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水族館にて

〈3〉

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三人はエスカレーターにのる。その真上には、大きな骨が展示されていた。
いち早く見つけたティーがそれを指差す。
「朝陽さん!あれはなんですか?」
「あれか?あれはマッコウクジラの骨らしいぞ」
ティーが朝陽の返答を聞き、大きく口を開けて骨全体を見ようと顔を動かす。その動きがエスカレーターの動きと逆になって、後ろにそりかえった。
「あんなに大きな生き物がいるのですね」
「電車くらい大きいですよ……!」
リオンとティーが口々に言った。二人は新たな発見に目を丸くしていた。
(車にとってこの世は知らないことばかりだろうな)
朝陽は骨に興味津々の二人を見て薄く笑った。

屋外に出ると、まぶしい太陽が目に、そして爽やかな潮の匂いが鼻に入ってきた。
あちこちにプールのような水槽があり、その中をイルカやシャチが泳いでいる。ティーはその生き物一頭一頭に感動し、歓声を上げていた。そのため、朝陽が振り返ると姿が見えなくなっていることが多々あった。
リオンもあちこちをチラチラ見つつ、置いていかれないように朝陽を追う。
なんとか三人が集合したあと、スタジアムに入った。
スタジアムの中にはベンチがところ狭しと並べられていた。その前には半円状のプールがあり、その手前と奥に小さなプールサイドがあった。
空をあおげば一本の線がはってあり、ボールが横に並んで三つついていた。ティーはそれを(何に使うんだろう?)と不思議に思いながら眺めていた。
「ここで何をするのですか?」
「ん?ここではな、イルカが芸をするんだよ」
リオンに尋ねられ、朝陽は口の中のコーヒーを飲み込んだあとに答えた。
「どのように?」とリオンが訝しげに尋ねる。
「まあ、もう少しで始まるから待っていろ」
朝陽は教えてくれないようなので、仕方なくリオンは待つことにした。

少しずつ観客が増えてきて賑やかになってきた。小学生が遠足に来ているようで、あちこちで黄色の帽子がぴょこぴょこと動くのが見える。
ふとリオンが前を向くと、看板に
『海水がかかる事がありますのでご注意ください』と書いてあるのが見えた。
それを見てリオンはあからさまに動揺する。
その様子を横目で眺めて朝陽がふっと笑った。
「もしかしたら、ここも水が飛んで来るかもな」
それを聞いてリオンは顔をしかめた。
「もしかしたら、な」
そう言ってニヤニヤする朝陽をリオンはにらみつける。しかし無駄なことと分かっていたので、リオンは朝陽に怒るのを諦め、出来るだけ濡れないよう皮膚の露出を少なくした。
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