおりを挟む

「ヴァン殿、危うくこの村は全滅する所だった、感謝する」
「いえいえ、礼には及びません。あの二人組を倒したのは僕ではありません、彼ですから」

 大の字でイビキをかくタロウを指し示しました。

「……そ、そうか。彼が目を覚ましたら礼を言うようにしよう」

 そうしてあげて下さい。タロウは褒めて伸ばすのが良いと思いますので。

「ところで連中はなんなんだ? 人族の様な見た目ではあったが……」
「詳しくは僕にも分かりません。僕らは便宜上、有翼人と呼んでいます」

 有翼人=昏き世界の者ども説については、まだ公言は避けます。不安を煽ってもしょうがありませんからね。

「有翼人……、あのような者どもについて、ランド神父は聞いたことがあるか?」
「浅黒い肌に、蝙蝠に似た翼、目は大きく、背は小さい……、ないですね」

 もしかしたら明き神の教会関係者なら、昏き世界の者どもの伝承など伝わっているかと、ちょっと期待していたんですが、なかったですか。
 伝わっていてもランド神父が知らないだけかも知れませんが。

「まあ、分からない事をどうこう言ってもしょうがないな。ヴァン殿のお陰で傷は癒えたが、腹が減ってしょうがない。飯にしよう」

 そうですね。僕らもお昼を食べていません。
 昼過ぎにシュタイナー村に着いてから、今までバタバタしていてもう夕方です。

「あ、しかしウチの女房も、女どもは全て寝たままか」

 起きているのは、矢を受けた男性数人にランド神父、ランド神父に守られていた子供達、それにタロウを除いた僕たち四人だけですね。

「すまん、ヴァン殿、料理できる者がおらん」
「でしたらどこか厨房を貸して下さい。僕が作りますよ」


 比較的軽傷だった男性を二人教会に残し、村長の自宅にお邪魔しました。
 手の空いた村人は村の見回りです。

「ここが台所だ。食材は、そうだな、ここからここの物は好きに使ってくれ。足りそうか?」

 眠っている村人は今夜は起きないでしょう。そうすると…………。

「そうですね。足りると思います。ではしばらくお待ち下さいませ」

 珍しい食材がありますね。アンセム領ではほとんど見られません。
 ガゼル領は高地が多いからか、食材に変化があって楽しいですね。
 僕も食べるのも料理するのも久しぶりです。腕が鳴りますね。



「あのー。ここが村長の家っすか?」

「おお、タロウ起きたか」
「完全に熟睡してたっす。せっかく貯めたヴァンさんの魔力も空っぽっす。ちきしょー」

「他の村人はどうだ?」
「熟睡らしいっす。見張りのお兄さんが教えてくれたっす」

 どうやらタロウが起きてきた様です。さすがに普通の村人よりは耐性が高いんですね。

「あ、ヴァンさんがご飯作ってんす…………こ! この匂いは!」

 タロウが玄関で騒いでいます。どうしたんでしょう。
 台所に飛び込んできました。人様の家ではしゃがないで下さいよ。

「ヴァンさん! この匂いってまさか!」
「おはようございます。いま蒸らしが終わったところですよ」
「米ー! まさかの、米ー!!」

 いや、確かにお米ですけど、そんなにですか?

「それにこっちの大鍋は………、やっぱりハヤシライス!! キタコレー!」

 勝手に鍋の蓋を開けたタロウが叫びました。人様の家で叫ばないで下さいよ。


「はやしらいす……ですか? これはマギュウの肉と玉ねぎを葡萄酒とトマトで煮込んだ物ですが……」
「作った事ないから分からんっす! けど絶対にハヤシライスっす! は、早く! 早く食べたいっす!」

 鬼気迫るものがあります。とにかく早く準備しましょう。

「ロップス殿! みんなを呼んでください! 大至急食事にします!」
「なんか分からんが大至急だな! 分かった!」

 タロウの様子が尋常ではありません。大丈夫でしょうか。息も荒く目も血走っています。

「タロウ、人数分をよそって貰えますか?」

 何かさせた方が良いと判断しました。

「分かったっす! 手伝った方が早く食べれるっすよね!」

 やや深めのお皿にご飯を盛るタロウ、そしてその上から、はやしらいす? を直にかけるタロウ……

 え? かけるんですか? ご飯のオカズのつもりで作ったんですが……

「タロウ、かけちゃうんですか?」
「当たり前っす! ハヤシライスはこう食べるんす!」

 次々と同じようにかけてしまうタロウ。僕はそうやって食べた事はないですが……

 見張りの人を除いてみんなが揃いました。みんなタロウがよそったはやしらいす? を怪訝な顔で見つめています。
 そうですよね、こちらでこうやって食べる事はありませんから。

「……ヴァン殿、なんだか凄い見た目なんだが……」
「ええ確かに。ですが味は保証します」
「さぁ食べるっす! いただきます!」
「「いただきます……」」

 みんな恐る恐る口にします。

「旨ぇっす! 日本の味と同じっす!」
「旨い! なんたる旨さか!」
「トマトの酸味が残るソースと米との絡み具合が堪らん!」

 大好評です。確かにお米と絡むとより一層美味しいです。

「タロウ、これはニホンにもある料理なんですか?」
 顔中にご飯粒を付けたタロウに尋ねます。

「そおっす! ほとんど同じ味っす!」

 そうなんですか。まぁ喜んで頂いている様で良かったです。


「はぁ、もう食べられんす」
 何杯もおかわりしたタロウ、満足そうな顔です。

「こっちでもお米あるんすね」
「ええ、アンセム領ではあまり流通していませんが、ガゼル領では割りと良く見かけますね。高地では小麦より米の方が育つらしいです」

「へえ、地球と逆っすね。地球だとお米は低地の方が育つっす。詳しくは知らんすけど」

 そうなんですか。

「お米好きなんですか?」
「大好き、というか日本人のソウルフードっすよ。ちなみにハヤシライスは俺のソウルフードっす。菓子パンかハヤシライスしか食べてなかったっす」

「これは、はやしらいす、というのか?」
 村長です。

「そうっす!」
「ヴァン殿、これの作り方を女どもに教えてくれ! これは毎日でも食べたい!」

 村人が起きたら教える事を約束して、就寝です。
 みんなが起きるまではここで滞在ですね。

 そう言えば、結局タロウにお礼を言っていません。やっぱりタイミングを逃してしまいましたね。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

しがない電気屋のおっさん、異世界で家電召喚ライフしてたら民から神格化され魔王から狙われる

長月 鳥
ファンタジー
町の電気屋として細々と暮らしていた俺、轟電次郎(とどろき でんじろう)。 ある日、感電事故であっけなく人生終了──のはずが、目を覚ましたら異世界だった。 そこは魔法がすべての世界。 スマホも、ドライヤーも、炊飯器も、どこにもない。 でもなぜか俺だけは、“電力を生み出し家電を召喚できる”という特異体質を持っていて── 「ちょっと暮らしやすくなればそれでいい」 そんなつもりで始めた異世界ライフだったのに…… 家電の便利さがバレて、王族に囲まれ、魔導士に拉致され、気が付けば── 「この男こそ、我らの神(インフラ)である!」 えぇ……なんでそうなるの!? 電気と生活の知恵で異世界を変える、 元・電気屋おっさんのドタバタ英雄(?)譚!

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

処理中です...