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57「アイトーロルの勇者認定」
しおりを挟む「――我が孫娘、エリザベータ・アイトーロルへ勇者認定を『与える』――」
アイトーロル王の言葉は瞬く間に国中の者の下へと届き、そして――
「な、なんともございませんが、わたくしは勇者となれたのでしょうか……?」
「む……なにぶん初めての事で私にも分からんが……」
リザとアイトーロル王のやり取りは小声で行われましたが、何も起こらない状況にトロル達はざわざわと騒ぎ始めました。
多くは『与える派』のようですが、若干は『与えない派』もいるようで、集まったトロルの中にも様々な声が見られますね。
リザに勇者認定が与えられなかったと嘆く声や、なぜ与えられないと怒る声に紛れて、やはり動機が不純だよと誹る声。
ある若いトロルナイツの男性は声高に、男の為に勇者認定なんてダメに決まってる! と叫んてしまったせいで、近くにいた女性トロルたちに目一杯で殴られたりしています。
念のためお伝えしますが、カルベではありませんよ。
彼は、なぜ与えられないと憤ってくれています。
ほっこり。
けれど、アレクたち三人は落ち着いた様子です。
二回目ですものね、あの子たちは。
「懐かしい。この感じ」
「だよな。俺らん時は一時間くらい掛かったんだっけ?」
「大体そんなだったね。アネロナは人数が多いから、どうしてもそれくらい掛かるらしいよ」
そうね、アレクが言った通りアネロナはね。
だからここアイトーロルなら数分……十数分くらいかしら。
三千人程度ですものね。
わた――ファバリンがかつて組んだ術式ですと、かなり効率が悪いらしいんですよね。
けれどしょうがないでしょう?
当時のファバリンは、ここがこうだからこうで、だからこっちがこうなって、という様な術式を手作業で作っていたんですから。
どうやらその効率の悪い術式も、決まったルートを一巡りしてきたみたいですね。
アイトーロル王の『与える』という言葉は、国民の心情を一人ずつ読み、そしてファバリンの大木に刻まれた勇者認定の術式を経て、そしてようやくリザの下へと、戻って来ました。
突然、王城三階のテラスに、ドンっ! という音ともに立ち昇った光の柱が姿を表しました。
「――あ! こ、これは……!」
その光の柱の中心には当然、突然の事に驚いた様子のリザです。
自分の体を包み込む様に天から降る光は、その粒子の一つ一つが栄養の様に、自分の体の隅々にまで染み渡っていくように感じている筈です。
良かった。
無事、リザに勇者認定が与えられた様ですね。
「ちょっとちょっとちょっと! どーなってるのよ!!」
怒っている方がいらっしゃいますけど、これ、キスニ姫が怒ってると思いました?
キスニ姫はね、アレクが自分に一っつも興味を示さない事に茫然自失のご様子で、広場で崩れ落ちる様に座ったままなの。
「ちょっと! なんでワタシにバフが来ないのよ!?」
「その通りだ。俺にも来てないのはどうしてだ?」
カコナとロンがそう言って首を捻りました。
実は二人はリザのすぐ側に控えていて、勇者パーティのバフを貰うつもりでいたんですよね。
『私だってバフ貰ったら斥候技能でリザ姫さまの役に立てる!』
『今の俺ではバフでも無ければレミ嬢に付いて行けぬ!』
それが二人の言い分だったんですけど、ごめんなさいね。やっぱりアイトーロルの勇者だと大国アネロナの勇者みたいにはいかなかったみたい。
ファバリンへの信仰度合いはアイトーロルの方が強いですが、何せ国民の総数に三十倍ほど差がありますからねぇ。
「どうだリザ? 手応えは?」
光の柱が薄れて消え、両掌をグーパー開いて閉じてを繰り返すリザへ、アイトーロル王が尋ねました。
「戦斧でも振り回してみなければはっきりとは分かりませんが……、以前の姿の時よりも……力に溢れている様に感じ、ます」
体の大きさや姿形に変化はありませんが、纏う雰囲気は明らかに強くなりました。
そう、例えばアレクたちが纏う雰囲気のような、強者の雰囲気ですね。
「やったねリザ!」
リザが顔を上げるとそこに、広場から跳んで直接三階テラスに進入したアレクの姿。
防犯の観点から、ニコラがキレて怒り出しそうでしたが、そこは空気を読んでグッと堪えてくれました。
「アレク! わたくし……勇者になれました!」
お互いに駆け寄った二人でしたが、一歩の距離を置いて止まって抱き合うことはせずに、両掌をそれぞれ握り合いました。
「これで一緒に貴方と行けますわ!」
「うん! 僕も嬉しいよ!」
「……この姿でも、喜んでくれるんですか……?」
リザが不安そうにそう尋ねましたが、意外そうな顔でアレクがそれに答えます。
「……え? 僕、前のリザの方が好きとは言ったけど、今のリザが嫌いなんて一言も言ってないからね。嬉しいに決まってるよ!」
そう言えばそうですよね。
アレクは正直に、前のリザが世界一好き、今のリザが世界で二番目に好き、そう言ってましたよね。
世界で二番目って、一番のリザ今はいませんから実質一番……ってそういう事にはなりませんか。
「さっきのスピーチのね、戻ってなんてやらないんですから! ってさ――」
突然スピーチに言及され、リザは堪らず顔が真っ赤に。
「――ほんと可っ愛いかったよねー!」
それな。
私も同じ事を思いましたよ。
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