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4.5『エリザベータ・アイトーロル 1』
しおりを挟む『――貴女に一目惚れしたからです!』
『……わ、わたくしなんかの……一体どこに惚れたと言うのです!』
『全てです! 貴女のその長く美しい紅髪! 紅髪によく映える肌理細かな緑色の肌! 僕の倍はありそうな肩幅! なんでも噛み砕けそうな逞しい顎! その全てが愛おしい!』
………………。
そんな訳ないじゃないの。
わたくしったら何をお調子に乗っているのでしょう。
先ほどのアレクの言葉。
それがもしも本当でしたらこの赤らめた頬も赤らめ甲斐があるというものですけれど、断じてその様な事がある筈ありません。冗談に決まっています。
相手はあの、大陸一の美しさと噂される勇者アレク。
対してわたくしは姫と言っても筋骨隆々トロルの姫。
釣り合う訳がありませんし、求婚される訳がありません。
それこそレミさんの様な可愛らしい人族や、可憐で嫋やかなエルフなんかがお似合いですわ。
うら若き乙女に向かってアレクもひどい冗談を言うものですね――
ふふふっ。
――うら若き乙女ですって。二十四のいい年したトロル姫が何を考えてるんでしょ。可笑しいわね。
無益なことを考えるのはやめて寝ましょう。
ギルドの仕事は公務ではありませんけど、手を抜いて良いことにはなりませんからね。
と言ってこれを何度繰り返したことでしょう。
何度となく眠ろうと目を閉じようとも、今朝のアレクの言葉がリフレインして――
………………はっ、いけませんわ。
またいつの間にか頬を赤らめて――。
いい歳をして恥ずかしいですわね。
今度は落ち着いて目を閉じて、パンケーキの数でも数えてみましょ。
……パンケーキが一段……、パンケーキが二段……、パンケーキが三段……
ダメですね。さっき五段重ねを食べたところですのに眠くなるどころかお腹が空きそうです。
諦めて一度起きてお水でも頂きましょうか。
ゆっくりと体を起こしてお昼寝用のブランケットを剥ぎ、体を回してベッドに腰掛けました。
ニコラが袖机に置いていってくれた水差しから水を注いで喉を潤します。
ふぅ、美味しい。
相当喉が渇いていたみたいですね。
けれどこれで眠れるかも知れませ――
『歳がなんだと言うのです。僕は貴女を愛しています……それが全てではございませんか?』
『今すぐとは言いません。どうか……、どうかこの僕と結婚して下さい!』
……全身の血が顔に集まってる感じがしますわ。
コップにもう一度お水を注いで一息で飲み干しましたが、顔が熱くて堪りませんの。
ベッドから腰を上げて立ち上がり、部屋に据えられた姿見鏡の前に立ってクルリとゆっくり回ってみせました。
「……はぁ……、母様譲りのこの紅髪だけですわ」
わたくしもこの、長い紅髪は美しいと思うのです。
しかしこの緑のお肌も、はち切れそうな筋肉も、高すぎる背も、大きすぎる体も、少ししゃくれたこの大きな顎も……
……はぁ。
やっぱり嘘よね。
あの美しい少年勇者が、わたくしに求婚なんて、そんな事あるはずないですもの。
……けれどアレク……。
久しぶりに近くでお話ししましたが、本当に美しい男の子でした。
それこそあの方と同じくらいに…………。
……もうダメね。
さらに顔が熱くなっちゃってもう眠れそうにありませんわ。
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