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第五章
第六十八話 合わせ鏡のような呪縛①
しおりを挟む「歓談中申し訳ございません。少しよろしいでしょうか」
キースの顔色を伺いながら、ルカが入室してきた。
急に倒れてしまって、ルカには迷惑ばかりかけてしまっているわね。
「ルカ、大丈夫よ。何かあったの?」
「あの……その……」
ルカはよほどキースが気になるのか、もう一度キースの顔を見た。
なんだろう。
キースの耳に入れるのは不味い話題なのだろうか。
その様子で何かを察したのか、キースが先に声を上げた。
「侯爵へ話したいことがあるから、席を外そうか」
「旦那様からも、殿下を書斎へご案内するように賜っているのですが……」
「お父様が、キース様に?」
何の話だろう。
いくら父でも、王弟殿下であるキースに苦言を呈すことはないと思うのだが。
「あの、それよりも今チェリー様が戻っておいでになられて……」
「チェリーが? しばらく領地にて謹慎となったはずではないの?」
「そうお聞きしていたのですが、抜け出して来られたようで」
確かになんとも頭の痛い話題だ。
キースを気にするルカの気持ちも分かる。
こんな身内の恥とも言える話をキースの耳にいれるのはいかがなものか。
だからあんなに躊躇していたのね。
「そういえば、こんな時にグレンはどこに行ってしまったの」
「いや、ここに一旦顔を出した後、チェリーからの事情を聴くために領地へと向かったはずだ」
「ここから領地までは一本道なのに」
そう言って、ふと違うことを思いつく。
もしかするとチェリーは領地には戻っておらず、謹慎するフリをしてどこかの王都のホテルにでも滞在していたのではないか。
チェリーの侍女たちは皆、あの子妄信的だったし、領地での謹慎なんてと言っていそうだ。
そう考えれば、チェリーとグレンが会えなかったということも納得がいく。
「それでチェリー様が、今ご自身の侍女は皆解雇されてしまって誰もいないので、アイリス様に部屋まで来て下さらないかとおっしゃっているのです」
「それは、アイリスに侍女の真似事でもしろということか」
「キース様、さすがにそれは考えすぎです。どうせ自分で私を呼びに行くのも面倒なので、きっとルカに伝言を頼んだのだと思います」
「それにしてもだ。何も今日会う必要はないだろう。倒れたばかりだというのに」
「……でも私も話したいんです。今度こそちゃんと、チェリーと」
「アイリスはいつも無理ばかりするから、俺としては大人しくしていて欲しいのだが」
「ん-、そうですね……明日からそうします。それよりキース様、あのプレゼントを今もらえませんか?」
手を差し出す私に、一瞬なんのことを言っているか分からなかったキースの動きが止まる。
しかしすぐに先ほどの小包のことを言っているのだと理解したキースの顔色が変わった。
「何言ってるんだアイリス。あれは、ダメだ!」
キースは力強く首を横に振る。
「でも、ちゃんとキース様が選んで下さったんですよね。だったら、私頂きたいんです。今の私なら、大丈夫です。お守り代わり、ダメですか?」
そう今の私なら、ちゃんと身に付けることが出来る。
それにどんな思惑があったにせよ、これぐらいではもうブレない。
むしろちゃんと、チェリーの前でも胸を張っていられる。
ちゃんとキースに思いも伝えた。
そしてこれからどうしていきたいか、やっと少し分かった気がするから。
キースは何かを言いかけ、しかし諦めたようにため息を一つつくとプレゼントを取り出した。
包み紙がヨレヨレになってしまっているものの、中の箱は崩れてはいない。
私は丁寧にその箱を開けると、中から三日月の細工に小さな茜色の石の付いたペンダントが入っていた。
「この石はキース様の瞳の色ですね」
「ああ。こういうのは、自分の色の付いたものを贈る方が喜ぶと言われて」
チェリーにそうアドバイスをされたのだろう。
なんでなのだろう。
チェリーは私を嫌っているはずなのに、このプレゼントはちゃんと選ばれている。
派手ではない装飾も、恋人にプレゼントを選ぶのならばという体で選ばれていた。
「……」
「アイリス、やはりこれはやめておこう」
「いえ。そうじゃないんです。むしろびっくりするくらい、私のこと分かってるなって、少し感心しただけです。キース様、付けて下さいますか?」
「……ああ」
付けると、その小さな石がキラキラと胸元で輝いて見える。
確かにこの石を見ていると、キースと共にある。
そんな感じがした。
「ルカ、キース様をお父様の元へ案内して。私はチェリーに会ってくるわ」
「畏まりました。あとでチェリー様のお部屋にお茶をお持ちさせていただきますね」
「ええ、お願いね。ではキース様、また後で」
「とにかく、無茶なことだけはしないでくれ」
「はい、もちろんです」
ルカがキースを連れ、父の元へ向かったのを見届け、私は一人チェリーの部屋へと向かった。
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