愛のない結婚をした継母に転生したようなので、天使のような息子を溺愛します

美杉日和。(旧美杉。)

文字の大きさ
27 / 78

閑話 アッシュの事情

しおりを挟む
 バタンと音を立てて締まる扉。
 それはまるで、もう未練など何もないというような拒絶に近いものを感じた。

 彼女、ビオラが退出していくその背を俺は何も言えずに見ていることしか出来なかった。
 そしてまた後ろに控えていた二人の深いため息が室内に響く。

「だーかーら、あれほど言ったではないですか、坊ちゃん」
「坊ちゃんはやめろと何度も言っているだろう、アーユ」
「いつまでも子どものようなことをなさっているのですから、坊ちゃんで十分です!」

 普段はどこまでも温厚で、侍女の鏡ともいえるアーユ。
 彼女は元々俺の乳母だった人だ。

 昔からこの屋敷に仕え、俺が頭の上がらない人間の一人だ。

 子どものような、か。
 そんなつもりは……まったくなかったわけでもない。
 彼女のあの顔を見ていたら、俺などよりもずっと彼女の方が大人に見えた。

「まぁまぁまぁまぁ、アーユさんそんなにアッシュ様を責めないであげて下さい。事情が事情だったんですから」
「何が事情なもんですか。たかだか一回結婚に失敗なさったくらいで情けない。今回のことだって、ビオラ様がいなければどうなっていたことか」
「それは分かっている」
「分かっているではありません」

 ピシャリとアーユは言う。
 少なからず、こうなることは目に見えていた。

 ルカのこともビオラのこともそうだ。
 二人に関心がないという態度を示せば、付け上げる使用人が出てきてもおかしくはない。

 それが分かっていてもなお、二人にかかわることを俺は拒んだ。
 結果、ビオラに付けた使用人たちはビオラをいじめ抜いていたし、ルカに付けた乳母はルカを孤立させその金を横領していた。

 ビオラに先ほどもう興味も何もないと言われて初めて、自分がしでかした罪の重さを俺はやっと理解した。
 本当にバカだったとは思っている。

 ビオラへのいじめが発覚した時点で、アーユたちは彼女にもっときちんと接するようにと忠告してくれていたんだが。バカみたいなちっぽけなプライドのせいで、どうしてもそれが出来なかった。

「ダメですよ、アーユさん。なにせ、アッシュ様はいろいろ拗らせちゃってるんですから」
「だからなおさら悪いと言っているんです」
「その話はやめてくれ」
「いいえ。いい機会です。そろそろ本当にきちんとしないとダメです、坊ちゃん」

 アーユの勢いに、俺は額に手を当てた。
 分かってる。全ての原因は一度目の結婚だ。

 意にそぐわぬ結婚、そしてあの女……。
 ルカの母であり、一番目の妻は魔性という名がふさわしいほどの女だった。

「前妻であるノベリア様と国王様のせいで、ビオラ様のことを受け入れられない気持ちもわかりますよ。元々、ビオラ様こそ、アッシュ様の本命……」
「ガルド! いい加減にしろ」

 無駄口を叩く秘書のガルドを睨みつける。
 しかしガルドはまるで気にしないというように、安定に目を細めた。

「いつまでも人の気持ちが自分に向いてるなど思っているから、こうなるんです」

 まったく二人揃うと、うるさいことこの上ない。
 そんなこと、言われなくとも分かっている。

 自分から拒絶しておいて、虫のいい話だとは思う。
 しかし何も思っていないと言った彼女を見た瞬間、過去の気持ちを思い出していた。

 そう。確かに彼女を好きだった子どもの頃のことを――


・*:.。 。.:*・゚✽.。.:*・゚・*:.。 。.:*・゚✽.。.:*・゚

お読みいただけます読者サマに感謝

この度は当作品をお読みいただきまして、大変ありがとうございます。

初の継母作品で、手探り状態で書いております。

もしほんの少しでも良いと思っていただけましたなら、

ブクマ・しおり・励まし等の感想等

いただけますと作者泣いて駆け回ります。

最後までお付き合いのほど、よろしくお願いいたしますυ´• ﻌ •`υ
しおりを挟む
感想 62

あなたにおすすめの小説

婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました

春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。 名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。 姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。 ――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。 相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。 40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。 (……なぜ私が?) けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

公爵子息の母親になりました(仮)

綾崎オトイ
恋愛
幼い頃に両親を亡くした伯爵令嬢のエルシーは、伯爵位と領地を国に返して修道院に行こうと思っていた しかしそのタイミングで子持ちの公爵ディアンから、結婚の話を持ちかけられる 一人息子アスルの母親になってくれる女性を探していて、公爵夫人としての振る舞いは必要ない、自分への接触も必要最低限でいい そんなディアンの言葉通りに結婚を受けいれたエルシーは自分の役割を果たし息子のアスルに全力の愛を注いでいく 「私の可愛い子。たった一人の私の家族、大好きよ」 「エルシー! 僕も大好きだよ!」 「彼女、私を避けすぎじゃないか?」 「公爵様が言ったことを忠実に守っているだけじゃないですか」

離婚が決まった日に惚れ薬を飲んでしまった旦那様

しあ
恋愛
片想いしていた彼と結婚をして幸せになれると思っていたけど、旦那様は女性嫌いで私とも話そうとしない。 会うのはパーティーに参加する時くらい。 そんな日々が3年続き、この生活に耐えられなくなって離婚を切り出す。そうすれば、考える素振りすらせず離婚届にサインをされる。 悲しくて泣きそうになったその日の夜、旦那に珍しく部屋に呼ばれる。 お茶をしようと言われ、無言の時間を過ごしていると、旦那様が急に倒れられる。 目を覚ませば私の事を愛していると言ってきてーーー。 旦那様は一体どうなってしまったの?

皇子の婚約者になりたくないので天の声に従いました

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
幼い頃から天の声が聞こえるシラク公爵の娘であるミレーヌ。 この天の声にはいろいろと助けられていた。父親の命を救ってくれたのもこの天の声。 そして、進学に向けて騎士科か魔導科を選択しなければならなくなったとき、助言をしてくれたのも天の声。 ミレーヌはこの天の声に従い、騎士科を選ぶことにした。 なぜなら、魔導科を選ぶと、皇子の婚約者という立派な役割がもれなくついてきてしまうからだ。 ※完結しました。新年早々、クスっとしていただけたら幸いです。軽くお読みください。

虐げられていた次期公爵の四歳児の契約母になります!~幼子を幸せにしたいのに、未来の旦那様である王太子が私を溺愛してきます~

八重
恋愛
伯爵令嬢フローラは、公爵令息ディーターの婚約者。 しかし、そんな日々の裏で心を痛めていることが一つあった。 それはディーターの異母弟、四歳のルイトが兄に虐げられていること。 幼い彼を救いたいと思った彼女は、「ある計画」の準備を進めることにする。 それは、ルイトを救い出すための唯一の方法──。 そんな時、フローラはディーターから突然婚約破棄される。 婚約破棄宣言を受けた彼女は「今しかない」と計画を実行した。 彼女の計画、それは自らが代理母となること。 だが、この代理母には国との間で結ばれた「ある契約」が存在して……。 こうして始まったフローラの代理母としての生活。 しかし、ルイトの無邪気な笑顔と可愛さが、フローラの苦労を温かい喜びに変えていく。 さらに、見目麗しいながら策士として有名な第一王子ヴィルが、フローラに興味を持ち始めて……。 ほのぼの心温まる、子育て溺愛ストーリーです。 ※ヒロインが序盤くじけがちな部分ありますが、それをバネに強くなります ※「小説家になろう」が先行公開です(第二章開始しました)

冷徹公に嫁いだ可哀想なお姫様

さくたろう
恋愛
 役立たずだと家族から虐げられている半身不随の姫アンジェリカ。味方になってくれるのは従兄弟のノースだけだった。  ある日、姉のジュリエッタの代わりに大陸の覇者、冷徹公の異名を持つ王マイロ・カースに嫁ぐことになる。  恐ろしくて震えるアンジェリカだが、マイロは想像よりもはるかに優しい人だった。アンジェリカはマイロに心を開いていき、マイロもまた、心が美しいアンジェリカに癒されていく。 ※小説家になろう様にも掲載しています いつか設定を少し変えて、長編にしたいなぁと思っているお話ですが、ひとまず短編のまま投稿しました。

毒味役の私がうっかり皇帝陛下の『呪い』を解いてしまった結果、異常な執着(物理)で迫られています

白桃
恋愛
「触れるな」――それが冷酷と噂される皇帝レオルの絶対の掟。 呪いにより誰にも触れられない孤独な彼に仕える毒味役のアリアは、ある日うっかりその呪いを解いてしまう。 初めて人の温もりを知った皇帝は、アリアに異常な執着を見せ始める。 「私のそばから離れるな」――物理的な距離感ゼロの溺愛(?)に戸惑うアリア。しかし、孤独な皇帝の心に触れるうち、二人の関係は思わぬ方向へ…? 呪いが繋いだ、凸凹主従(?)ラブファンタジー!

処理中です...