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第一章
第十二話 売り言葉に買い言葉
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「最近の成り上がりは困ったものね」
「ホントね。あいつらって、すぐ貴族ぶるから!」
こちらが言い返さないことをいいことに、まぁ言いたい放題もいいところね。
こんな時に連れの貴族っぽい男も、注文を受けたボーイも帰ってこないし。
まったく困ったものだわ。
うちの席は席で、二人がだんだんとイライラしてきているし。
うん。こういうのをカオスっていうのね、きっと。
「アイリスお嬢様、わたし文句言ってきます」
「ルカ、辞めておきなさい。馬鹿がうつるわよ」
「それはそうですが……」
「なんですって!」
ああ。そんなに大きな声で言ったつもりはないのに、どうやら向こうまで聞こえていたらしい。
あんなに大きな声で話していたから、てっきり耳でも悪いのかと思ったのに。
こうなってしまえば、売り言葉に買い言葉かな。
向こうだって好き勝手に言ってたんだから、こちらに言われても仕方ないと思わないとね。
前までの私なら絶対に言い返さず、さっと逃げてただろうけど。
それで何も変われないのはもう痛いほど知っているから。
「あら、ごめんなさい? 低俗なのがうつると言った方がよかったかしら? あまりに聞きなれない言葉ばかり言っていたので」
口元を抑え、小首をかしげながらニヤリと笑う。
一度やってみたかったのよね、チェリーの真似。
やっている自分が笑い出すのを必死にこらえる。
「なんなの、あんた何様のつもり」
「いい気になっているんじゃないわよ」
「何様って、嫌だわ。そんなにキーキー騒ぐと、動物みたいですわよ」
「なんですって!」
私が鼻で笑うと、彼女たちはさらにヒートアップする。
そして今にも掴みかからんとばかりの勢いで、距離を詰めてきた。
するとさすがにここまでの大きな声を聞きつけた店員たち数名が、階段を駆け上がってくる。
「どうされました、お客様」
オーナーを名乗る人物が、真っ先に母の元へ駆け寄った。
その顔はどこか蒼白で、少し気の毒にも思える。
「ここは静かだったから、とても気に入っていたのだけど、ホント残念ね」
気に入っていた。
あーあ、すでに過去形だ。
母のその言葉にオーナーの顔は蒼白を通り越し、完全に血の気が引いてしまっている。
この人はどちらが上客なのか、きちんと分かっているのだ。
そしてここは貴族をメインとしたお店。
貴族はお互いの情報や口コミなどをすごく大事する生き物である。
もし母の口からここの店はもう来ないと言われてしまえば、あっという間に客足は遠のくだろう。
他の若い店員が彼女たちの元へ行ったものの、興奮しいているのかまだ騒いでいた。
元気がいいというか、なんというか。
「……あのお方のお連れ様だから、許可したものを……」
オーナーは下を向き、ぶつぶつ独り言を繰り返す。
あのお方? おそらく先ほどの貴族の男性のことだろう。
こんな貴族かどうかも分からない女性たちを連れてきても何も言われないほど、身分が高いってことかな。
「こらこら、どうしたんだい? 小猫ちゃんたち」
階段をゆったりと男性が上がってきた。
彼女たちの連れの男だ。
店員を押しのけ、私を指さしながらワーワーと彼女たちは何か文句を言っている。
私たちのところにいたオーナーがうんざりしたような顔を一瞬した後、すぐに笑顔を取り繕って男性の元へ向かった。
「キース様、さすがに騒ぎを起こされるとこちらも困ってしまいます」
キースと言われた男はこちらをちらっと見た。
金よりの茶色い髪に、夜明けを思わす茜色の瞳。
瞳の色と同じ服には、細やかな金の刺繍が施されていた。
金持ちの上級貴族の次男か三男といったところだろうか。
元々、あまり夜会などに参加しない私には誰かまでは分からないが、身分がそれほど低くないことは分かる。
それにしても、ジロジロ見るなんて失礼な人。
この人まで私たちに文句を言うつもりかしら。
構えていると、そのままこちらに近寄ってくる。
「うちの子たちが迷惑をかけたようだ。気分を悪くさせてしまって申し訳ない」
チャラい見た目のわりに、キースと呼ばれた男の人は丁寧に頭を下げた。
ん-。あの女の人たちと違って、意外に中身はマトモなのかもしれないわね。
「いえ、大丈夫です。別に実害があったわけではないですので」
「いや、だいぶ騒がしくしてしまったようだね。お詫びにここの支払いは俺が持とう。本当にすまなかったね」
「お詫びだけで結構です。見も知らぬ方におごってもらうつもりはございません」
「これは、これは。そうだね、俺はキース。覚えてくれれば光栄だ。美しい人よ」
そう言って許可もなく手を取ったかと思うと、手の甲にキースは口づけした。
「え?」
一瞬何が起こったのか分からなかった私は、ただその場で固まる。
「きゃー。キース様!」
甲高い彼女たちの悲鳴に近い声が店内に響く。
叫びたいのは私の方だ。
しかしキースはそんなことを気にすることもなくきびすを返すと、手をひらひらさせながら彼女たちを連れて降りて行った。
「お、お嬢様、大丈夫ですか」
「なんなの、あれ……」
チャラいというのか、何というのか。
もはや、人種が私とは全く違うように思えた。
「ホントね。あいつらって、すぐ貴族ぶるから!」
こちらが言い返さないことをいいことに、まぁ言いたい放題もいいところね。
こんな時に連れの貴族っぽい男も、注文を受けたボーイも帰ってこないし。
まったく困ったものだわ。
うちの席は席で、二人がだんだんとイライラしてきているし。
うん。こういうのをカオスっていうのね、きっと。
「アイリスお嬢様、わたし文句言ってきます」
「ルカ、辞めておきなさい。馬鹿がうつるわよ」
「それはそうですが……」
「なんですって!」
ああ。そんなに大きな声で言ったつもりはないのに、どうやら向こうまで聞こえていたらしい。
あんなに大きな声で話していたから、てっきり耳でも悪いのかと思ったのに。
こうなってしまえば、売り言葉に買い言葉かな。
向こうだって好き勝手に言ってたんだから、こちらに言われても仕方ないと思わないとね。
前までの私なら絶対に言い返さず、さっと逃げてただろうけど。
それで何も変われないのはもう痛いほど知っているから。
「あら、ごめんなさい? 低俗なのがうつると言った方がよかったかしら? あまりに聞きなれない言葉ばかり言っていたので」
口元を抑え、小首をかしげながらニヤリと笑う。
一度やってみたかったのよね、チェリーの真似。
やっている自分が笑い出すのを必死にこらえる。
「なんなの、あんた何様のつもり」
「いい気になっているんじゃないわよ」
「何様って、嫌だわ。そんなにキーキー騒ぐと、動物みたいですわよ」
「なんですって!」
私が鼻で笑うと、彼女たちはさらにヒートアップする。
そして今にも掴みかからんとばかりの勢いで、距離を詰めてきた。
するとさすがにここまでの大きな声を聞きつけた店員たち数名が、階段を駆け上がってくる。
「どうされました、お客様」
オーナーを名乗る人物が、真っ先に母の元へ駆け寄った。
その顔はどこか蒼白で、少し気の毒にも思える。
「ここは静かだったから、とても気に入っていたのだけど、ホント残念ね」
気に入っていた。
あーあ、すでに過去形だ。
母のその言葉にオーナーの顔は蒼白を通り越し、完全に血の気が引いてしまっている。
この人はどちらが上客なのか、きちんと分かっているのだ。
そしてここは貴族をメインとしたお店。
貴族はお互いの情報や口コミなどをすごく大事する生き物である。
もし母の口からここの店はもう来ないと言われてしまえば、あっという間に客足は遠のくだろう。
他の若い店員が彼女たちの元へ行ったものの、興奮しいているのかまだ騒いでいた。
元気がいいというか、なんというか。
「……あのお方のお連れ様だから、許可したものを……」
オーナーは下を向き、ぶつぶつ独り言を繰り返す。
あのお方? おそらく先ほどの貴族の男性のことだろう。
こんな貴族かどうかも分からない女性たちを連れてきても何も言われないほど、身分が高いってことかな。
「こらこら、どうしたんだい? 小猫ちゃんたち」
階段をゆったりと男性が上がってきた。
彼女たちの連れの男だ。
店員を押しのけ、私を指さしながらワーワーと彼女たちは何か文句を言っている。
私たちのところにいたオーナーがうんざりしたような顔を一瞬した後、すぐに笑顔を取り繕って男性の元へ向かった。
「キース様、さすがに騒ぎを起こされるとこちらも困ってしまいます」
キースと言われた男はこちらをちらっと見た。
金よりの茶色い髪に、夜明けを思わす茜色の瞳。
瞳の色と同じ服には、細やかな金の刺繍が施されていた。
金持ちの上級貴族の次男か三男といったところだろうか。
元々、あまり夜会などに参加しない私には誰かまでは分からないが、身分がそれほど低くないことは分かる。
それにしても、ジロジロ見るなんて失礼な人。
この人まで私たちに文句を言うつもりかしら。
構えていると、そのままこちらに近寄ってくる。
「うちの子たちが迷惑をかけたようだ。気分を悪くさせてしまって申し訳ない」
チャラい見た目のわりに、キースと呼ばれた男の人は丁寧に頭を下げた。
ん-。あの女の人たちと違って、意外に中身はマトモなのかもしれないわね。
「いえ、大丈夫です。別に実害があったわけではないですので」
「いや、だいぶ騒がしくしてしまったようだね。お詫びにここの支払いは俺が持とう。本当にすまなかったね」
「お詫びだけで結構です。見も知らぬ方におごってもらうつもりはございません」
「これは、これは。そうだね、俺はキース。覚えてくれれば光栄だ。美しい人よ」
そう言って許可もなく手を取ったかと思うと、手の甲にキースは口づけした。
「え?」
一瞬何が起こったのか分からなかった私は、ただその場で固まる。
「きゃー。キース様!」
甲高い彼女たちの悲鳴に近い声が店内に響く。
叫びたいのは私の方だ。
しかしキースはそんなことを気にすることもなくきびすを返すと、手をひらひらさせながら彼女たちを連れて降りて行った。
「お、お嬢様、大丈夫ですか」
「なんなの、あれ……」
チャラいというのか、何というのか。
もはや、人種が私とは全く違うように思えた。
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