大嫌いな双子の妹と転生したら、悪役令嬢に仕立て上げられました。

美杉日和。(旧美杉。)

文字の大きさ
8 / 89
第一章

第七話 断罪の続きのような昼食会

しおりを挟む
 客間には、すでにグレンもチェリーも両親も集まっていた。

 どうやら私が一番最後だったらしい。

 全員の視線が一斉に突き刺さる。

 その表情は様々だ。

 私の姿に驚いた様な表情を浮かべたグレンに、チェリーが露骨に嫌な顔をする。

 母はやや厳しい表情で、父はほぼ感情は読み取れない。


「遅くなりました」


 知らされていた予定の時間より早かったはずだが、一応詫びてみる。


「お姉ぇさま、グレン様がせっかくいらしているのに遅刻だなんてぇ」

「遅刻? そう? 私が聞いていた時間とは、少し違ったみたいね」


 グレンの横の席をすでに陣取っているチェリーは、口を尖らせた。


「誰がアイリスに時間を教えたのかしら?」


 母は怪訝な顔を侍女たちへ向けた。

 ああ……やられたわ。

 わざと私の聞いた時間だけが、違っていたみたい。

 まぁ、こんな幼稚な嫌がらせをする人間など一人だけ。

 そしてここで私が真実を言えば、きっとあの侍女に迷惑がかかってしまう。

 笑みを浮かべるチェリーを見ると、おそらくこうなることも全て分かっていてやったのだろう。


「今私のところには侍女がおりませんので、勘違いしたのかもしれません」
  

 言いながら、惨めになってくる。

 ここですら誰も私の味方はいないのね。
 

「まったく困ったものね」


 母がため息をつくと、チェリーはとても満足そうだった。

 私は二人の視線を無視し、母の隣に座る。

 和やかなはずのこの雰囲気の中で、異様に居心地が悪いのはたぶん私だけなのだろう。

 私が席に着くと、見計らったかのようにお茶やそれに合わせたケーキなどのお茶菓子が運ばれてきた。

 談笑する彼らを横目に、一人黙々と食べ始める。

 婚約破棄された娘と、新たに婚約をされる娘。

 二人を同じ場で食事させるなど、普通に考えればありえない。

 これを許す意図はどこなのだろう。


「侯爵様、今日僕が面会を申し込んだ理由は、婚約のことについてなのですが」

「チェリーから一通りの話は聞いている」

「わたしからお父様にも今回の事情を説明しておいたのですよ~。グレン様のお手を煩わせてもぉ、いけないので」

「……」


 ある程度はこの状況も理解はしていたが、これでは二度目の断罪を受けている気がする。

 チェリーが確実に前世の記憶を持っていることは分かっても、なぜここまで私に固執するのだろう。

 私がなにをしてきたというの?

 こんなに断罪されなければいけないほどのことなど、なにもしてはいないのに。


「アイリスとの婚約を破棄し、チェリーとの婚約の結びなおしをお願いできますでしょうか?」

「もちろんだ。我が一族としては、娘の幸せと公爵家との縁が一番大事なのだから」


 グレンから婚約の申し込みの手紙を受け取った父は、満面の笑みだ。

 そして、その顔をちらりと私に向ける。

 相変わらず私に向ける表情は固い。

 チェリーの説明をきっと、信じて疑わないのだろうなぁ。

 胸の奥が締め付けられるのを、私はあくまで無視する。

 今更こんなことで傷つかない。傷つくはずがないわ。


「はい、ありがとうございます」

「ふふふ。嬉しい。こんなに嬉しい日はないですわ。お父様、グレン様ありがとーございます」


 涙を目にいっぱい溜めてウルウルとさせながら、チェリーは隣に座るグレンの手に自分の手を重ねる。

 予定調和というか、わざとらしい演技というか。

 私はこんなに不快な思いをしながら、何を見せられているのだろう。


「チェリー、君には正式なプロポーズはまた別の場所でさせてもらうけれど、これからは僕だけを見つめて欲しい。この婚約を受けてくれるかい?」

「まぁ、グレン様。もちろんですわ」

「おめでとう、チェリー。早速、ドレスの準備をしなければね」

「はい、お母様」

「よかったな、チェリー」

「ええ。本当に幸せですわ」

 そう言いながら、ちらちらとチェリーは視線を私に向ける。

 幸せそうな家族風景だが、会話が私の中には入っていかない。

 ただ幸せな家庭の中での疎外感は、前世ともなんの大差もなかった。

 またなのね。

 生まれ変わっても、また私の居場所はどこにもない。


「アイリス、チェリーたちから聞いた話なのだが今回この婚約破棄になった経緯は理解しているのか?」

「理解……。理解とは?」


 どうせ私の意見など聞く気もないくせに。

 ここに呼んだのだって見せしめでしかない。

 お父様この人はなにが言いたいのだろうか。

 違うな。

 お父様はなんと言わせたいのだろうか。

 今だってここに至る経緯すら分かってもいないのに。


「あなた、なにも今こんなおめでたい席で」

「だとしてもだ。貴族令嬢である以上、結婚をしなければここでは生きてはいけない。次の夜会にはキチンと出席をして、新しい婚約者を探すんだ」


 そんなこと……。でもまぁ、そうだったわね。

 この世界では、女性貴族の身分などあってないようなもの。

 そしてこの石頭とも言える父には特に、女は結婚してこその幸せという文字しかない。

 もしこのまま次の婚約者が見つからなかったら、私はどうなるのだろう。

 だけど一つだけ分かることはある。


「承知しました、お父様」


 反論は許されないということだ。

 今ここで反論したところで、なにもいいことなどない。

 身の振りを決める権限も、ココでは父にしかないのだから。

 こんなことを言わすためだけに呼んだと言うのなら、茶番でしかないわね。

 見せしめに、忠告。

 まったくひどい断罪のような昼食会ね。


「お父様、私はお邪魔のようですし、そろそろ退出してもよろしいでしょうか?」


 父は私に何か言いたげな顔をしていたが、それを読み取ることは出来ない。

 そしてもちろん、今の私には読み取るつもりもなかった。


「……そうだな」

「そうね、アイリスはまだケガも万全ではないのだから、そうしなさい」

「ありがとうございます」


 母の助け舟にほっとしながら、一礼してそそくさと息苦しい空間から逃げ出したのだった。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///) ※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。 《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。

ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。 そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。 すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

谷 優
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。 お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。 ◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

辺境伯に嫁いだので、可愛い義息子と楽しい辺境生活を送ります ~ついでに傷心辺境伯とのぐずぐずの恋物語を添えて~

空野 碧舟
ファンタジー
父が作った借金返済の代わりに、女好き辺境伯ヒューバートの後妻として差し出された子爵令嬢エメリーン・オルクス。 父と義母と義姉とに満面の笑顔で見送られたエメリーンだったが、ヒューバートは初夜ですら花嫁の元を訪れることはなく、その翌日エメリーンだけを辺境伯領へ向かう馬車に乗せた。 ーー過去に囚われている眉目秀麗な女好き辺境伯と、義賊の記憶持ちで口やかましい元子爵令嬢の、少し変わった子育てとぐずぐずな恋物語。 「私の言っていること聞こえていますか。耳はまだ腐っていませんか。とにかく何が言いたいかって言うと、今すぐ屋敷に戻ってきやがれ、ってことです。分かりましたか、このクズ旦那様」

処理中です...