異世界の騎士は風呂上がりのアイスをご所望です

碧 貴子

文字の大きさ
61 / 93

16-1

しおりを挟む

 岬が目を覚ますと、そこは寝室だった。
 服を着せられて、ベッドに寝かされている。
 汗と体液でベタベタだったはずの体も、サラサラと清潔になっているところをみるに、ラインハルトが綺麗にしてくれたのだろう。
 しかし、その肝心のラインハルトが居ない。
 最近は、目が覚めたらラインハルトが隣に居るのが当たり前になってきている岬は、今ここにラインハルトが居ないということに、言いようのない寂しさを覚えて体を起こした。

 そのままベッドから降りようとしたところで、ちょうどそのとき、寝室の扉を開けてラインハルトがやって来るのを見た岬は、知らぬうちにホッとため息を吐いた。

「ライ」
「ミサキ……」

 側までやって来てベッドに腰かけたラインハルトは、眉を下げて何とも情けない顔をしている。
 きっと、先程のことを気に病んでいるのだろう。
 柔らかな金色の髪の間には、ペタッと伏せられた耳が見えるようだ。

「ミサキ、済まなかった」
 そう言って、ふっと目を逸らす。

「…………色々と、不安になってしまって……」
「ライ……」
「ミサキがあんな風に家に誰かを連れて来るなんて、初めてだったものだから……」

 やはり、愛良のことを意識していたらしい。
 しかし、ただの会社の後輩で、しかも女である愛良にまで嫉妬をするほど思われているという事実に、岬は何だかくすぐったいような嬉しさが込み上げてくるのがわかった。

「……子供っぽいことをしてしまった。……すまない」

 目線を下に向けたまま、謝ってくる。随分と落ち込んでいるようだ。
 そんなラインハルトに、岬は愛しさで胸が一杯になった。
 その思いのままに、腕を伸ばしてラインハルトの頭に手を置く。
 見た目通りに柔らかいその金の髪を撫でると、ようやくラインハルトが顔を上げた。

「ミサキ……? 怒って、ないのか……?」

 おずおずと聞かれて、岬は思わず微笑んだ。

「何を?」
「だって、さっきは……」

 言葉を途切れさせて、再び視線を下に落とす。
 その様子が何だか可愛くて、悪いと思いつつも岬は声を立てて笑ってしまった。

「ははは! ちょ、ライ! 何でそんな気にしてんの!?」
「そ、それはそうだろう!? あんなところで、強引にあんなっ……」
「そう? 良かったけど?」
「……っ!」

 ニヤッと笑って見上げれば、ラインハルトが真っ赤になって固まってしまっている。
 先程までの強引さが嘘のように初心うぶな反応だ。
 それが可笑しくて、岬は笑いながらラインハルトの首に腕を回して引き寄せた。

「ははははは! ライったら、さっきはあんなことしておいて、今更でしょう!?」
「……」
「あー、もう! ホント、可愛いなあ!」

 引き寄せた頭を胸に抱き込んで、わしゃわしゃとその髪を撫でまわす。
 ラインハルトは岬にされるがままだ。
 思う存分頬ずりして撫で倒した岬は、ラインハルトの頭がぼさぼさになってから、ようやく解放した。

 そんな若干興奮気味で顔が赤い岬だったが、ラインハルトがそっとその手を取って、窺うように岬の瞳を覗き込んできた。

「……ミサキ。……ミサキは、本当に私と向こうの世界に行くことに、後悔はないか?」

 岬を見詰めるラインハルトの瞳が、不安に揺れている。
 多分この不安が、ラインハルトを先程の行動に駆り立てたのだろう。
 揺れる青い瞳を見つめ返して、岬は取られた手をギュッと握った。

「ないよ?」
「……」
「前も言ったけど、ライほど私はこっちにしがらみや思い入れがあるわけじゃないからね」
「しかし……」

 言い淀み、目を逸らせる。
 そんなラインハルトに、岬は苦笑してしまった。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

女公爵になるはずが、なぜこうなった?

薄荷ニキ
恋愛
「ご挨拶申し上げます。わたくしフェルマー公爵の長女、アメリアと申します」 男性優位が常識のラッセル王国で、女でありながら次期当主になる為に日々頑張るアメリア。 最近は可愛い妹カトレアを思い、彼女と王太子の仲を取り持とうと奮闘するが…… あれ? 夢に見た恋愛ゲームと何か違う? ーーーーーーーーーーーーーー ※主人公は転生者ではありません。

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

エリート課長の脳内は想像の斜め上をいっていた

ピロ子
恋愛
飲み会に参加した後、酔い潰れていた私を押し倒していたのは社内の女子社員が憧れるエリート課長でした。 普段は冷静沈着な課長の脳内は、私には斜め上過ぎて理解不能です。 ※課長の脳内は変態です。 なとみさん主催、「#足フェチ祭り」参加作品です。完結しました。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

処理中です...