勇者アレクはリザ姫がお好き ~わたくし、姫は姫でもトロルの姫でございますのに~

ハマハマ

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84「あちらも激闘」

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 ふぅっ――!

 と息を吐き、ドサリと尻餅をついたリザ。
 そこへ片足ケンケンで近付いた長が声を掛けました。

「戦斧ヲ上ゲテクレ」

 長は叩き潰された自分の小指とフルの核があった場所へ向け、小さくブレスを吐いて焼き尽くしました。
 さらに、二頭の死んだ魔竜に向けても盛大にブレス放射。

「必要ナイと思ウガ、念ノ為ダ」

 これで一安心ですね。
 ようっやくキショのから私も解放されました!

「あ! いけない! 急がなくっちゃ!」

 そう叫んだリザ。もうアレクの所へ走り出すのかと思いきや、未だに立ったままの長の右脚を抱えて戻りました。

「長! 癒しますから座って下さい!」

「イヤ、ソレは流石ニ無理ダ――」

「やってみせます! だから急いで!」

 無理だと思うが――とブツブツ言いながらも、リザに従う長。実際私もちょっと難しいかと思っています。

 癒術で部位欠損が治らないのは当然ですが、戦斧で断ち斬られた所は断面も粗く、なかなか繋がるものではありませんから。

 けれどリザはやる気満々。

「――精霊よ。――……癒せ! ――癒しなさい!」

 両掌に纏ったマナの力を解放し、斬り離された断面へと集中させます。

「――……癒せ! 癒せ! 癒しなさい!」

 さらに眩いばかりの癒しの光を与えるリザ。

 …………さすがに厳しいで――

 ――まぁっ! なんと言う事でしょう!
 到底無理だと思われたそれを、リザの癒術は思った以上に容易く完全に癒してみせました。


「ふぅっ――。どうでしょう? すぐには動かせないと思いますが……」

「イヤ、コレは驚イタ。スデニ感覚モアる」

「でしたら良かった!」

 なんてでしょう。元々一級品の癒術の使い手ですが、勇者認定を受けた事でとびきりの一級品へとなったようですね。

「切断面ガ滑ラカダッタノガ大キイ。コノ為に我ガ右脚ヲ叩キ潰サナカッタのカ」

「もちろんそれもありますし、フルが飛び出すかも知れないと思ったものですから」

 良い判断でした。
 右の小指は当然元に戻りはしませんが、右脚と小指なら比べるべくもありませんよね。


「姫さまー! 爺めがきましたぞー!!」

 あら? 私が呼んだトロルナイツ達がやって来ましたね。
 まーったく間に合っていませんけれど。

「なな!? カルベ! 急げ! 姫さまのお側に魔竜がよるぞ!」

「なんですって!? 姫! カルベが今参ります!」

 うーん。いい加減カルベにも活躍の機会を上げたかったんですけど、思うようにはいかないものですねぇ。

 トロルナイツでも伝令方ができるほどに健脚なカルベがニコラを追い抜き先頭に立ち、リザと長の元へと爆走し、「てやぁぁぁっ!」と掛け声を上げて手槍を投擲。

「おやめなさい!」

 それを跳び上がったリザが戦斧で叩き落としました。

「姫! 一体何を――! はっ――姫、そのお姿――」

「この方は魔竜の長! わたくしを助けてくれた方にございます! 乱暴は許しませんよ!」


 ニコラやノドヌさんも追いつきましたので、私も姿を現し簡単にことの顛末を説明しました。
 私の姿を見た長が驚きを示しましたが、なんだか勝手に納得して下さいました。


「トコロでリザ」

「なんでしょう?」

「『アレク』トカ言ウ者ト約束ガアッタノでハナイカ?」

「……はっ! そうでした! わたくしは戻らねばなりません!」

 長にまた今度ご挨拶へ伺う旨を伝え、ニコラには後を任せると言い残し、そして駆け出そうとしたリザでしたが、突然ふにゃりと蹲ってしまいました。

「姫! どこかお怪我を!?」

「か、カルベ……何かをお持ちじゃないかしら」

「……食べる物……お腹を空かしていらっしゃる?」

「ぺこぺこです」

 少し恥ずかしそうに頬を染めて言うリザへ、後続のトロルナイツたちが運んで来た食糧が与えられました。

「最近すぐにお腹が空くのです。なぜかしら……?」

 そう言いながらも干し肉なんかの携帯食をむしゃむしゃと平らげていくリザへ、今のアレク達の現状を教えてあげましょう。

『リザ。こちらも激闘でしたが、あちらも相当です』

「お婆様! みんなはご無事ですか!?」

『無事と言えば無事ですが、あまりかんばしくはありません』

「それは――!?」

『まずジンさんが負傷し、その治癒にあたったレミちゃんの魔力残量が僅かになってしまったのです』

「こうしてはおれません! 爺や!」

 勢いよく立ち上がったリザは、ニコラへ腰に括り付けたジンさんのバッグを渡し、入るだけ干し肉を詰める様に申し付けました。

 そして長へ世話になった礼を再び告げ、慌てるニコラを急かし、またバッグを括り付けて駆け出しました。

「姫! 自分も参ります!」

 それをカルベが追い掛けますが――

「お、追いつけん! 速すぎる!」

 ――諦めてトボトボと戻って来ちゃいました。
 カルベ、もうリザの事は諦めた方が良さそうですね。


「リザの祖母ドノ、と呼ベバ良イカ?」

『私ですか?』

「我ハカツテ貴女ノ世話にナッタ者ダ」

『あら、そうでしたか。長生きですものね、魔竜って』

 そう言えば相当昔に北ネジェリック山脈をウロウロした時、何事かに首を突っ込んだ事がありましたっけ。
 子供の魔竜を助けたとか、なんかそんなだったかしら。

 長と昔話もしたいところですけど、私ものんびりとはしていられません。

『長、貴方も今度アイトーロルに遊びにいらっしゃいな。ちょっとバタバタしてますから、またその時にお話しましょ?』

「承ッた。リザへモヨロシクお伝エ下サレ」

『ニコラ! 長の事をお願いね!』

 長へにこりと微笑んで、あとはニコラへ全てを丸投げ。そして私も姿を消してリザのもとへと飛びました。



 リザ、速いですねぇほんと。
 行きよりもさらに倍ほども速いんじゃないかしら?

 私はカルベみたいに、追いつけん! とか言ってる場合じゃないので飛んで追いつきますし声も掛けますけどね。

 姿を現さずに声だけ掛けました。

『リザ、走りながらで良いので聞いてください』

「お婆様!」

『貴女のこの速度が維持できるなら日暮れ前にはアレクたちのもとへ辿り着けるでしょう』

「はい! 維持してみせます!」

『先ほど言いそびれましたが、アレクは元気、ピンピンしています』

 ――良かった。

 と走りながらも胸を撫で下ろすリザ。
 心配でしょうがない、という顔つきですものね。

『昨夜は魔族キンダベルト率いる魔物の群れ、今朝は魔族ベトネベルト、すでに二人の魔族と交戦し撃破しましたが、現在は先程言った状況に陥っています』

 ちなみに魔族の名前で『ほにゃららベルト』なのは貴族の嫡男を意味するそうです。ロンの正体であるデルモベルトもそうですね。


「魔族を二人……という事は魔王を除けば魔族はあと一人ですね」

 その通りです。今更アドおじさんの言葉を疑ってもしょうがありませんし、きっと彼は嘘をつかないでしょう。

『ここからは縛られたままのアドおじさんとアレクの推測ですが、恐らくアドおじさんを含めて連れて来られた魔族は捨て駒。もう一人の魔族の後でジフラルトが現れるのだろう、と』

 私も同意見です。
 かつて見た偽デルモベルト、すなわちジフラルトはそういう事をするタイプに思えましたから。

「分かりました! 今わたくしがすべき事は、とにかく全力で走ることですね!」

 ジンさんのバッグから数枚の干し肉を出して齧り、リザはさらに速度を上げました。

 話し掛けるのも難しい速度です。
 ですからアレク達の方へ顔を出しましょうか。
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