大嫌いな双子の妹と転生したら、悪役令嬢に仕立て上げられました。

美杉日和。(旧美杉。)

文字の大きさ
46 / 89
第三章

第四十三話 ないものねだり

しおりを挟む
 あれからつみれ汁を全員に振る舞い、さらにトカゲを大きくしたようなモンスターだというバジリスクの肉をカツレツにしたものも出した。

 しかし、かなりの量があったにもかかわらず、あっという間になくなってしまった。


「あれだけ作っても、これだけしか残らなかったのですね……」


 ルカがさみしそうに、辺りを眺める。

 途中で自分たちの分が残らないと察したため、つみれ汁を三人前とカツレツを三枚だけは残しておいたのだ。


「やっぱり体を動かす仕事をする人たちは、胃袋も大きいのよ。きっと」

「ただ単に美味しかだけだと思うわよ」

「だといいのですが。ありがとうございます」


 アンジーさんが用意してくれたお茶を受け取る。

 紅茶とはまた違う、香ばしい匂いがした。

 味もほうじ茶とウーロン茶の中間のような味だ。

 ご飯を食べる時にはこっちの方が合う気がする。


「アイリスお嬢様の作ったこのスープ、本当に美味しいですよ。これが魔物の肉だなんて、絶対に分からないです。もっとも、分かってもこの味なら食べちゃいますけどね」

「ホントね。これが魔物だなんて、びっくりよね」


 つみれをフォークでつつきながら、二人が関心そうに頷く。

 しょうがとネギ。

 あとはお酒で臭みを飛ばした肉はただの肉よりも濃厚で、コクがあるため汁にもいいダシが出でいた。


「初めアイリスちゃんを見たときは、さすがに貴族のご令嬢なだけあって綺麗だわーって思ったけど。そんな子が魔物料理までしちゃうなんてね」

「綺麗だなんてそんな。私より綺麗な人なんて、たくさんいますし」

「何言っているんですか、お嬢様は社交界でも五本の指に入るくらいの美しさなんですよ」

「ほら、やっぱり」

「ルカ、大げさよ。社交界でなんて、私以上の人ばかりじゃない。それに、小さくてクルクルと動くルカは小動物のように可愛いし、アンジーさんはスリムなのに胸が大きくて羨ましいし」


 ルカはうちの侍女の中で、特に可愛い。

 大きなくりくりっとした紫の瞳に、グレーの短い髪で、私より小柄な体格で動き回る姿はまるで子リスのようだ。

 アンジーさんも健康的な小麦色の艶やかな肌に、たわわな胸。

 たくましく、私とはまるで正反対のような強い美しさがある。


「あーやだやだ、この子は。これは相当たちの悪い無自覚ね」

「そうなんですよ。もっと言ってやって下さい」

「無自覚って、何なんですか。さっきギルド長にも言われましたが」

「触れれば溶けてしまうのではないかというような、氷の花のように美しい人に、可愛いとか言われてもねぇ」

「はい。アイリスお嬢様、謙遜すぎるのも一歩間違えるとただの嫌味にしか聞こえませんよ」

「嫌味って。私、そんなつもりはなかったんだけれど」

「本人に自覚がないから、たちが悪いと言うんです」

「ホントよ、アイリスちゃん。あなた、十分すぎるぐらい綺麗よ。その髪も、夜空を思わす瞳も。それに冒険者たちにだって区別することなく接して笑いかける姿は、あいつらからしたら女神ね」

「女神だなんて、言い過ぎです。妹の方がよっぽど可愛らしいんですよ。キツイ顔の私なんかと違って、ふわふわしていて。とても女の子らしいし」

「そんなの、ない物ねだりよ」


 ぴしゃりと言われ、それ以上の言葉が出てこない。

 ない物ねだりか。確かにそうかもしれない。

 今だけではなく、過去でもずっとそうだったから。

 同じ顔なのに、何が違うのだろうって。

 アイリスとチェリーとして全く違う顔に生まれてきたのに、それでも比較してしまう。


「あのね、あたしたちが出会って、一緒に料理して一緒に笑いあったのはアイリスちゃんよ。そして仲良くなったのも好きになったのも、あなたの妹じゃない。そうでしょ」

「それにチェリー様なら、こーんなこと思いつきませんし、思いついたとしても来たがりませんよ」

「……うん、そうやね。ごめんなさい。ありがとう」

「いいのよ。あたしも外見ばっかり褒めたから、いけなかったのよね。気分を悪くしたなら謝るわ、ごめんなさい」

「いえ、違うんです。綺麗とか、可愛いとか、そういうのを言われ慣れてなくて」

「は? 世の中の男どもはどれだけ意気地なしなの」


 あり得ないとぶつぶつ言いながら、額を抑えている。

 社交界などでお世辞として言われたことは何度かあったが、心から言われた相手はおそらく一人だけ。

 そう思ったところで、キースの顔が思い浮かぶ。

 私は空に思い浮かべた顔を、急いで手でかき消した。

 もう。今ここで思い出してどうするのよ。


「ど、どうしたんですか、お嬢様」

「な、なんでもないの」


 さっきアンジーさんに言われて一つ気付いたことがある。

 この前、チェリーが怒ったことだ。

 私はキースの勧めで褒めてみればと言われ、思わず外見だけを褒めてしまった。

 あの子が外見に自信があるのは知っている。

 しかしその外見も、ルカに言わせるとちゃんと努力して作られているって。

 ただ外見を褒めるだけでは、そこにある努力を無視されたような気になったのではないかな。

 だから、チェリーは怒った。

 そう考えた方がなーんとなくあっている気がするのよね。


「私、この前妹の外見ばかりを褒めて怒らせてしまったんです。きっと、嫌な思いをさせんですね。帰ったら謝らないと」

「みんな、ない物ねだりなのよ。きっと妹さんもアイリスちゃんのことが好きで、そしてそれ以上に羨ましいんじゃないのかな」


 羨ましい、か……・

 私を羨ましいと思うことなんてあるのかな。

 でも無自覚だと言われる以上、どこかあるのかもしれない。


「ルカ、帰りにチェリーに何かお土産を買って帰りたいんだけど」

「はい。では、ここを片付けたら買って帰りましょう」


 次々にセルフで厨房に運び込まれる洗い物たちを見ながら、私たちは苦笑いを浮かべた。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///) ※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。 《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。

ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。 そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。 すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

谷 優
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。 お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。 ◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

辺境伯に嫁いだので、可愛い義息子と楽しい辺境生活を送ります ~ついでに傷心辺境伯とのぐずぐずの恋物語を添えて~

空野 碧舟
ファンタジー
父が作った借金返済の代わりに、女好き辺境伯ヒューバートの後妻として差し出された子爵令嬢エメリーン・オルクス。 父と義母と義姉とに満面の笑顔で見送られたエメリーンだったが、ヒューバートは初夜ですら花嫁の元を訪れることはなく、その翌日エメリーンだけを辺境伯領へ向かう馬車に乗せた。 ーー過去に囚われている眉目秀麗な女好き辺境伯と、義賊の記憶持ちで口やかましい元子爵令嬢の、少し変わった子育てとぐずぐずな恋物語。 「私の言っていること聞こえていますか。耳はまだ腐っていませんか。とにかく何が言いたいかって言うと、今すぐ屋敷に戻ってきやがれ、ってことです。分かりましたか、このクズ旦那様」

処理中です...