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しおりを挟む岬が目を覚ますと、そこは寝室だった。
服を着せられて、ベッドに寝かされている。
汗と体液でベタベタだったはずの体も、サラサラと清潔になっているところをみるに、ラインハルトが綺麗にしてくれたのだろう。
しかし、その肝心のラインハルトが居ない。
最近は、目が覚めたらラインハルトが隣に居るのが当たり前になってきている岬は、今ここにラインハルトが居ないということに、言いようのない寂しさを覚えて体を起こした。
そのままベッドから降りようとしたところで、ちょうどそのとき、寝室の扉を開けてラインハルトがやって来るのを見た岬は、知らぬうちにホッとため息を吐いた。
「ライ」
「ミサキ……」
側までやって来てベッドに腰かけたラインハルトは、眉を下げて何とも情けない顔をしている。
きっと、先程のことを気に病んでいるのだろう。
柔らかな金色の髪の間には、ペタッと伏せられた耳が見えるようだ。
「ミサキ、済まなかった」
そう言って、ふっと目を逸らす。
「…………色々と、不安になってしまって……」
「ライ……」
「ミサキがあんな風に家に誰かを連れて来るなんて、初めてだったものだから……」
やはり、愛良のことを意識していたらしい。
しかし、ただの会社の後輩で、しかも女である愛良にまで嫉妬をするほど思われているという事実に、岬は何だかくすぐったいような嬉しさが込み上げてくるのがわかった。
「……子供っぽいことをしてしまった。……すまない」
目線を下に向けたまま、謝ってくる。随分と落ち込んでいるようだ。
そんなラインハルトに、岬は愛しさで胸が一杯になった。
その思いのままに、腕を伸ばしてラインハルトの頭に手を置く。
見た目通りに柔らかいその金の髪を撫でると、ようやくラインハルトが顔を上げた。
「ミサキ……? 怒って、ないのか……?」
おずおずと聞かれて、岬は思わず微笑んだ。
「何を?」
「だって、さっきは……」
言葉を途切れさせて、再び視線を下に落とす。
その様子が何だか可愛くて、悪いと思いつつも岬は声を立てて笑ってしまった。
「ははは! ちょ、ライ! 何でそんな気にしてんの!?」
「そ、それはそうだろう!? あんなところで、強引にあんなっ……」
「そう? 良かったけど?」
「……っ!」
ニヤッと笑って見上げれば、ラインハルトが真っ赤になって固まってしまっている。
先程までの強引さが嘘のように初心な反応だ。
それが可笑しくて、岬は笑いながらラインハルトの首に腕を回して引き寄せた。
「ははははは! ライったら、さっきはあんなことしておいて、今更でしょう!?」
「……」
「あー、もう! ホント、可愛いなあ!」
引き寄せた頭を胸に抱き込んで、わしゃわしゃとその髪を撫でまわす。
ラインハルトは岬にされるがままだ。
思う存分頬ずりして撫で倒した岬は、ラインハルトの頭がぼさぼさになってから、ようやく解放した。
そんな若干興奮気味で顔が赤い岬だったが、ラインハルトがそっとその手を取って、窺うように岬の瞳を覗き込んできた。
「……ミサキ。……ミサキは、本当に私と向こうの世界に行くことに、後悔はないか?」
岬を見詰めるラインハルトの瞳が、不安に揺れている。
多分この不安が、ラインハルトを先程の行動に駆り立てたのだろう。
揺れる青い瞳を見つめ返して、岬は取られた手をギュッと握った。
「ないよ?」
「……」
「前も言ったけど、ライほど私はこっちに柵や思い入れがあるわけじゃないからね」
「しかし……」
言い淀み、目を逸らせる。
そんなラインハルトに、岬は苦笑してしまった。
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