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しおりを挟む「ただいまー」
言いながら、玄関のドアを開ける。
すると、すかさず奥からひょこっと顔を出したラインハルトが、嬉しそうに側にやってきた。
「お帰り、ミサキ!」
満面の笑みを湛えて、ぎゅうぎゅうと抱きしめてくる。
岬は、ホッとしてしまった。
もしかしたら、またいなくなってしまってるのではないかと、不安だったのだ。
両手が荷物でふさがっていることもあって、しばらく大人しくされるに任せる。
しかし流石に苦しくなってきた岬は、抗議の声を上げた。
「ちょ、ライ、苦しい……」
「すまないっ! ミサキが帰ってきたのが嬉しくて、ついっ……!」
慌てて体を離し、岬の両手から荷物を取る。
「それ、ライの服」
「っ!」
「とりあえず適当に選んだけど、これで外に出れるようになったから、明日、一緒に色々必要なものを買いに行きましょ?」
今日は何とか仕事を定時で切り上げ、帰り道に某衣料品店に寄ってきたのだ。
こちらにやって来るにあたって、ラインハルトなりに色々用意して持ってきたようだが、如何せん異世界のものだ。
どう見てもコスプレにしか見えない服で、外を歩かせるわけにはいかない。
「ありがとう! ミサキが私のために服をプレゼントしてくれるなんて……っ! 大事にするっ!」
「いやいや、それ、安物だし」
「値段は関係ない! ミサキが私のために選んでくれたのが嬉しいんだ!」
感極まった様子で抱きしめられて、岬は苦笑してしまった。
適当に買った安物を、ここまで喜ばれると何だか申し訳なくなってくる。
しかし、嬉しいのも事実だ。
彼女に貢ぐ男の気持ちを味わいながら、明日はちょっといい服屋に連れていくか、などと思った岬であった。
「カレー? 作ったの?」
先程から気になっていたのだが、部屋にはカレーの匂いが漂っている。
以前、何度かラインハルトと一緒にカレーを作ったことがあったため、きっとそれで覚えたのだろう。
「ああ。材料がなさ過ぎて、これくらいしか作れなかった。だから、肉は入ってない」
ここ最近、食事は全てコンビニや外食で済ませていたので、冷蔵庫には殆ど何も入れてなかったのだ。
その状態で、あるものから作れるものを判断してこうやって作るとは、流石としか言いようがない。
ラインハルト、どれだけスペックが高いのだ。
しかも、岬がスーツを脱いで着替えてリビングに戻ると、テーブルの上にはあとは食べるばかりとカレーが用意がされている。
岬は思わず感動した。
「美味しい!」
「よかった! ミサキにそう言ってもらえて、嬉しい!」
カレー自体も美味しいが、何より、またこうやって一緒に食べられることが嬉しいのだ。
隣で何とも嬉しそうにニコニコと岬を見詰めるラインハルトが居て、何だか岬は胸が一杯になってきた。
もう二度と、こんな風に過ごすことは叶わないと思っていたのだ。
思わず込み上げそうになる涙を誤魔化すように、岬はガツガツとカレーを口に運んだ。
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