大嫌いな双子の妹と転生したら、悪役令嬢に仕立て上げられました。

美杉日和。(旧美杉。)

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第一章

第四話 気づきもしたくなかった未来

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 うっすらと重い目蓋を開ける。

 生きている。

 そのことに驚きながら、私は体を一気に起きあがらせようとした。


「痛……たい」


 ああ、トラックに轢かれたのだから、当たり前か。

 しかし私の体のどこにも、包帯は見当たらない。

 それどころか、目の前にある自分の手は驚くほど白い。

 いくら今まで帰宅部だとはいえ、こんなにも肌が白かったことはなかったはずだ。

 白魚のような手というのは、こういうものなのかと感心してみた。


「……いやいや」


 何かおかしい。

 今寝かされているのは、天蓋の付いた白いベッドだ。

 よく見ればそこには細やかな金の刺繍が贅沢に施されている。

 ここは明らかに、私が知っている病院というものではない。

 しかも誰かの家ということにしても、造りが日本のそれとは全く違う。

 辺りを見渡すと、さらりと髪が揺れ視界に留まった。

 サラサラとした艶のあるやや落ち着いたブルーのストレートヘア。

 手に取れば、それが自分の髪なのだと改めて自覚する。

 髪の長さは腰の辺りまであるだろうか。

 白いリネンの上に広がる様は、まるで波打つ海のように思えた。


「何これ……。違う、誰、これ」


 白く透けたような肌に、アイスブルーの髪。

 いやいやこれはもう、おかしいというレベルを超えてしまっている。


「鏡はどこ?」


 どういうことなの? 何が起きたの? 

 考えれば考えるほど、頭の中はぐるぐると回りだす。


「いやだ、きもちわるい」


 胸を押さえて前屈みになると、ふいにドアをノックする音が聞こえた。

 そしてこちらの返事を待つことなく、一人の少女が部屋に入ってくる。


「姉ぇさま、もう起きましたか~?」


 ドクンと心臓の音が早くなる。

 胸を押さえていた手が、思わずそのまま着ている服を握りしめた。

 違う。この声は違う。

 唯奈ではない。

 そう思っているはずなのに、手指から一気に血の気が引いていくのが分かった。


「あ、やっぱり起きていたんだ~、姉ぇさま。それなら声をかけてくれればいいのに。あれ? ねぇ、もしかして思い出した?」


 期待に満ちた瞳で、少女は私の顔を覗き込む。

  唯奈と同じくらいの年だろうか。

 ふわふわとしたハニーブロンドの髪を上だけ軽く結い上げ、白とピンクのシルクのようなドレスを身に着けた少女が部屋に入ってきた。

 歩くたびに裾のレースが揺れ、とても可憐で華奢だ。

 どこかのお姫様だと言われれば、そうだと思えてしまうくらいに。

 しかしその少女の声も姿形も全く違うというのに、小馬鹿にしたようなその笑みがなぜか唯奈と被る。


「ノックの返事もなしに、勝手に部屋に入ってきてはいけないといつも言われているでしょう


 そう、私はこの少女を知っている。

 なぜ今このタイミングで思い出したのだろう。

 今の私は唯花ではなく、アイリス・ブレイアムという名のブレイアム侯爵家の長女だ。

 そしてこの少女は私の二つ下の妹である、チェリー・ブレイアム。

 おかしいな。先ほどまで、確かに私は唯花だったはずなのに。

 本当に? いや、違う。

 アイリスとして生きた17年分の記憶は、確かに私の中にある。

 ただ記憶がバラバラになったパズルのように、いろんなところに飛んでいてもう訳が分からない。

 だけど一つだけ確かなことがある。

 記憶が戻ったことを、この子に絶対に伝えてはいけない。

 そう自分の中のどこかが警告しているのだ。


「あれぇ? 今度こそ戻ったと思ったのになぁ……。それとも違うのかなぁ」


 チェリーは独り言とも取れる小さな声で呟きながら、小首を傾げた。

 記憶が戻った? この子は私のどの記憶のコトを言っているの?


「何を分からないことを言っているの? それより、私はなんで部屋で寝かされていたの? 確か馬車が……」

「えー。そこの記憶もないの、姉ぇさま。頭打ったから、余計に……」


 口元を抑えて、クスリと笑う。

 見る人から見れば、可憐な少女なのかもしれない。

 しか私には悪意しか読み取れない。


「チェリー、あなた!」

「やだぁ、そんな眉間にしわを寄せて、怖いお顔。そんなだから、夜会でも男の方が寄って来ないのですよ。んーとぁ、なんでしたっけ。そうそう、氷の姫君。姉ぇさまはそんな風に呼ばれていましたよね。もっと愛想をふりまかないとそんなんじゃ、貰い手なくなっちゃいますょ」


 私だってこの不名誉な名をずいぶん前に付けられたことは知っている。

 だけどチェリーのように愛想を振りまく方法なんて知らない。

 そう過去においてだって、愛想よくするなんてことをしたことがないのだから仕方ないじゃない。

 この世界では貴族の女性として生まれた以上、良家に嫁ぐことが最も幸せなことだと言われている。

 ただそれも婚約者をチェリーに盗られた以上、絶望的かもしれない。

 ゆっくりと、なんとなく状況が掴めてくる。

 私たちはあの日トラックに轢かれて助からず、この世界に生まれ変わったのだ。

 前に読んだ本で、異世界転生とかいわれていたものがあった。

 おそらく、そういったものの類だろう。

 そして先ほどからの言動を考えれば、チェリーは唯奈だ。

 よりによって唯奈と共に転生してしまうなんて。

 もし唯一の救いがあるとしたら、それは双子ではないということだけ。

 それにしても、また姉妹だなんて……。

 運がないにもほどがあるわ。

 ため息を、気づかれないように飲み込んだ。


「頭がすごく痛むから、もう横になりたいのだけど」


 これは嘘ではない。

 記憶が戻って混乱しているせいか、それとも物理的になのか。

 先ほどから、頭や節々が痛くて仕方ないのだ。


「姉ぇさまってツイてないですよねー。わたしに婚約者を盗られた挙句、事故にあってしばらく動けないなんてぇ。お父様たちには、わたしの口からちゃぁんと説明しておきますからね」

「チェリー!」

「ふふふ。可哀相な姉ぇさま。でも……んー、やっぱりこれでもダメかぁ」

「これでもって、どういう意味なのチェリー」

「何でもないですょ。こっちの話ですぅ」


  そう言って、またニコリと笑う。

  確かに大きな音を立てながら馬車が転倒したとこまでは記憶がある。

 しかし侯爵家の馬車がそう簡単に転倒などするだろうか。

 ただ記憶が曖昧な今は、どれだけ考えても分からないだろう。

 とにかく今は、ただ一人になりたい。

 両親にチェリーから先に事情を説明させるのは避けたかったが、今はそれよりも休みたかった。

 チェリーに再び声をかけ退出を求めようとした時、ふいにドアをノックする音が聞こえてくる。


「はい、どうぞ」

「アイリスお嬢様、失礼いたします。グレン様がいらしているのですが、いかがいたしましょう? こんな状況ですので、お断りをしようかと家令と話をしていたのですが」


 1人の侍女が、申し訳なさそうな顔で入室してきた。
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