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「ぅぅぅぅうぅ」
気怠い体を起こす。
ひんやりとした感覚が背中にあり、今自分がどこにいるのか一瞬困惑した。
白く見たこともない天蓋には煌びやかな金のレースが施されている。
ここはどこ?
「んっ? な、に?」
「ああ、良かった。気が付きましたか、聖女エレーネ」
視線を上げた私の視界に、大きな人が写る。
騎士様かしら? 大きな背に、同じくらい大きな肩幅。
その大きな体をやや曲げて、私の手を両手で包み込んだ。
この手、前に私を握った温かな手だわ。
「えっと?」
「体は大丈夫ですか? どこか痛いところはないですか?」
薄碧色の大きな瞳が、不安げに揺れた。
ああ、私、生命力も全て使い切って死にかけていたんだわ。
でも……。
「体が動く?」
「ああ、良かった。あの後すぐに大神官を呼び、治療を行ったんです。でも貴女の生命力がほとんど残っていない状況で」
「ええ。あの封印を行うために足りなかった魔力を生命力で補ってしまったので……」
「あまりの危機的状況のため、あなたの妹や俺からあなたに生命力を分け与える術を施しました」
「まぁ、そんなことを」
あのエレーネがよくそんなことを許したものね。自分の力を私に分け与えるだなんて。
「何からなにまで申し訳ありません」
「いえ、貴女がいなければこの国は滅びていたことでしょう聖女イリーネ」
「……もう私は聖女ではないですわ」
「それは……」
「大丈夫です。分かっていて自ら行ったことですから。むしろ生きているだけ、ありがたいことだと思いますわ」
あの時はもう死ぬものだとばかり思っていたのだから。
生きていれば、まだなんとかなるわ。それにここはおそらく城よね。
そうだわ。神殿で力もないまま働くよりも、ココで使ってはもらえないかしら。
「あの騎士様? お願いしたいことがあるのですが」
「ああ、すみません。申し遅れましたが、俺はあの、一応この国の王太子でして」
「えええ、申し訳ございません! わ、私としたことがとんだ勘違いをしてしまいまして!」
不敬罪だわ、王太子殿下の顔も知らなかっただなんて。
だってガタイもいいし、大きいからてっきり騎士様かと思ってしまったのよね。
あああ。穴があったら入りたいわ。
「いえいえ。こんなナリですし、王太子っぽくはないですからね。ところで先ほど言いかけたお願いと言うのはどういうものでしょうか? 貴女のためでしたら、どんなことでも聞き届けたいのですが」
いいのかしら。先ほどから失礼ばっかりしてしまっているし。
ぶしつけにお願い、だなんて。でも王太子殿下直で、働かせて下さいって言えば一番の近道よね。
このまま神殿に戻されるのは嫌だし、
「えっと……殿下、そのですねぇ」
「ああ、俺のことはどうかガルシアとお呼び下さい」
「あの、ガルシア様?」
「はい。イリーネ殿」
「私をここで働かせて下さい!」
「え、あ、はい」
呆気にとられたような顔を私はスルーし、手を差し出した。
しかし私の差し出した手を、そのままガルシア様はふんわりと包み込む。
ただ次に彼の口から出て来た言葉は予想外なものだった――
気怠い体を起こす。
ひんやりとした感覚が背中にあり、今自分がどこにいるのか一瞬困惑した。
白く見たこともない天蓋には煌びやかな金のレースが施されている。
ここはどこ?
「んっ? な、に?」
「ああ、良かった。気が付きましたか、聖女エレーネ」
視線を上げた私の視界に、大きな人が写る。
騎士様かしら? 大きな背に、同じくらい大きな肩幅。
その大きな体をやや曲げて、私の手を両手で包み込んだ。
この手、前に私を握った温かな手だわ。
「えっと?」
「体は大丈夫ですか? どこか痛いところはないですか?」
薄碧色の大きな瞳が、不安げに揺れた。
ああ、私、生命力も全て使い切って死にかけていたんだわ。
でも……。
「体が動く?」
「ああ、良かった。あの後すぐに大神官を呼び、治療を行ったんです。でも貴女の生命力がほとんど残っていない状況で」
「ええ。あの封印を行うために足りなかった魔力を生命力で補ってしまったので……」
「あまりの危機的状況のため、あなたの妹や俺からあなたに生命力を分け与える術を施しました」
「まぁ、そんなことを」
あのエレーネがよくそんなことを許したものね。自分の力を私に分け与えるだなんて。
「何からなにまで申し訳ありません」
「いえ、貴女がいなければこの国は滅びていたことでしょう聖女イリーネ」
「……もう私は聖女ではないですわ」
「それは……」
「大丈夫です。分かっていて自ら行ったことですから。むしろ生きているだけ、ありがたいことだと思いますわ」
あの時はもう死ぬものだとばかり思っていたのだから。
生きていれば、まだなんとかなるわ。それにここはおそらく城よね。
そうだわ。神殿で力もないまま働くよりも、ココで使ってはもらえないかしら。
「あの騎士様? お願いしたいことがあるのですが」
「ああ、すみません。申し遅れましたが、俺はあの、一応この国の王太子でして」
「えええ、申し訳ございません! わ、私としたことがとんだ勘違いをしてしまいまして!」
不敬罪だわ、王太子殿下の顔も知らなかっただなんて。
だってガタイもいいし、大きいからてっきり騎士様かと思ってしまったのよね。
あああ。穴があったら入りたいわ。
「いえいえ。こんなナリですし、王太子っぽくはないですからね。ところで先ほど言いかけたお願いと言うのはどういうものでしょうか? 貴女のためでしたら、どんなことでも聞き届けたいのですが」
いいのかしら。先ほどから失礼ばっかりしてしまっているし。
ぶしつけにお願い、だなんて。でも王太子殿下直で、働かせて下さいって言えば一番の近道よね。
このまま神殿に戻されるのは嫌だし、
「えっと……殿下、そのですねぇ」
「ああ、俺のことはどうかガルシアとお呼び下さい」
「あの、ガルシア様?」
「はい。イリーネ殿」
「私をここで働かせて下さい!」
「え、あ、はい」
呆気にとられたような顔を私はスルーし、手を差し出した。
しかし私の差し出した手を、そのままガルシア様はふんわりと包み込む。
ただ次に彼の口から出て来た言葉は予想外なものだった――
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