大嫌いな双子の妹と転生したら、悪役令嬢に仕立て上げられました。

美杉日和。(旧美杉。)

文字の大きさ
52 / 89
第三章

第四十七話 くまさんとの別れ

しおりを挟む
 その日は昨晩から続いた雨が、お昼過ぎに止んだところだった。

 外はほんの少し日差しが回復したものの、肌寒い。

 朝から妹と母はどこかへ出かけていた。

 どうせ母の実家かなにかだろう。

 私は連れて行ってはもらえなかった。

 でも悲しくはない。

 だって母も唯奈もいない時間は、私が誰にも気を使わなくてもいいから。

 くまさんと二人。

 少し小さくなった長靴を履いて、お散歩。

 
「くまさん、今日はどこに行こうか~。おうちにはお昼ご飯もなかったね。お腹すいちゃった」


 どこかに行く母が、私を気にかけてなにかをしていくことはない。

 家には勝手に食べてもいい、お菓子もご飯もない。

 だからこそ、くまさんとお散歩してなにか食べれそうなものがないか探すのだ。


「ずっと前食べた柿は渋かったねー。あれは干さないと食べれないって本に書いてあったわ。でも家で干してると、バレちゃうから困ったなぁ」


 本でいくら知識をつけても、あまり現状は変わらなかった。

 それでも、それ以外にやることもなかったから。

 私は本を読み、ただ勉強だけに力を入れていた。


「おじいちゃんがまだ生きてた頃はお菓子もらえたものに」


 私はくまさんの顔を見る。

 父方の祖父。

 このくまの人形を誕生日にくれたのも、祖父だ。

 祖父は母が関心を示さない私のことを、なによりも気にかけてくれていた。

 ご飯もお菓子もそう。

 遊びに行くのも、いつも祖父と二人だった。


「なんで私の大切な人は死んじゃうのかな。ああ、でもね、くまさんがいるから私は大丈夫だよ」


 そう言ってくまの人形に微笑みかけた。

 ずっと唯一の友達で唯一の味方。

 どんなに悲しくたって。

 どんなに苦しくったって。

 くまさんがいれば、きっと大丈夫。

 私は祖父が死んでからずっとそう自分に言い聞かせてきた。


「ん-、どこ行こうか」

「みーつけた。ああ、こーんなとこにいたんだね、姉さん」
 

 ぞくりとするような聞き覚えのある声が、後ろから聞こえてくる。

 その声だけで、どれだけ唯奈の機嫌が悪いのか分かる気がした。

 最近、祖母の家に行った帰りはいつもそうだ。

 それが分かっていたから、今日だって家を出てお散歩に来たのに。

 今日はいつも以上に、機嫌が悪そう。

 何かあったのかな。

 でもその前に、離れないと。


「今二人でお散歩してる。じゃあね」

「なんで逃げるの~姉さん」

「別に逃げてない。私はただくまさんと二人で遊んでいるの」

「いつでもそう。くまくまくまくまって。もうそんな子どもじゃないでしょ」

「小学生は十分子どもでしょ。なに言ってるの唯奈」

「姉さんはくまばっかり。ホントに邪魔ね、そいつ」

「は?」


 くまさんが邪魔ってどういう意味?

 別に何も迷惑なんてかけてないのに。

 悪い予感しかしない。
 
 すぐに離れよう。

 走り出そうとする私のスカートを、唯奈が掴んだ。

 その勢いで、私は尻もちをつく。


「いったーい。なにするのよ」


 涙目になりながら見上げると、唯奈は私が落としたくまさんをちょうど拾い上げるところだった。


「なにしてるの! 返して!」


 唯奈はただにやりと笑顔を作る。

 そしてそのままくるりと視線を変え、私に背を向けた。

 なに?

 唯奈の視線の先に、川が見える。

 大雨ですっかり増水した川は茶色く濁り、いつもの何倍も水量は多い。

 
「なにをするの?」


 全てがスローモーションのように思えた。

 私は必死に立ち上がり、くまさんを取り返すために走り出す。

 しかし次の瞬間、唯奈がくまの人形を投げた。

 そう増水する川へ向かって。


「やめて!! いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。私のくまさん!」


 綺麗に弧を描くように、くまの人形は川へと吸い込まれていった。


「わぁぁぁぁぁ、なんで、なんで、なんで!」

「あの子がいけないのよ。全部そう」


 唯奈は私を見つめ、ただ嬉しそうに呟いた。

 なんで。どうして。

 くまさんが捨てられなければいけなかったの。

 私が今日お散歩に連れてこなければ、こんなことにはならなかったのに。

 嫌だ。嫌だよぅ。

 私にはくまさんしかいないのに。

 どうしたらいいの。

 これからどうすればいいの。

 涙で視界が歪む。

 唯奈の満足げな顔などどうでもいい。


「ああ、またその顔……その目……。まあいいわ。もぅ邪魔者はいなくなったし」

「くまさん、くまさん……ごめんね。私のせいで……」


 私は濁流に飲まれて見えなくなったくまの人形を、ただ思って泣き続けたのだった。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///) ※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。 《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。

ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。 そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。 すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

谷 優
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。 お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。 ◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

辺境伯に嫁いだので、可愛い義息子と楽しい辺境生活を送ります ~ついでに傷心辺境伯とのぐずぐずの恋物語を添えて~

空野 碧舟
ファンタジー
父が作った借金返済の代わりに、女好き辺境伯ヒューバートの後妻として差し出された子爵令嬢エメリーン・オルクス。 父と義母と義姉とに満面の笑顔で見送られたエメリーンだったが、ヒューバートは初夜ですら花嫁の元を訪れることはなく、その翌日エメリーンだけを辺境伯領へ向かう馬車に乗せた。 ーー過去に囚われている眉目秀麗な女好き辺境伯と、義賊の記憶持ちで口やかましい元子爵令嬢の、少し変わった子育てとぐずぐずな恋物語。 「私の言っていること聞こえていますか。耳はまだ腐っていませんか。とにかく何が言いたいかって言うと、今すぐ屋敷に戻ってきやがれ、ってことです。分かりましたか、このクズ旦那様」

処理中です...