勇者アレクはリザ姫がお好き ~わたくし、姫は姫でもトロルの姫でございますのに~

ハマハマ

文字の大きさ
80 / 103

74「女神ファバリンと男神デセス」

しおりを挟む

 昨夜のうちに魔の棲む森から少し離れた小高い丘の上に移動したアレク達は、夜明けと共に現れた魔物の群れを見下ろしています。

「おうおう、やっぱ結構いるんじゃねぇ?」

「でも上手くいったみたいだね」

 明け方少し前から動きだした四人は、森から出てきた魔物が真っ直ぐこちらの丘へと向かう様にする為に、深めの穴をいくつも穿って待機していました。

 思惑通りに魔物たちは、真っ直ぐにアレク達のいる丘の方へと殺到します。


「さってと。派手にいかないよ、分かってるね?」

「地味に地味にいこうじゃねえの」

 アレクとジンさんの声に、リザとレミちゃんも頷いて応えました。


 一番乗りで丘を飛んで駆け降りたのはジンさん。

「よっしゃ! 来いや!」

 弱めの身体強化を施したジンさんは、殺到する魔物の群れの真ん前でそう叫び、わずかに腰を落として構えます。

「おりゃっ! ――おりゃりゃりゃりゃりゃ!」

 ジンさんはただひたすらに正拳突きを繰り返し、虫型の魔物、犬型の魔物、骨だけの騎士、その他もろもろの突進してくる魔物を砕き吹き飛ばしました。

「抜けてった奴、頼むぜ!」

 ジンさんのやや後方、右にはリザ、左にはアレクが控えてそれぞれ手には愛用の武器を構えています。

「せぇっ!」

「やぁっ!」

 ジンさんが取りこぼした魔物をそれぞれ一振りで蹴散らしました。二人とも全く危なげありませんね。

 翼を持ったわにの様な魔物には、魔力消費を抑えに抑えたレミちゃんの風の魔術が襲い掛かって翼を斬り飛ばします。

 百頭を超える魔物、と聞いた時のみんなのリアクションにも頷けるほどに余裕ですね、これは。


「さ、油断せずに地味~にいくよ!」

「おうよ!」「はいっ!」「任せろ」

 お昼前ごろ、ただ淡々と屠り続けたみんなには特に疲労の色も見えません。

 強いて言えば、少しリザが辛そうですかね。

「リザ、少し休んで」

「いえ! 体力的には、まだまだ、平気、です!」

「……無理しないでね。まだまだ先は長いんだからね」

 そしてもう少し戦い続け、ジンさんの拳が大きな熊型の魔物を爆発四散させたところでどうやら魔物の群れは打ち止めのようでした。


「ふぅぅ、さすがにちょっと疲れたぜ!」

 辺りは魔物の死体で溢れかえっていますね。またモザイクが必要かも知れませんね。

「はぁ、はぁ――これで本当に百頭ほど、ですか?」

 明け方から今までの数時間、引っ切りなしに現れていましたからね、体感で言えばその倍や三倍いたと思ってもしょうがありません。
 けれど――

「百よりはいたけど、百五十もいないね。やっつけた奴がまた立ち上がってるせいでもっといる様に思っちゃうけど」

「え、そうなんか?」

「気付かなかった? ジンがバラバラにしたのは流石にそんな事ないけど、胸に穴、くらいの奴はまた混ざってたよ」

 そうでしたね。
 私も確認しましたけど、手足が千切れるくらいなら余裕で再び参加の、胸に穴くらいでもなんとか立ち上がっていましたね。

「胸に穴って十分致命傷だろうが」

「バフ」

「僕もそう思う。やっぱりジフラルトも近くまで来てるんだろうね」


 勇者認定のバフは私が近くにいようがいまいが変わりませんけど、魔王のバフは『魔王の種』に近ければ近いほど強力になりますからね。

 勇者認定とは、一国の代表にファバリンへの信仰心を集めて与え、バフとするもの。
 魔王の種もよく似てはいますが、根本的に異なるものなのです。

 魔王の種を勇者認定の仕組みで例えるとすると、なんです。

 あら?
 分かりやすいと思ったんですけど、分かりにくい例えでしたね。
 アレク達も再び丘を上って休憩の様ですし、この隙にちょっと分かりやすく説明しましょうか。

 そうねぇ……、こちらの信仰対象としてファバリンがいる訳ですが、魔族にも信仰の対象があるんです。

 とても古い神ですから私のように顕現するなんて事はありません。存在こそ知ってはいますがお話した事も見た事もありませんよ。

 『初代の魔王、男神デセス』

 それがその信仰対象です。
 そう言えばフルキショの弟が死ぬ間際にその名を口にしていましたね。

『魔族の神デセスの加護がジフラルトにありますように』みたいな事を。

 そのデセスの加護とはつまり『魔王の種によるバフ』。それはデセスの意思であり、デセスそのもの。
 それが与えられた者が魔王となる訳です。

 すなわち、ロンは魔族にとっての女神ファバリン――男神デセスを掠め取ろうとしているの。


 そう言えばロンとカコナの二人、遅いわねぇ。
 ちょっと様子を覗いてみましょうか。

 …………………………

 へぇ、そんな感じで、ね。
 ロンはともかく、カコナも……そうですか。

 けれど今はまだ黙っておきましょ。レミちゃんが――あ、いえ、あの子は喜んじゃうかしらね。

しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

辺境伯夫人は領地を紡ぐ

やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。 しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。 物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。 戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。 これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。 全50話の予定です ※表紙はイメージです ※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

処理中です...