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食べ終わった後も、食器の片づけから何から何までラインハルトがやってくれる。
最後には、目の前に食後のお茶まで出されて、岬はラインハルトが甲斐甲斐しい新妻のように見えてきた。
「……ふう。ライ、ありがとう」
出された紅茶を一口飲んで、お礼を言う。
すると、嬉しそうに笑いながら、ラインハルトがテーブルを回りこんで岬のすぐ隣に座った。
「こんなの、お安い御用だ」
言いながら、岬の手を握ってくる。
甘い雰囲気が漂い始めたところで、岬がそれを霧散させるかのように咳払いをした。
このまま雰囲気に流されてしまっては、朝の二の舞になってしまう。
まだ確認しなければならないことは、山ほどあるのだ。
「ライ。ちょっと、話をしましょうか」
「仰せのままに」
何とか真面目な顔を作るも、ラインハルトは依然甘い笑みを浮かべて岬の手を撫でている。
色気駄々洩れの笑顔を間近で向けられて、岬は一瞬クラリときたが、何とかそこは気概で持ちこたえた。
「ねえ、ライ。確認なんだけど、本当にもう、向こうには戻れないの?」
「そうだな。ミサキが望まない限りは、戻れない」
「じゃあ、私が望んだら、ライは元の世界に戻れるの?」
朝も言われたが、岬が望まない限り、という言葉がずっと気になっていたのだ。
すると、知らない内に不安な顔をしていたのだろう、ラインハルトが安心させるかのように岬の頬を撫でてきた。
「大丈夫だ。もう、離れることはない。戻るといっても、一緒に、という意味だ」
「それは……」
「私が向こうに戻るとしたら、それは岬が向こうに行ってもいいと思ったときだ。……そのかわり、向こうに行ったら、もう二度と、こちらの世界には戻れない」
「……」
つまり、岬がこちらの世界を捨てて、ラインハルト共に向こうの世界で暮らす、ということだろう。
やはり、こちらとあちらを行き来するということは出来ないらしい。
思わず岬が押し黙ると、ラインハルトが再び岬の頬を撫でてきた。
「ミサキ、安心していい。私はこちらで暮らしてもいいという覚悟でやってきたんだ」
「ライ……」
「当面、こちらの常識を覚えるまでは、岬の世話にならざるを得ないのが申し訳ないが、覚え次第、こちらで仕事を探すつもりだ」
「でも、ライは……、ライは、それでいいの……?」
ラインハルトは、子供の頃から騎士に憧れ、周囲の反対を押し切ってようやく騎士になったのだという。
しかもスティタフ子爵家の当主であるラインハルトは、本来であれば騎士といっても称号だけで、勤めるとしても王宮付きであるところを、一騎士として祖国を自らの手で守りたいからと、わざわざ辺境の地の警固に自ら志願したのだ。
以前にその話を聞いて知っていた岬は、自分のためにラインハルトがこれまで積み上げてきたもの全てを捨てざるを得ないことに、戸惑いと躊躇いを感じていた。
最後には、目の前に食後のお茶まで出されて、岬はラインハルトが甲斐甲斐しい新妻のように見えてきた。
「……ふう。ライ、ありがとう」
出された紅茶を一口飲んで、お礼を言う。
すると、嬉しそうに笑いながら、ラインハルトがテーブルを回りこんで岬のすぐ隣に座った。
「こんなの、お安い御用だ」
言いながら、岬の手を握ってくる。
甘い雰囲気が漂い始めたところで、岬がそれを霧散させるかのように咳払いをした。
このまま雰囲気に流されてしまっては、朝の二の舞になってしまう。
まだ確認しなければならないことは、山ほどあるのだ。
「ライ。ちょっと、話をしましょうか」
「仰せのままに」
何とか真面目な顔を作るも、ラインハルトは依然甘い笑みを浮かべて岬の手を撫でている。
色気駄々洩れの笑顔を間近で向けられて、岬は一瞬クラリときたが、何とかそこは気概で持ちこたえた。
「ねえ、ライ。確認なんだけど、本当にもう、向こうには戻れないの?」
「そうだな。ミサキが望まない限りは、戻れない」
「じゃあ、私が望んだら、ライは元の世界に戻れるの?」
朝も言われたが、岬が望まない限り、という言葉がずっと気になっていたのだ。
すると、知らない内に不安な顔をしていたのだろう、ラインハルトが安心させるかのように岬の頬を撫でてきた。
「大丈夫だ。もう、離れることはない。戻るといっても、一緒に、という意味だ」
「それは……」
「私が向こうに戻るとしたら、それは岬が向こうに行ってもいいと思ったときだ。……そのかわり、向こうに行ったら、もう二度と、こちらの世界には戻れない」
「……」
つまり、岬がこちらの世界を捨てて、ラインハルト共に向こうの世界で暮らす、ということだろう。
やはり、こちらとあちらを行き来するということは出来ないらしい。
思わず岬が押し黙ると、ラインハルトが再び岬の頬を撫でてきた。
「ミサキ、安心していい。私はこちらで暮らしてもいいという覚悟でやってきたんだ」
「ライ……」
「当面、こちらの常識を覚えるまでは、岬の世話にならざるを得ないのが申し訳ないが、覚え次第、こちらで仕事を探すつもりだ」
「でも、ライは……、ライは、それでいいの……?」
ラインハルトは、子供の頃から騎士に憧れ、周囲の反対を押し切ってようやく騎士になったのだという。
しかもスティタフ子爵家の当主であるラインハルトは、本来であれば騎士といっても称号だけで、勤めるとしても王宮付きであるところを、一騎士として祖国を自らの手で守りたいからと、わざわざ辺境の地の警固に自ら志願したのだ。
以前にその話を聞いて知っていた岬は、自分のためにラインハルトがこれまで積み上げてきたもの全てを捨てざるを得ないことに、戸惑いと躊躇いを感じていた。
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