幼馴染の元カノを家族だと言うのなら、私は不要ですよね。

美杉日和。(旧美杉。)

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011 最悪の提案

 初めからドレスを選ぶとマチュが言い出した時、なんとなく嫌な予感はしていた。

 だけどあの場ではどうすることも出来ないし、別にドレス自体はちゃんとしたものしかないから、嫌味を言われるようなことはないだろうと思ったのだ。

 だからこそ、彼女の狙いに気付くのが遅れてしまった。

「わー。リュシカさん、ドレスたくさん持っているんですね」

 マチュはクローゼットから、ドレスをいくつも取り出しベッドの上に並べる。

 普通ならばそのまま合わせればいいと思うのに、彼女はいくつも取り出しては何かを考えているようだった。

「これならば夜会に出ても問題ないんじゃないか?」

 マチュと一緒についてきたキーシストも、きちんとしたドレスたちを見て安心したように頷く。

 実家からは全部は持ってこられなかったけど、侍女たちがまだ袖を通していないものからお気に入りのものまで厳選して入れてくれたのだ。

「んー、でもぉ、初めての夜会であんまり派手過ぎても」
「そうなのか?」
「だって、他の令嬢よりも目立ったらやっかみされるかもしれないのよ?」
「ああ、そういうものなのか」

 誰がどう着飾ったって、褒められるようなことはあっても、派手だとけなされることなんてあるのかしら。

 確かに私にとって、王宮での夜会は初めてのことだけど。
 キーシストの婚約者として他の貴族に紹介されるのならば、むしろ良い物を着て行かないとダメなような気がするわ。

「そうよぉ。いきなり田舎から来て目立つだなんて、上の方たちに目を付けられたら大変よ?」
「ああ、それは困るな」
「そうでしょう。あー、このドレスならいいかも」

 そう言いながら、マチュは私の手持ちの中で一番地味なドレスを指さした。

 色はグレーがかった、マーメイドのドレス。
 裾には宝石がやや散りばめられているものの、他のふわふわしたレースをふんだんに使ったドレスたちよりはかなり見劣りする。

 だいたいあれは、夜会などに着て行くようなものではない。
 普段使いや、街などにお忍びで行く場合にと一応入れてもらったもの。

 むしろあんな地味なモノを着て行ったら、余計にジロジロ見られるんじゃないかしら。

 手持ちにはいくつか宝石はあったけれど、ここでは侍女もいないから髪型も自分でセットしなければならない。

 自分ではうまく髪に宝石も付けられないし、どう頑張っても夜会で一番地味になってしまうわ。

「さすがにそれでは地味すぎて、浮いてしまうかと」
「そーかなぁ」
「ええ。あまり地味にしてしまって、変に思われたら男爵家にも申し訳ないですし」
「でもさぁ、リュシカちゃんがキー君よりも目立った方がおかしくない?」
「え?」

 そこまでは考えていなかったけれど、そういうものなのかしら。

 一緒に行く人とは、衣装を合わせたりするものだとは聞いていたけれど。
 確かに二人一組なのに、片方だけ華美だったら浮くかもしれない。

 でも……。

「それならせめて、これくらいならどうでしょう?」

 私はマチュが選んだドレスよりも、少し格上のピンクのドレスを指さす。

「んー、この色だとキー君には合わないんじゃないかな?」

 キーシストはモスグリーンの髪に褐色の瞳。
 ピンクだったら、別に合わない気もしないけれど。

「ぼくもマチュが選んだ方がいいと思うな。マチュのセンスはいつも抜群だから」

 キーシストの答えに、マチュはにたりと笑った。

 どうしよう、このままだと本当にこれを着ていかなきゃいけなくなっちゃう。

 言い訳を探そうと考えているうちに、なぜかマチュは私のドレスたちをいくつも自分の体に当てて姿鏡に映していた。

「ねー、リュシカさん。これとこれとこれ、貸して?」
「え? あの……」
「だってぇ、あたしは夜会には行けないし、これを着て街に出たいな」
「で、でもサイズが少し違うのでは……」

 マチュは私よりも背が低い。
 私のドレスたちはオーダーメイドだから、たぶん裾を引きずってしまうはず。

 しかも彼女が指定したドレスは、私の一番のお気に入りか高い物たちばかり。
 
 貸したくないなんて言ったら、意地悪になるのかな。

「丈は侍女に直してもらうからだいじょーぶ」
「でもそれでは」
「えー、リュシカさんは貸したくない感じ?」

「そうではなくって、丈を詰めてしまったらまた直すのが大変なんじゃないかと」
「そんなのはあたしわかんないし」

 分かんないって。
 他人から借りるのにそれはダメでしょう。

「ねーキー君、明日街へお買い物行きたいな。最近ずっと体調が悪くてどこへも行けていなかったでしょう?」
「ああ、確かにそうだな。マチュは明後日の夜会にも行けなくて可哀想だし、明日は目いっぱい楽しもう」
「きゃー、やったぁ。行きたいお店いっぱいあるんだ」

 子ウサギのように、私のドレスを持ったままマチュがぴょんぴょんとその場で飛び跳ねた。

 キーシストはその姿を嬉しそうに見たあと、彼女の頭を撫でる。

「ふふふ。デート嬉しいな」
「ああ、そうだな」

 デートか。
 そんな言葉を言って、私が何も思わないと思っているのかしら。

 本当に、この人たちはどこまでも私を馬鹿にしているのね。

 ……私、なんでこんなに頑張っているんだっけ。

 惨めさが、思わず零れ落ちそうになる。

「そのドレスだけは止めて下さい」
「えー、なんで? これが一番いいのに」
「それは私にとっても大切なものなのです」

 そう。
 唯一のカインとの思い出だ。

 何があっても、このドレスだけは手放したくない。
 だって貸しても返ってくる確約はないのだから。

「リュシカさんって、優しくないのね。あたしは平民落ちして、こんなにも惨めな人生を歩んでいるのに。たった一度ドレスすら貸してくれないなんて」

 マチュはドレスを握りしめながら、顔をそれで隠しすすり泣き始める。

 どこをどうしたら、そんな話になるというの。

「そのドレスでなければ、他のならば……」
「リュシカ嬢がここまで冷たい人間だとは思わなかったよ。家族であるマチュを大切に出来ない人など、今後のことを考えさせてもらわないといけないな」

 キーシストはマチュの肩を抱き寄せながら、私を睨みつけた。

 やっぱりどこまでいっても、私が悪者みたい。

「貸さないとは言っていないではないですか。他のならば構わないので、それは嫌だと言うのもいけないことなのですか?」
「たった一度貸すくらいで、何をそこまでムキになるのかまったく理解できないな」

 その言葉をそのまま返したい気分だった。

 他ならいいと言っているのに、なぜ人が嫌がる物を貸して欲しいとせがむのか。
 私にはさっぱり理解出来ない。

 でも私が折れなければ、きっともっとキーシストは激高するのだろう。

 どうでもいいわけではないが、これ以上言い争うことに疲れてしまった私は、貸し出すことを了承した。
 
 すると泣きまねだったであろうマチュがすぐさま顔を上げ、勝ち誇ったように笑う。

 そしてそれでも怒りの収まらないキーシストは延々と文句を言いながら、マチュの肩を抱いたまま部屋を出て行った。

 一人部屋に残された私は、悔しさよりも空しさで胸がいっぱいだった。
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