大嫌いな双子の妹と転生したら、悪役令嬢に仕立て上げられました。

美杉日和。(旧美杉。)

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第五章

第七十話 合わせ鏡のような呪縛③

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 毒を対外へ排出するために何度も吐き、朦朧とする意識を私が手放さないようにいろんな人に声をかけられ続けた。

 焼けつくような喉の痛みや、嘔吐。
 
 死んでしまってもおかしくない状況を救ってくれたのはリンの魔法だった。

 
「ご主人サマ!」

「リン、ありがとう。泣かないで?」


 ふよふよと浮かびながら、リンはぽろぽろと涙を流す。

 キースも夜通し付いてくれていた。他にもいろんな使用人たちが、入れ替わりで慌ただしく部屋を行き来していたような気がする。

 しかし周りに気を使う余裕のない私は、うすぼんやりとしか覚えてはなかった。


「リン殿のおかげで解毒はなんとか出来たそうだ」

「でもご主人サマ、いくら体内から毒を消すことが出来たって言っても、ボクが消すまでの時間にすごく大量の毒が体内に入ってしまったから、無理はだめリン」

 
 大量の毒。そんなにもあの紅茶には入っていたのね。

 でもそれだと違和感があるのも事実。


「頼むから今はとにかく休んでくれ、アイリス。」

「……キース様、あの子は?」


 名前を出さなくても、キースはそれがチェリーを指していることが分かったようだ。


「っ! アイリス、君はこんな時にまでなぜ、チェリーのことを気遣うんだ」

「あの毒はティーカップではなく、ポットの方に入っていたんじゃないですか? 毒は私のカップだけではなく、あの子のにも入っていた。違いますか?」

 
 混入していた毒は大量だった。

 それならば、私のカップだけに入れたものではないはず。

 そしてもしこれが当たっているのなら、あの時点ではチェリーが毒を飲む可能性だってあったはず。
 

「どこに入れられたとしたって、君だけが飲んだ。そのことには変わりないだろう」

「そうですね……。でも、チェリーも飲もうとしていた。チェリーはあそこに毒が入れられていたのを知らなかったのではないですか?」


 そう、これは私の願いでもある。

 思いたくなどなかった。

 たとえどんな理由であったとしても、あの子が私を殺そうとしたなんて。


「例えそうだっただとしても、あのお茶を入れたのはチェリーだ。こんなことになるとは思ってもいなかった。すまない、これは僕の落ち度でもある」


 蒼白な顔をしながら、グレンが部屋に入って来る。

 その手には、紙が握られていた。

 グレンはそれ以上なにも言わず、その紙をそのままキースへと差し出した。


「これは……本当のことなのか、グレン」

「グレン、私にも教えて。キース様、そこには何が書かれているのですか?」


 キースは首を横に振り、受け取った紙はくしゃりという音を立てながら形を変えていく。


「でもそれは、私のことが書かれているのでしょう。それならば、私にはそれを知る権利があるはずです」

「この件は熱が下がって、落ち着いてからにしよう。今はとにかく休むんだ、アイリス」


 キースの手が横になったままの私の頬に触れた。

 とても冷たい、冷え切った手。

 その手とは真逆で、キースの心が熱く、とても怒っていることは分かる。


「それでは遅いのではないのですか?」

「……」


 もし、チェリーが私を殺そうとしていたということが明らかになったとしたら。

 貴族への殺人未遂は、どんなに軽くても国外追放だ。

 私がここにいて寝ている間に、何も知らぬ間に、全てが終わるなんて絶対にダメだ。


「グレン、お願い答えて。いくら日が浅かったとしても、もう愛想が尽きてしまったとしても、チェリーは確かにあなたが愛していると言った人よね?」

「……ああ、そうだ」

「グレン!」

「キース様、お願いです。これは、この件の当事者は私とチェリーです」

「アイリス、僕はずっと気になっていて、君が乗っていた侯爵家の馬車が転倒した事故のことを調べていたんだ。手入れを怠っているわけでもない馬車の車輪が損傷して事故を起こすなんて、どう考えてもおかしいだろう」

「グレン、辞めるんだ」

「いえ、これはアイリスが知らないといけないことです」

「だが」

「待って……、あの事故はただの事故ではなかったというの? あの事故にも、チェリーが関係しているというの、グレン」

「チェリーに付いて行った御者の一人を問い詰めたら、白状したよ。チェリーに頼まれて事故を起こすようにしたと」


 あの事故は車輪の一つに亀裂が入り壊れたために、馬車が転倒事故を起こしたというものだった。

 他の人を巻き込むこともなく、私も打撲程度で済んだのは奇跡に近かったと何度も医者に言われた。

 あの事故が本当に偶然起きた事故なのかは、私もずっと疑問ではあった。

 しかしそれが、こんな形で事故の真相を知ることになるなんて。


「グレン、チェリーに付いて行った者たちはみんな捕らえたの?」

「ああ。貴族への殺人未遂だ。ただでは済まないよ」

「……」

「アイリス、これ以上はもう」

「そうだリン。もう休まないと、だめリン」


 頭の中はグルグルと回り、いろんな情報に目をつむり眠ってしまいたかった。

 目を背ければ、今だけはきっと楽になれる。

 でも、今しなければ私は絶対後悔するだろう。


「グレン、チェリーも捕らえたのね」

「……」

「アイリス」

「キース様、私をチェリーの元へ連れて行って下さい」

「ダメだ。こればかりは、いくら君の願いだとしても聞くことは出来ない」

「今しかないんです。もし裁判となれば、もうチェリーを救うことは出来ない」

「アイリス、まだ君はチェリーを救えると思っているのかい?」


 悲しそうな、どこか諦めたようなグレンの瞳。

 グレンはもう、絶望してしまったのだろうか。全てに。


「まったく、あなたらしくないわグレン。こんなことぐらいで、そんな風に全てを諦めるなんて」

「らしい、らしくないの問題ではないだろう、アイリス」


 力なく首を横に振るグレンは、万策尽きたと言わんばかりだ。


「いいえ。らしくないわ。二人がそんなことなら、私は這ってでも自分でチェリーに会いに行きます」


 起き上がり、ベッドから立ち上がろうとする。

 正直、まともに歩ける気はしない。


「君はいつでも無茶ばかりして、こっちの心臓が持たないよ」


 立ち上がろうとしても立ち上がれないでいる私に、キースが手を差し出した。


「いつでも君の行動力に、俺は驚かされてばかりだ」

「アイリス、君はまだチェリーのことを救える思うかい?」

「グレン、あの子は私の妹で、私の一番の親友が愛した子だから。だから信じてる。たとえ、嫌味で大嫌いだったとしても。あの子はここまでやるような子じゃない」


 グレンは下を向き、拳にした両手に力を込める。


「僕もそう思うよ……。それに君は一つ大きな勘違いをしている」

「勘違い?」


 グレンは私が何を勘違いしていると言うのだろう。

 まだ見落としている何かがあるのかしら。
 
 でもそれはチェリーと話して確かめればいい。

 今は一刻も時間がないもの。


「キース様、グレン、私と一緒にチェリーの元へ行って下さい。二人にも聞いていて欲しいんです。全てを」


 私とあの子のこと全てを。

 例えおかしく思われても、私たちのことを全て話そう。

 それがきっと、救いにも糸口にもなるはずだから。


「分かった。では、行こう」


 キースは軽々と私を抱き上げる。

 歩けない以上は観念し、キースに身を預けた。
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