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第四章

閑話休題 決意①(キース視点)

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 朝から会議に面会、書類とやっていたら時刻はすっかりお茶の時間を過ぎていた。

 アイリスとあの日別れてからまだ一日半しか経っていないというのに、もう会いたいと思う自分がいる。

 グレンにアイリスとのデートの話をしたら呆れられてしまったから、次に会う前に何か贈り物をしよう。

 そう思っていた矢先に、昨日の出来事だ。

 アイリスには、元々王妃のことは話す予定だった。

 あの人は自分の権力に固執している。

 今でさえ、今後のことにかなり注文を付けてきているのも事実で、兄さんが退位したあともネックになることは分かっていた。

 ただそんな王宮へ嫁いできて欲しい。

 彼女のことが好きだからこそ、そんな軽々しいことは言えなかった。

 本来は王妃を排除して、彼女の目につかないようにしてから王妃の話を小出しに出していければと思っていたのに。

 
「はぁ」

 
 王妃はいい意味で言えば積極的。

 まあ、直訳すれば自分本位。

 あの地位を手に入れるために、いろいろ陰でしてきたことも知っている。

 そして今後、王妃がなにを望んでいるのかも。


「ああ、頭が痛くなるような話ばかりだな。ただ俺よりもきっと、アイリスはもっと嫌な思いをしてしまっただろう」


 中庭に迎えに行き、彼女を見送る時。

 悲しそうな、そして怒った瞳が脳裏から離れていかない。

 今まで、遊んでいたときはどんな甘い言葉も軽い言葉も勝手に出てきたのに。

 彼女を目の前にすると、言葉を選んでしまってうまく言えなくなってしまった。

 らしくない。

 それは自分でも理解している。

 ただアイリスを傷つけたくないという気持ちと配慮が、余計に空回りしてしまっている感じだ。

 ダメすぎる。ホント、自分でも思うさ。最低だって。


「やっぱり出かけよう。ささやかな贈り物と手紙を出そう」


 そう思い立ち、そそくさと執務室を後にした。


   ◇    ◇   ◇


「これは、王弟殿下ではございませんか。ご挨拶を申し上げてもよろしいですか?」

 一人のご令嬢に呼び止められる。

 急いでいるのだがと思っても無下に出来ず振り返ると、侍女に付き添われたストロベリーブロンドの令嬢、チェリーがいた。

 ああ、昨日ぶりか。

 グレンでも訪ねてきたのだろうか。

 かなり言い争っていたからな。

 あいつはあんな性格だから、苦労するとは思っていたが。


「もしかして、どこかへお急ぎでしたでしょうか?」


 小首を傾げる様は、どうすれは自分が一番可愛く見えるのか計算されているようにさえ思えた。


「いや、急ぎというほど、急なものではない」

「ああ、良かったです。昨日はみっともないところをお見せしてしまって」」

「いや、昨日のことは。こちらとしても無配慮なことが多すぎた」

「殿下はお優しいのですね。姉と婚約を、と聞いております。妹として、殿下のような方が義兄になってくださるなど、これ以上にない喜びですわ」

「まだアイリスからは、返事をもらえてはない上に昨日の件があったからな」

「昨日の件は……。ただ姉は聡明で慎ましい性格ですので、きっと殿下の本心を分かっていると思いますわ」

「そうだと有難いのだが」

「ただ、慎ましすぎて、着飾ることもしないんですよ。妹のわたくしが言うのもなんですが、あんなに美しいのだから、もっと着飾ればいいと思うんですよ。殿下もそう思いませんか?」

「ああ、確かにそうだな」


 確かにカフェで見た普段着も確かに高級ではあるだろうが、とても簡素なものだった。

 チェリーの言う通り、せめて髪飾りやペンダントくらいあってもいいくらいだ。

 グレンからは姉妹仲はあまり芳しくないと聞いていたのだが、姉のことをしっかり見ていて姉を思う姿はとてもそうは思えない。

 意見の相違というか、ボタンの掛け違いか何かなんだろうか。

 
「昨日のお詫びも兼ねて、アイリスに何か贈ろうと思っていたんだ」

「まぁ! それは良い考えですわ、殿下。いくら着飾ることをしない姉でも、殿下からいただいたものならきっと、喜んで付けると思います。ああ、でも……」

「ん? どうした」

「そのぅ、姉が慎ましいと先ほど言いましたが、あまり高い物を送ると恐縮して受け取るのを考えてしまうかもしれません」


 確かにアイリスの性格からして、高い物を贈っても恐縮して余計に困らせてしまうかもしれないな。

 ただ今まで、さすがに装飾店は貴族が普通に入る店しか入ったことはない。

 とりあえず、街で探すしかないか。


「殿下、わたくしいいお店を知っているので、ご一緒させていただけませんか? その店は平民でも頑張れば買えるくらいの値段の物を取り扱っているのですが、今とても人気のある店なんです。きっと姉も喜ぶと思いますわ」

「いやしかし、さすがに二人でというのは」

「大丈夫ですわ。侍女も控えておりますし、未来の義妹ではないですか。さ、参りましょう」


 やや強引に押し切られるように中庭を歩き出した。
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