異世界ニートを生贄に。

ハマハマ

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113「我はもう行く」

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 ドサリと前のめりに倒れこんだアンテオ様。

「……殺しちゃったんすか?」
「どうだろうな。死んでてもおかしくない程の手応えだったが」

 そう言ったロップス殿も、ガクンと膝を折り蹲りました。

「大丈夫すか!?」
「あぁ、大したことはない。プックルの魔法が切れた影響が大きいだけだ」
「あ、そうなんすか?」

 立ち上がろうとするロップス殿に、タロウが駆け寄って手を差し伸べました。

「どういうつもりか知らんが、ほとんどダメージは受けておらんからな」

 僕から見ても、何度も打ち込まれていてもおかしくないケースがありました。
 しかし、アンテオ様が積極的に隙を突くことはありませんでした。

「叔父上、息はあるか?」

 ロップス殿がアンテオ様に歩み寄り、体を抱えて仰向けにし、語りかけました。

「おぅ。まぁ死ぬほどではない」
「……竜族の丈夫な体が羨ましいわ」

 本当ですね。左胸を抉られる程に斬られてるんですから。

「……最後の剣、説明してくれるか?」
「アレは……、なんと言えば良いのか。分かりやすく言えば、十山斬の魔力操作で迅雷斬を放ったのだ」

「え? そんな簡単な事なんす――」
「全然簡単じゃないわ!」

 タロウの呟きに、ロップス殿が過敏に反応しました。

「従来の奥義でさえ爪先から指先、刀の先まで、正確な魔力操作が必要なんだぞ。さらにガゼル様の魔力操作も行ってるんだ。難易度はうなぎ登りよ!」

「で、なんでそんな直ぐに出来たんすか?」

 少し沈黙のロップス殿。

「……まぁ、アレだな。完全にプックルの魔法のお陰だな」

 強クナル魔法での底上げがあってようやく可能な技でしたか。

「しかしだ! コツは掴んだ! 直ぐにでもマスターできるだろう!」


「まぁ、上出来の内――ゴホッ、ガハッ」

 ロップス殿に抱えられたアンテオ様が血を吐きました。心臓や肺まで到達する刀傷、当然です。

「ロボ、慰撫を」
『承知でご――』

「必要ない」

 血を吐きながらもしっかりした声音こわねで言ったアンテオ様。
 死ぬほどではないと仰いましたが、このままではマズイと思うんですが……。

「叔父上? どういうつもりだ?」
「我は誇り高き竜族。不甲斐ない姿を晒しておめおめと生き残るつもりはない」

「いや、そうは言うが、しかし、私の手で叔父上を殺した事になるの……嫌なんだが……」

 ロップス殿から本音がポロリ。

「心配するな。お前に殺される訳ではない」

 アンテオ様が震える右腕をゆっくりと掲げました。

「叔父上? 何を――」

「…………ぬん!」

 アンテオ様の右腕が、ロップス殿が付けた胸の傷へとめり込んでいます。

「ぎゃー! 自殺っすか!? けっこうグロいっす!」

「タロウ! 騒ぐな!」

 ロップス殿に怒られたタロウがビクッとして、口を押さえて黙りました。

「……叔父上、どういうつも――」
「ロップス、お前も少し黙れ」


 少しの間、アンテオ様が御自分の胸の中をグチャグチャと弄くり回す音だけが流れました。

「……見つけた」

 胸から引き抜いた手には、黒く光る小さな玉のようなもの。

「叔父上、それは?」
「せっかく胸に穴が開いたんだ。返してやろうと思ってな」

 フワフワと浮かんだ黒い玉が、北を目指し飛んで行きました。

 イギーさんの左腕ですか。


「お前たちがウギーを友と思うように、我もイギーを友と思っている。イギーの魔術が完全に切れた今でもな」

「しかし、イギーは――」
「分かっている。この世界に住むものにとっては間違いなく敵。それは覆らん。しかしな、彼奴あやつは彼奴なりに、目的に向かって真摯にやっている。立場が違うだけで悪い奴ではない」

「しかし……」
「思うところはあろう。当然だ」

 重い沈黙が流れます。
 僕を含め、みんな色々と考えているんでしょう。



「さて、我はもう行く」

 沈黙を破ったのはアンテオ様。

「そんな体でどこに行くと言うのだ」
「我の魔力は兄上程ではないが、それでもロップスの二、三十人分はある。少しは足しになるだろう」

「……何を言っているのだ?」

 ロップス殿を見たアンテオ様が微笑みました。

「ロップス、そしてその友人達。この世界を頼む。そして出来る事なら、イギー達も救ってやってくれ」

「お、叔父上……」

「さらばだ」


 アンテオ様の体が内側から光を放ちます。 

 その光がカァァァと全身を包み込み、そして全身が幾つもの光の玉へと姿を変えていきます。切断された左腕も同様です。

 光の玉は一つ二つと、弾ける様に順に消えていきます。

「叔父上! ちょっと――」



 ロップス殿の目前に幾つかの光の粒が瞬いて、そしてそれも音もなく消え去りました。

「……叔父上?」

 キョロキョロと辺りを見回すロップス殿。
 恐らく頭では分かっているでしょうが、心がそれを認めないんでしょうね。


「……アンテオさんどうなったんすか? 光って消えちゃった……っすけど……」

「竜の因子、すなわち明き神の欠片かけらの還元、でしょう」






「りゅ、竜の……因子……? え? なんすって? 還元?」
『ヴァン殿、何言ってるでござるか?』
『聞イタ事、有ル様ナ、無イ様ナ……』
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