勇者アレクはリザ姫がお好き ~わたくし、姫は姫でもトロルの姫でございますのに~

ハマハマ

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16「ぎゅむん、ぼよん」

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 ギルド職員が紅茶の準備を整え退室するのを待ってリザが切り出しました。

「あのねロン。わたくしにも分かる様に説明して下さらないかしら?」

 リザの要求、至極当然ですね。
 この私だってちっとも分かりませんもの。

 けれど、すでに何かを察したらしいアレクは落ち着いたもので、ソファに腰を下ろして優雅に紅茶に口を付けました。

 半ズボンからスラリと覗く細い足が眩しいですね。


「貴方は随分と落ち着いてらっしゃるのね?」

「え……? ああ、うん。僕が憎むのは魔族だけだからね。その点、彼はもう魔族じゃないから」


 アレクはしれっとそんな事を言い放ちますが、そこの所が一番分からないんですってば。


「そう、勇者アレックスが言う通り、俺はもう魔王どころか魔族でさえありません。今ではもう、どこにでもいる人族の冒険者なのです」

「――もう! アレクもロンも! だからわたくしにも分かる様に説明なさって下さいませ!」

 ホントホント、リザの言う通りですよ。
 まず第一に、ロンが魔王だったというよく分からない所からやって貰わないと全然分かりませんよ。


「大体ね、ロンが魔王デルモベルトだったなんてバカみたいな冗談、信じられる訳がないじゃないですか。だってそうでしょ? 十年前にもロンは人族だったんですから!」


「いえ、姫。十年前ここにいた俺は、魔族だったのです」


 そーんな冗談! 信じられる訳がないでしょう!
 大体ね、そんな簡単に魔族から人族だとかその逆だとか、ほいほい種族を変えられる訳ないでしょ――、


 ――あ、出来なくもありませんね。

 それこそ、であれば……ですけど。


「……俺は元々、そこの勇者アレックスと同じく、魔族は嫌いなのです」


 冷ややかながら悲痛なロンの声。
 その後少しの間、沈黙が流れました。


 しかしアレクが紅茶を啜る音でもって沈黙を破って言いました。

「とりあえず二人とも、座ったら?」

 アレクがカップを置いて、左手で二人掛けソファの自分の隣をぽんぽん叩き、右手でリザを手招きしていますね。

 それにいち早くロンが反応し、アレクの対面、向かいのソファへ腰を下ろして一人立つリザを見上げました。

 これは難しいですね。

 リザとしてはロンの隣に座りたい思いももちろんあるでしょうけど、それじゃ明白あからさますぎますものね。

 ほんの一瞬悩む素振りを見せましたが、わりと素早く決断しました。

「お隣り、失礼しますわね」

 そう言ったリザが、アレクの隣へと腰を下ろし――

「わっ――わわわっ!」

 ――ぎゅむん、と沈んだソファに比例して、ぼよん、と弾んだアレク。

 狙いすましたかの様にリザの体へ自分の体を投げ出して、アレクがぎゅうっとリザの腕にしがみつく形になってしまいましたの。


「――きゃっ!」

「ごっ、ごめんリザ! わざとじゃないんだ!」

 アレクがそうは言いますが、あの美しい顔を嬉しそうに緩めて、リザの腕や肩から手を離そうとはしていません。
 
 この感じ、ちょっと久しぶりですね。

 この間の、『美少年勇者改め変態ストーカーショタ勇者』と言ったニコラの台詞セリフが思い出されます。
 また突き飛ばされるんじゃないかと心配ですね。


 真っ赤な顔のリザが少しの間固まって、そしてゆっくりと口を開きました。

「……アレク。貴方、ここのところキャラクターが変わっていませんか? 先日はもっと……」

 そうですね。口調は敬語でもっと照れ屋でどもる感じだったですものね。

「そりゃそうさ。だってもう僕の気持ち、リザに打ち明けたからね。『無理』なんて言って突き飛ばされはしたけど、もうあとは積極的に打って出るべし! ってね」

 さらに今日のリザはオフショルダー。
 アレクの胸を騒がせまくった剥き出しのリザの肩。

 やや怪しげなウットリとした目つきで手を離さないアレク、されるがままにしながら頬を染めるリザ。

 そこへロンがおほんと大きめのしわぶきを一つ挟んで言いました。

「――そろそろ続きを話してもよろしいか?」

 ホントですよ。ちっとも話が進まないじゃありませんか。

 そうだったそうだった、と、そう言わんばかりにポンとアレクが手を叩き、ロンへ掌を差し出し先を促します。

 リザも居住まいを正してロンを注視しました。


「どこまで話したか――、そう、俺は元々、魔族が嫌いなのです――」


 ロンは訥々と続けました。

 自分は魔族が嫌いと言ったその真意は、魔族そのものが嫌いという訳ではなく、人族などの他種族を忌み嫌う傾向にある魔族が嫌い、という意味なのだそう。


「俺は……、人族や魔族、それにエルフやトロルなどの他種族ともただただ仲良くやりたかったのです――」

 そこまで言ったロンは一拍の間を取って続けました。

「――しかし残念ながら、気がつけば俺は魔王だったのです」

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