異世界の騎士は風呂上がりのアイスをご所望です

碧 貴子

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 実はここ最近、ラインハルトが岬をそちらの世界に連れていくことを躊躇し始めていることに、岬は気が付いていた。
 この一か月こちらの世界で一緒に暮らしてみて、双方の世界の文明の差をいやというほど実感したのだろう。こちらに比べて随分と不便な世界に連れて行かざるを得ないことを気に病んでいるようなのだ。
 それに一緒に暮らしていれば、おのずと岬のこちらでの人間関係も見えてくるわけで、特に、岬を支えてくれた叔母夫婦と岬が会えなくなってしまうことを、申し訳なく思っているようだった。

 もちろん叔母夫婦には、異世界に嫁ぐことは言ってある。
 そして、向こうに行ったら二度とこちらには戻って来れない、ということもだ。
 しかしながら、最初その話を聞いたときには顔色を変えた叔母夫婦だったが、ついぞ反対の言葉は一言も口にしなかった。
 それどころか、笑顔で二人を祝福してくれたのだ。
 きっと、岬の覚悟の程がわかったからなのだろう。
 そして、何より岬に家族が出来るということを、心から喜んでくれたのだった。
 事故で両親を亡くした岬にとって、家族が出来るということの意味を叔母夫婦ほどよくわかっている人たちはいない。
 だからこそ、異世界という未知の世界に行ったとしても、それでも共に寄り添って一緒に生きていきたいと思えるほどの相手に出会えたということの意味がどれほどの事なのかを、わかってくれたのだろう。
 最後叔母夫婦は、岬を頼みますと、揃ってラインハルトに頭を下げたのだった。

「……それとも、ライが後悔してる?」
「まさか! それは絶対ない!」

 即座に否定されて、岬は内心ほっとした。
 岬だって、同じような不安がないわけではない。
 むしろそちらの世界では優秀で将来有望なラインハルトに、自分は果たして相応しいのだろうかと、どうしたって考えてしまう。
 8つも年上の異世界人であるのだから、なおさらだ。

「私にはミサキしかいない! ミサキ以外の女性など、あり得ない!」
 そう言って、ガバリと抱きしめてくる。

「ミサキと一緒にいられるのなら、全てを捨てたってかまわないんだ!」

 縋るように強く抱きしめられて、岬は腕を回してなだめる様にその背中を撫でた。

「私だって、同じ思いだよ?」

 岬とて、生半可な気持ちで異世界に行ってもいいと決意したわけではない。
 それがラインハルトだから、だ。

「ライとだったら向こうに行ってもいいと思ったからそう言ったんだし。何より、それでも私がライと一緒に居たいと思っちゃたんだから」

 優しく、諭すように言い聞かせる。
 すると、更に強く抱きしめて、ラインハルトが岬の肩に顔を埋めた。

「…………でも私は、これからもきっとミサキを束縛するぞ? たとえ相手が女性でも、ミサキの関心が私以外に向けられたら、みっともなく嫉妬して、さっきみたいなことをしてしまうぞ? こんな、子供っぽい、独占欲の塊みたいな私で、本当にミサキは後悔してないか……?」

 何とも辛そうに聞いてくる。
 そんなラインハルトを抱きしめ返した後で、岬は一旦体を離してその瞳を見詰めて微笑んだ。


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