異世界ニートを生贄に。

ハマハマ

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129「今更そう大差ない」

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 良い考えを思い付く事もなく、イギーさんの魔術が完成してしまいました。
 とにかくイギーさんの両手の間にある、あの黒い魔力球をタロウに近付けてはマズイでしょう。

「タロウ、ロボとプックルの後ろへ下がりましょうか」
「そうっすね。あの球、喰らったらたぶん乗っ取られるやつっすよね?」
「恐らくとしか言いようがありませんが、警戒するしかできませんしね」

 大剣を抜き、構えます。

 僕らの後方でロップス殿たちが上げる戦いの音が聞こえます。
 どうやらあちらも激闘、残りの三人の有翼人に手こずっているようです。援護は期待できそうにありませんね。


「さて、散々待たせたし教えてやるんだぞ。この球にはかなりの魔力をぎ込んでる、簡単に二つ目を作るのは無理なほどの魔力消費だぞ」

 イギーさんほどの魔術の使い手があれほどの時間をかけて作ったものです。簡単なものではないでしょう。

「これが上手くいかなかったらボクにはもう打つ手なし。あとはアギーに任せるんだぞ」

 魔術陣の籠められた魔力球を右の掌に握り込み、無造作に伸びた長い前髪を左手で掻き上げたイギーさん。
 それを守るように一歩前に立つアギーさんは、対照的に小ざっぱりとした短めの髪。

 真剣な眼差しの二人、一筋縄ではいきそうにありませんね。


「イギー、行くぞ」
「おぅ! 頼むんだぞ!」

 僕の考えがまとまらないうちに、アギーさんがこちらへ駆けてきます。
 少し距離を置いてイギーさんも駆けていますね。

 アギーさんが僕らを蹴散らして、イギーさんがタロウに魔力球をぶつけるというシンプルな作戦でしょう。

 確かにアギーさんの力は他に比肩する物のないほどの力です。
 ですが、簡単に蹴散らされてはあげませんよ。

「ロボ、プックル、二人はイギーさんに注視してください。アギーさんは僕が」
『承知でござる!』
『任セロ』


 アギーさんが両手に魔力を纏わせ、先頭の僕に迫ります。

 僕が、と言ったものの、アギーさんの相手は自信がありません。
 アギーさんを足留めしつつ、イギーさんを先に仕留めるしかないでしょう。

「はぁぁぁっ! 《吸血鬼の霧》!」

 魔力を右腕に貯め、指で円を作ります。
 出来るだけ大きな霧にする為、右肩から指先までを円を潜らせて霧へと姿を変えさせます。


 以前マエンやマユウにやった様に、このまま霧の状態でアギーさんを搦めとるのは難しいでしょう。
 ですから、この霧で一つの体を作り出します。
 胴も手足も頭もある、大きさもほぼ僕と同じです。

「なんすかそれ! 白っぽい、人みたいになったすよ!」

「へぇ、そんな事できるのか」
「割りと色んなことができるんですよ、僕って」

 向かってくるアギーさんに霧の姿となった僕の右腕――見た目はフワフワと頼りない姿ですがちゃんと物理的な攻撃が可能です――と、左手に大剣を持った僕、二人で迎え討ちます。

「なら、先ずはその霧のヴァンを倒そう」

 そう言ったアギーさんが魔力を纏わせた拳で霧の僕を殴りつけましたが、殴られた胸の所に大きく穴が開くだけでダメージはありません。
 その隙にアギーさんの頭を目掛けて大剣を振り下ろします。

 反対の腕を掲げて僕の大剣を受け、アギーさんが距離を取る様に後ろへ、追い付いてきたイギーさんの所まで飛び下がりました。

「面白い技だ」
「でしょう?」
「しかし決め手に欠けるな」

 そうでもないですよ、そう言いたい所ですけどね、ぶっちゃけその通りなんですよ。
 一度の攻防だけでバレましたね。

 バレはしましたが、決め手に欠けると言ってもやりようはあります。

「さぁ、それはどうでしょうね」

 ここは負け惜しみに聞こえない程度に、余裕がある様な発言をしておきましょう。

「イギー、少し待て。邪魔なヴァンを先ずは仕留める」
「分かった。任せるんだぞ」

「良いんですか? そんなに余裕を見せて」
「そんなに掛からん。それに今更そう大差ない」

 今更? どういう意味でしょうか。
 しかし、僕にとっては有難いです。

 今二人で攻め込まれたら、恐らくタロウを奪われます。

『アギーさんの動きを封じる事が出来たら、僕、ロボ、プックル、この三人でイギーさんに仕掛けましょう』

『俺はどうしたら良いんすか?』
『難しいとは思いますが、隙を見ていけそうならファネル様のお屋敷へ走って下さい』
『分かったっす! 俺なりに隙探るっす!』

 できる事なら、アギーさんとの戦闘を経ずに礎の代替わりを済ませる事、これが理想的ですが今の状況では現実的ではありません。

 ですから極力・・タロウとイギーさんの接触を避けて代替わりを済ませる、これを目標にします。

「では、行きます!」
「良いぞ、来い」


 出来るだけ霧の僕に直接戦闘を任せたい所ですが、僕の策を成功させる為にはそういう訳にもいきません。

 生身の僕が前衛、魔力を籠めた大剣を左手で担いで突撃します。

「何だ? 少しの工夫もない攻撃だな」

 アギーさんが僕の大剣を右腕で受けた所を狙って、霧の僕から魔法を撃ち込みます。

「む、アイツも魔法を使うのか?」

 僅かに驚いた様ですが、全く危なげなく左掌で掴み握りつぶしました。

 さぁ、ここからが肝心です。

「当然ですよ。アレも僕ですからね」

 そう言い終わると共に、さらに距離を詰めて大剣と魔法を併用しつつ攻め込みます。

 左手で大剣を振り、さらに胸元や頭上から、風の刃や炎弾、さらに闇の棘などなど撃ち込み続けます。
 さらに霧の僕からも各種の魔法を撃ち込んでいきます。

「なかなか凄い手数だ。さらにアイツが特に鬱陶しいな」

 霧の僕を指差してそう言ったアギーさん。

 しかし、実は霧の僕は魔法使えないんですよ、本当は。
 アレって僕が、霧の僕がいる位置情報を得て、そこから・・・・魔法を発動させているだけなんです。遠くにあっても僕の体に変わりありませんからね。

 霧の体には別の仕事があります。

 悟られない様に闇雲に攻め込みながら、その仕事を進めていきます。

 それにしても魔力消費が半端ないですね。
 霧の僕を維持と操作、さらに身体強化マックスで魔法の連発、当然なんですけどね。
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