18 / 89
第一章
第十五話 父と娘な親子関係
しおりを挟む
ルカの提案で髪はいつものハーフアップではなく、頭の上に高く結い上げられた。
そして金の星の形をしたピンが髪に散りばめられている。
一見、暗そうに見えたドレスは形が華やかなこともあり、私の白い肌によく映える。
化粧もいつになく、ばっちりメイクだ。
ドレスの前の部分が短いこと以外は、文句のない仕上がりになっている。
鏡で何度見ても、ぱっとしなかった唯花だった時より2割増し美人ではあると自分でも思う。
ちょっと化粧も濃い気がするけど、夜会だしこんなものよね。
それにしても、ん-。
確かにキツそうな顔だけど、綺麗めな美人さんって感じだよなぁ。
「こんなに美しいお嬢様なら、きっとたくさんの方に言い寄られてしまいますわ。今日の主役はアイリスお嬢様で間違いありません」
「んー。それはどうかしら。頑張って愛想よくして、お父様が合格点を出すような婚約者を探してこないと」
「にこりと微笑めば、すぐみんな堕ちてしまいますって」
「もう。ルカは口が上手いんだから。ところで今日は上着はいらないかしら」
「行き帰りは馬車ですので、大丈夫だとは思いますよ」
「ああ、それもそうね」
そう言いながら、ルカと玄関のホールに向けて歩き出す。
10センチはあるだろうヒールは、なかなか歩きづらい。
そしてどうしても短い裾が気になって、いつもより歩幅が狭くなってしまう。
「あらお父様、今お帰りですか?」
玄関ホールには母ではなく、今帰宅したばかりの父がいた。
私を見て、父が一瞬固まる。
しかしそれも一瞬のことで、すぐに眉間にしわを寄せた。
「なんだ、そのドレスは」
「なんだって……グレン様にいただいたものですが、どこかおかしいでしょうか」
別に私だって好き好んでこのドレスを着ているわけでもないのに、その言いようはないだろう。
似合わないからといって、何もそんな言い方をしなくてもいいのに。
心がぎゅっと縮み、思わず泣きそうになる。
こんなことなら既製品でも何でもいいから、他の物を着ればよかった。
ああ、ホントに。
ため息も涙も、一生懸命堪える。
せっかくルカが太鼓判を押してくれたし、頑張ってもらったのに。
こんなことで台無しにしたくない。
「あなた、その言い方ダメですよ。アイリスには、ちゃんと最後まで分かりやすく言わないと伝わらないですよ。何度説明したら分かるのですか?」
奥の部屋から出て来た母が、ため息交じりに父へ苦言を呈す。
母が父に意見しているのを、私は初めて見た気がする。
しかし先ほどのセリフから、何度も言われているようだ。
「いや、だから、その……だな」
「もぅ、仕事のことならなんでもズケズケと言えるくせに、娘のこととなると何でそうなるのですか。アイリスあなたが誤解しているだろうから、この人の言葉を代弁してあげると、その裾の短いドレスはどうしたのだ。そんな短いドレスを着て、何かあったらどうするんだ。と、言いたいのよ。あなたがあまりに綺麗なものだから、お父様は心配で仕方ないのよ」
「綺麗……心配……。そうなのですか? お父様」
「あ、当たり前だろう。誰か言い寄ってくるような奴がいたら、すぐに言いないさい」
「うふふふふ、お父様はあなたのその姿に惚れて言い寄ってくる輩は、みんなお断りして二度と近づけないようにするってよ」
「え、えええ。でも婚約者を探しにって」
「それとこれとは別だ」
「そんな難しい」
「その恰好でではなく、お前の内面を見て判断して下さる人を探しなさい」
なんだ。急に肩の力が抜ける。
先ほどまでのすごく嫌なもやもやした胸のつかえは、どこかに消えていた。
代わりに、そこには温かいものが占めている。
父は私を非難したわけではなく、ただ心配していただけ。
そんな些細なことだけで、すごく満たされた気がする。
唯花の時も、こんな風にちゃんと話をしていたら、もっと違った親子関係になれたおだろうか。
今になってはそれは仮定の話でしかなく、もう二度と分かることはないのだろうけど。
「と、とにかくだ。外套を持っていきなさい、外套を。初夏といえ、夜は冷える。なんならそうだ、城の中でもずっと外套を着ていなさい」
「お父様、さすがにそれはダメだと思うのですが」
「そうよ、あなた。城の中でまで外套を着ているなんて、聞いたことがないわ」
「いや、しかしだな」
「お父様、心配して下さったのですか?」
私は父の腕に抱きつき、顔を見上げる。
今までと全く違う私の行動に驚きながらも、父はまんざらでもないようだ。
「もちろんだ。仕事などすぐに終わらせて、今日は迎えに行く。変な虫など付けさせるものか」
「あははは。お父様、素敵です」
「そ、そうか……」
そう言いながらも、父は私から顔を背ける。
なんか、顔が赤い気がするのはきっと私の気のせいじゃないはず。
「仕事一筋のお父様を陥落させるなんて、さすがアイリスね」
「お父様、会場で待っています」
「分かった」
約束を取り付けると、馬車に乗り込んだ。
あれだけ気が重かった夜会への参加が、嘘のようだ。
今なら、どんなことでも出来る気がする。
ルカが言ったように、今日だけは主役にもなれる気がしてきた。
そして金の星の形をしたピンが髪に散りばめられている。
一見、暗そうに見えたドレスは形が華やかなこともあり、私の白い肌によく映える。
化粧もいつになく、ばっちりメイクだ。
ドレスの前の部分が短いこと以外は、文句のない仕上がりになっている。
鏡で何度見ても、ぱっとしなかった唯花だった時より2割増し美人ではあると自分でも思う。
ちょっと化粧も濃い気がするけど、夜会だしこんなものよね。
それにしても、ん-。
確かにキツそうな顔だけど、綺麗めな美人さんって感じだよなぁ。
「こんなに美しいお嬢様なら、きっとたくさんの方に言い寄られてしまいますわ。今日の主役はアイリスお嬢様で間違いありません」
「んー。それはどうかしら。頑張って愛想よくして、お父様が合格点を出すような婚約者を探してこないと」
「にこりと微笑めば、すぐみんな堕ちてしまいますって」
「もう。ルカは口が上手いんだから。ところで今日は上着はいらないかしら」
「行き帰りは馬車ですので、大丈夫だとは思いますよ」
「ああ、それもそうね」
そう言いながら、ルカと玄関のホールに向けて歩き出す。
10センチはあるだろうヒールは、なかなか歩きづらい。
そしてどうしても短い裾が気になって、いつもより歩幅が狭くなってしまう。
「あらお父様、今お帰りですか?」
玄関ホールには母ではなく、今帰宅したばかりの父がいた。
私を見て、父が一瞬固まる。
しかしそれも一瞬のことで、すぐに眉間にしわを寄せた。
「なんだ、そのドレスは」
「なんだって……グレン様にいただいたものですが、どこかおかしいでしょうか」
別に私だって好き好んでこのドレスを着ているわけでもないのに、その言いようはないだろう。
似合わないからといって、何もそんな言い方をしなくてもいいのに。
心がぎゅっと縮み、思わず泣きそうになる。
こんなことなら既製品でも何でもいいから、他の物を着ればよかった。
ああ、ホントに。
ため息も涙も、一生懸命堪える。
せっかくルカが太鼓判を押してくれたし、頑張ってもらったのに。
こんなことで台無しにしたくない。
「あなた、その言い方ダメですよ。アイリスには、ちゃんと最後まで分かりやすく言わないと伝わらないですよ。何度説明したら分かるのですか?」
奥の部屋から出て来た母が、ため息交じりに父へ苦言を呈す。
母が父に意見しているのを、私は初めて見た気がする。
しかし先ほどのセリフから、何度も言われているようだ。
「いや、だから、その……だな」
「もぅ、仕事のことならなんでもズケズケと言えるくせに、娘のこととなると何でそうなるのですか。アイリスあなたが誤解しているだろうから、この人の言葉を代弁してあげると、その裾の短いドレスはどうしたのだ。そんな短いドレスを着て、何かあったらどうするんだ。と、言いたいのよ。あなたがあまりに綺麗なものだから、お父様は心配で仕方ないのよ」
「綺麗……心配……。そうなのですか? お父様」
「あ、当たり前だろう。誰か言い寄ってくるような奴がいたら、すぐに言いないさい」
「うふふふふ、お父様はあなたのその姿に惚れて言い寄ってくる輩は、みんなお断りして二度と近づけないようにするってよ」
「え、えええ。でも婚約者を探しにって」
「それとこれとは別だ」
「そんな難しい」
「その恰好でではなく、お前の内面を見て判断して下さる人を探しなさい」
なんだ。急に肩の力が抜ける。
先ほどまでのすごく嫌なもやもやした胸のつかえは、どこかに消えていた。
代わりに、そこには温かいものが占めている。
父は私を非難したわけではなく、ただ心配していただけ。
そんな些細なことだけで、すごく満たされた気がする。
唯花の時も、こんな風にちゃんと話をしていたら、もっと違った親子関係になれたおだろうか。
今になってはそれは仮定の話でしかなく、もう二度と分かることはないのだろうけど。
「と、とにかくだ。外套を持っていきなさい、外套を。初夏といえ、夜は冷える。なんならそうだ、城の中でもずっと外套を着ていなさい」
「お父様、さすがにそれはダメだと思うのですが」
「そうよ、あなた。城の中でまで外套を着ているなんて、聞いたことがないわ」
「いや、しかしだな」
「お父様、心配して下さったのですか?」
私は父の腕に抱きつき、顔を見上げる。
今までと全く違う私の行動に驚きながらも、父はまんざらでもないようだ。
「もちろんだ。仕事などすぐに終わらせて、今日は迎えに行く。変な虫など付けさせるものか」
「あははは。お父様、素敵です」
「そ、そうか……」
そう言いながらも、父は私から顔を背ける。
なんか、顔が赤い気がするのはきっと私の気のせいじゃないはず。
「仕事一筋のお父様を陥落させるなんて、さすがアイリスね」
「お父様、会場で待っています」
「分かった」
約束を取り付けると、馬車に乗り込んだ。
あれだけ気が重かった夜会への参加が、嘘のようだ。
今なら、どんなことでも出来る気がする。
ルカが言ったように、今日だけは主役にもなれる気がしてきた。
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
876
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる