愛のない結婚をした継母に転生したようなので、天使のような息子を溺愛します

美杉日和。(旧美杉。)

文字の大きさ
51 / 78

050 初めての旅行

しおりを挟む
 どこまでも広がる森に、対岸がはるか遠くに見えるやや遠浅の湖。湖は水質がいいのか、とても澄んでいて遠くに小さな魚が泳ぐ姿すら見える。木々のおかげで柔らかな日差しが降り注ぐそのほとりに、公爵家の別荘はあった。

 私が想像していたロッジの別荘とは違う。例えるならば、海外の高級リゾートホテルのようなものだ。

 公爵家の屋敷もかなりの大きさがあったが、ここでも十分大きいくらい。二階建てで白と木目を基調とした高級感溢れる造りだ。

 そんな別荘には半数の私設騎士と使用人を連れてやってきた。そしてその人たちとは別に、この別荘専用の使用人たちもいるという充実具合。

 お金持ちともなると、こうも世界が違うのかしら。
 しかも私が公爵にお願いしてから、一週間ぐらいしか経っていないのに、別荘の中もとても綺麗に整備されており、まさに準備万端だという感じだった。

「うわぁぁぁ、すごいでしゅ。あっちにも、こっちにもいる!」

 ルカはここへついてすでに数時間経つものの、相変わらずそのテンションは高いまま。護衛と侍女を連れて、別荘の周辺でずっと虫観察を行っている。

 元々避暑地として作られたこの別荘は、屋敷の中庭よりもかなり涼しい。
 しかし屋敷から馬車で二時間ほどかかっており、そこから休む間もなく小一時間ルカに付き合った私はすでに疲れ果ててしまっていた。

 庭先でルカが見える位置に椅子とテーブルを出してもらってそこに座り、私はただルカがはしゃぐ姿をボーっと眺めている。

 ちょっと疲れたけど、連れてきてもらって正解ね。あんなに元気に走り回るルカ、初めて見たわ。
 本物の羽が生えたかのように元気に走り回るルカは、どこまでも可愛らしかった。

 一方ここまで一緒に来た公爵は、来て早々に秘書がまずはどうしても急ぎの仕事をと連れていってしまった。
 彼が忙しいのは知っていたけど、こんなところにまで来て仕事というのはちょっとかわいそうね。早く終われるといいけど。

「体調は大丈夫ですか、奥様」

 そう言いながら、アーユが冷たい紅茶を持ってきてくれた。

 いくら公爵邸よりは涼しいとはいえ、季節はおそらく夏。外遊びも大変だ。
 だけどここに湖があると聞いていたので、どうしてもやりたいことがあったのよね。

「アーユ、前に頼んでおいたものって出来たかしら」
「はい。奥様の指示通り出来上がっております。ですが、あれは一体何をするものなのですか?」

 アーユは首を傾げながらも、奥に控える別の侍女に指示を出す。すると私が欲しかった通りのものを、持ってきてくれた。

 昔、牛乳パックに透明なラップとかプラスチックをはめて、作ったことがあったのよね。
 お金もかからないし、夏は祖父母が住む田舎の川でこれで遊んでばっかりいたなぁと、これを受け取りつつ思った。

「これは箱メガネというのよ」
「箱……メガネですか」
「そうよ。あの短時間で結構な数を作ってくれたのね」

 侍女たちが持つ箱メガネは、数個あった。
 これだけあれば壊れてしまっても問題ないし、遊ぶのにも十分だわ。

 それに見せてあげたかったのよね、ルカに。この世界にはゴーグルもないし、水の中を見るにはこれしかないと思ったから。

「ルカー、ちょっと私と遊びましょう?」

 ルカは私の言葉に振り返る。
 そして侍女たちが持つ箱メガネを見ると、興味津々で駆け寄ってきてくれた。
しおりを挟む
感想 62

あなたにおすすめの小説

婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました

春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。 名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。 姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。 ――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。 相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。 40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。 (……なぜ私が?) けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。

公爵子息の母親になりました(仮)

綾崎オトイ
恋愛
幼い頃に両親を亡くした伯爵令嬢のエルシーは、伯爵位と領地を国に返して修道院に行こうと思っていた しかしそのタイミングで子持ちの公爵ディアンから、結婚の話を持ちかけられる 一人息子アスルの母親になってくれる女性を探していて、公爵夫人としての振る舞いは必要ない、自分への接触も必要最低限でいい そんなディアンの言葉通りに結婚を受けいれたエルシーは自分の役割を果たし息子のアスルに全力の愛を注いでいく 「私の可愛い子。たった一人の私の家族、大好きよ」 「エルシー! 僕も大好きだよ!」 「彼女、私を避けすぎじゃないか?」 「公爵様が言ったことを忠実に守っているだけじゃないですか」

虐げられていた次期公爵の四歳児の契約母になります!~幼子を幸せにしたいのに、未来の旦那様である王太子が私を溺愛してきます~

八重
恋愛
伯爵令嬢フローラは、公爵令息ディーターの婚約者。 しかし、そんな日々の裏で心を痛めていることが一つあった。 それはディーターの異母弟、四歳のルイトが兄に虐げられていること。 幼い彼を救いたいと思った彼女は、「ある計画」の準備を進めることにする。 それは、ルイトを救い出すための唯一の方法──。 そんな時、フローラはディーターから突然婚約破棄される。 婚約破棄宣言を受けた彼女は「今しかない」と計画を実行した。 彼女の計画、それは自らが代理母となること。 だが、この代理母には国との間で結ばれた「ある契約」が存在して……。 こうして始まったフローラの代理母としての生活。 しかし、ルイトの無邪気な笑顔と可愛さが、フローラの苦労を温かい喜びに変えていく。 さらに、見目麗しいながら策士として有名な第一王子ヴィルが、フローラに興味を持ち始めて……。 ほのぼの心温まる、子育て溺愛ストーリーです。 ※ヒロインが序盤くじけがちな部分ありますが、それをバネに強くなります ※「小説家になろう」が先行公開です(第二章開始しました)

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

毒味役の私がうっかり皇帝陛下の『呪い』を解いてしまった結果、異常な執着(物理)で迫られています

白桃
恋愛
「触れるな」――それが冷酷と噂される皇帝レオルの絶対の掟。 呪いにより誰にも触れられない孤独な彼に仕える毒味役のアリアは、ある日うっかりその呪いを解いてしまう。 初めて人の温もりを知った皇帝は、アリアに異常な執着を見せ始める。 「私のそばから離れるな」――物理的な距離感ゼロの溺愛(?)に戸惑うアリア。しかし、孤独な皇帝の心に触れるうち、二人の関係は思わぬ方向へ…? 呪いが繋いだ、凸凹主従(?)ラブファンタジー!

皇子の婚約者になりたくないので天の声に従いました

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
幼い頃から天の声が聞こえるシラク公爵の娘であるミレーヌ。 この天の声にはいろいろと助けられていた。父親の命を救ってくれたのもこの天の声。 そして、進学に向けて騎士科か魔導科を選択しなければならなくなったとき、助言をしてくれたのも天の声。 ミレーヌはこの天の声に従い、騎士科を選ぶことにした。 なぜなら、魔導科を選ぶと、皇子の婚約者という立派な役割がもれなくついてきてしまうからだ。 ※完結しました。新年早々、クスっとしていただけたら幸いです。軽くお読みください。

離婚が決まった日に惚れ薬を飲んでしまった旦那様

しあ
恋愛
片想いしていた彼と結婚をして幸せになれると思っていたけど、旦那様は女性嫌いで私とも話そうとしない。 会うのはパーティーに参加する時くらい。 そんな日々が3年続き、この生活に耐えられなくなって離婚を切り出す。そうすれば、考える素振りすらせず離婚届にサインをされる。 悲しくて泣きそうになったその日の夜、旦那に珍しく部屋に呼ばれる。 お茶をしようと言われ、無言の時間を過ごしていると、旦那様が急に倒れられる。 目を覚ませば私の事を愛していると言ってきてーーー。 旦那様は一体どうなってしまったの?

彼は亡国の令嬢を愛せない

黒猫子猫
恋愛
セシリアの祖国が滅んだ。もはや妻としておく価値もないと、夫から離縁を言い渡されたセシリアは、五年ぶりに祖国の地を踏もうとしている。その先に待つのは、敵国による処刑だ。夫に愛されることも、子を産むことも、祖国で生きることもできなかったセシリアの願いはたった一つ。長年傍に仕えてくれていた人々を守る事だ。その願いは、一人の男の手によって叶えられた。 ただ、男が見返りに求めてきたものは、セシリアの想像をはるかに超えるものだった。 ※同一世界観の関連作がありますが、これのみで読めます。本シリーズ初の長編作品です。 ※ヒーローはスパダリ時々ポンコツです。口も悪いです。 ※新作です。アルファポリス様が先行します。

処理中です...