勇者アレクはリザ姫がお好き ~わたくし、姫は姫でもトロルの姫でございますのに~

ハマハマ

文字の大きさ
43 / 103

39「言ってはならない言葉」

しおりを挟む

「ぅぅ、ぅぅうううう――。……アレクちゃんの……おたんちん――」

「アレックス! キスニ姫の気持ちも考えなさい!」

 アレクはアレクなりに、きちんと二人に対応したはずですが、はい分かりました、と簡単に行かないのが人の心ですよね。

 勿論、ボラギノ女史の言い分も分からないではないんですけどね。


「――ねぇボラギノ。僕はどうすれば良いの? キスニの気持ちを考えて、自分の気持ちを無視するのが正解なの?」

「――む、無視しろ、とは言いませんが……しかし、キスニ姫は貴方の為にわざわざ精霊武装を――」

 ふぅ、と一つ溜息をついたアレクが続けて言います。
 声音は優しく、しかし有無を言わさぬ迫力を以って。

「だったらそれいらない、持って帰って。もしアネロナ王が、キスニと結婚しないなら勇者認定も剥奪する、って言うならそれももういらないよ。アネロナ王にそう伝えて」

「――アレックス……貴方……復活した魔王は……、ザイザールの復興は……、どうす――」

 そう言えばボラギノ女史たちはデルモベルト復活の報から先は知らないんですよね。まぁ、そんなに問題ありませんか。


「僕は僕のできることをやるよ。勇者認定を取られちゃうのは正直キツいけど、それとこれとは別の問題だもん」

 なんと言ってもアネロナの勇者認定ですからね。

 女神ファバリンへの信仰心を集めてバフとするんですから、大国アネロナの勇者認定を受けるという事は、人族最強へと繋がる一番の近道ですものね。

 以前のアレクであれば、勇者認定を得る為、すなわち全ての魔族を葬る為に、自分の気持ちを無視することが出来たのかも知れません。

 しかし、今のアレクは――


 アレクがチラリと家具屋の方へと視線を遣ってから続けました。

「僕はもう、自分の気持ちを無視する事はできないよ。ごめんねボラギノ」

 嘘偽りのない自分の言葉を投げ、さらにきちんと謝ったアレク。

 かつてザイザール陥落の際、アレクを胸に抱えて弟ノドヌさんとともに命からがら亡命したボラギノ女史。

 確かその時、御主人とお子さんを亡くされている筈のボラギノさんにとって、故国再建と魔族への復讐だけが望みであり、その唯一の希望がアレクだったのです。

 その手塩に掛けて育てた我が子同然のアレク。

 思うところもあるでしょうが、アレクの成長を目の当たりにしたボラギノさんは、アレクに向けて頷いて、少しだけ微笑んで見せました。

「……ボラギノ――」



 けれど――

 それを良しとしない者もいました。


「キスニは認めない!」

 立ち上がり、肘やドレスに付いた砂をパンパンとはたいたキスニ姫が再び叫びました。

 家具屋の方を指差したキスニ姫は、吐き出してしまったのです。

「アレクちゃんはトロル女に騙されてるの! その巨大な筋肉! 大き過ぎる顎! 紅髪とコントラストのあり過ぎる緑のお肌! そのに騙されてるの! だってキスニの方が一億倍可愛いんだから――!」


「――キスニっ!」

 パンっ! とキスニの頬から乾いた音が響くと共に、再びキスニ姫がズザッと地面に崩れ落ちました。

「――酷いっ! キスニ……キスニ誰にも叩かれた事ないのに……アレクちゃんのバカッ!」

「「アレク殿!」」

 アネロナから共に来た数人の警護の者たちがアレクへ詰め寄ろうとしましたが、それをアレクはひと睨み。

「――キスニを連れて行って」

「しかしアレク殿! 姫に手を上げ――」

「――僕をこれ以上怒らせないで!」

 警護の者たちはアレクの言葉にビクリと体を震わせて、窺うようにボラギノ女史へと視線を走らせ、女史が頷くのを見た途端にキスニ姫を抱えて駆け出しました。

「――も、戻りなさい! 戻ってアレクちゃんを……引っぱたきなさ――」

 騒ぐキスニ姫の声が徐々に遠ざかっていきました。


「リザ! ごめん、僕のせいで!」

「…………貴方のせいではありませんよ」

 アレクは直ぐにリザのもとへと駆け寄り言いましたが、リザは間髪入れずにそう返しました。

「なんなのよあの女! アレクちゃん! あんなバカで無礼な女連れてこないでよ!」

 カコナがリザの代わりとばかりに怒りを露わにして言い、アレクは心からすまなそうにゴメンと謝りましたが、当のリザは心ここに在らずとぼんやりしています。

 ちょっとリザ。
 貴女、目の焦点が合っていませんよ。

「――リ、リザ姫さま! ちょ、ちょっと! 大丈夫なの!?」

 ぐらりと傾いた己れの体が真っ直ぐに保てない様で、リザはグッと手摺りを掴んでなんとか支えはしましたが、ゆっくりとカコナの体にもたれる様に倒れ込んでゆきました。


「リ、リザ姫さま! ちょっ――ちょっと待――、アレクちゃん! 支えて――早く支えて支えて――!」


しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

辺境伯夫人は領地を紡ぐ

やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。 しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。 物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。 戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。 これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。 全50話の予定です ※表紙はイメージです ※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

処理中です...