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リュー

〈15〉

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朝陽と磯部はお土産を買うべく車を走らせていた。磯部曰く宿から少し走ったところに品揃えが豊富なお土産屋があるらしい。
朝陽は車の振動に揺られながら
(大分この揺れにも慣れてきたな)と思っていた。
大きなホテルの向かいにこぢんまりとしたお土産屋が二つ並んでいた。
磯部について室内に入ると、一気に色とりどりの品物が朝陽の目に飛び込んで来た。所狭しとキーホルダーやらネックレスやら服やらが大量に並べられている。
(ここでは子供から大人まで幅広い年代がお土産を探せそうだな)と朝陽はぼんやりと考えた。
星砂が入った小瓶や海人と書かれたTシャツに触れてみたところで、朝陽はふとお土産を買う意味があるのか疑問になった。
沖縄らしいとちんすこうを手に取ってみたものの、それを持って帰ってもお土産として渡す相手がいない。実家にはマンゴーを買っていくつもりなので除外すると、お土産を買っていくべき人がいよいよいなくなってしまう。
大学時代の友達とも長い間連絡をとっていないし、かつての職場仲間に渡す必要も感じない。
どうしたものかと思考を巡らしていると、店のスピーカーから蛇皮線の音と共に女性の歌声が聞こえてきた。沖縄独特の節回しに蛇皮線となめらかな女性の声がよくあっていて耳に心地よい。
朝陽は改めて(今沖縄にいるのだな)と実感する。
この先ここに再び来られるかどうか分からないので、朝陽はせっかくだからと自分へのお土産を買っていくことにした。
何にしようかとぶらぶら店内を歩いていると、財布やかばん、ハンカチなどが並んでいる場所に来た。品物には全てみんさー柄が印刷してあった。
(みんさー柄か……いいな)
手を伸ばし、青色の財布を手に取る。青と水色で織られたその財布は、まるで沖縄の海のようだった。
チャックを開け閉めしたり、中に手を入れて強度をはかったりしている朝陽の目に、小さな紙が飛び込んできた。
値札と共につけられたそれには、みんさー柄の意味について書かれていた。
「『いつの世までも末永く』か……」
いい意味だと朝陽は思う。
(みんさー柄にそんな意味があるなんて知らなかったな)
すっかりみんさー柄が好きになった朝陽は、その財布を買うことに決めた。同じ青色の財布同士を見比べて気に入ったものを選ぶとその場を離れた。
それからおやつ用にちんすこうとサーターアンダギーを手に取り、買い物籠に入れる。
他に何かあるだろうかと辺りを見回せば、二人の女性が楽しそうに相談しながらおそろいのキーホルダーを選んでいるのが目に入った。二人のうち髪の長い女性の後ろ姿を見て、朝陽はティーのことを思い出す。それと共にリオンの顔も浮かんだ。
恐らく二人は今、空港の駐車場で大人しく朝陽の帰りを待っていることだろう。
(あいつらにも何か買っていくか)
朝陽は女性達の隣に並ぶと棚に目を走らせた。
(とはいえ、車へのお土産ってどうすればいいんだ……?)
朝陽は一人首を捻る。
色々と考えた結果、車の鍵につけるキーホルダーをリオン達に買っていくことにした。
海亀の形に彫られた木にイニシャルが書かれているキーホルダーがつるされている棚に目を向ける。
(これ、いいかもな……)
青色でRと、赤色でTと書かれているキーホルダーを手に取る。
(これを買っていくか)
それらを丁寧に買い物籠の中に入れた。みんさー柄の財布と並んでいる二つのキーホルダーを見て、朝陽が満足そうに頷く。
「おう、朝陽。選んでるか?」
磯部が隣に並び朝陽の買い物籠を覗きこむ。
「そのキーホルダーを買うのか?」
こくりと頷く朝陽に磯部が首を捻った。
「……てっきりお前にお揃いのキーホルダーを買うような女性が出来たもんかと思ったら、どうやら違うみたいだな」
「ええ。車の鍵につけようかと思って」
そう朝陽が言うと
「わざわざイニシャルつきのものをか?」と磯部が悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「あ、それは……」
痛いところにつっこまれて朝陽が答えにつまる。磯部はそんな朝陽を見て
「まあ別にいいよ。聞かないでおいてやる」と笑った。
(確かにおかしな返答だったな)
朝陽はそれ以上追及されなかったことにほっとしつつ、ぼんやりと自分の返事を思い返してそう思った。
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