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006
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その日から全てが一変した。
叔父たちはあくる日には、ほぼ全ての使用人たちを本当に解雇してしまったのだ。
お金がかかるから無駄だ。
たったそれだけのこと、で。
彼らが興味があるのは、母が嫌った煌びやかな宝石や装飾品。
そんなものを増やし、見せかけだけの贅沢でこの男爵家を溢れさせた。
「ほんっとーに、ぐずねティアは」
「お嬢様っていうのは、ダメね。全然使えないもの」
「まったく。置いてあげてるのに、ホントに使えない。この屋敷で一番の無駄ね」
「これなら、他の使用人を一人残しておいた方がまだマシだったわね」
「こらこら。そんなこと言ってはダメだぞ。捨てれないモノもあるんだからな」
「あはははは。お父様、それ」
「でも本当のことよねぇ。こーんな使えないお貴族様なんて、捨てたら怒られてしまうわ」
「確かに~。ねぇ、捨てないでいてあげるんだから、もっとマシな働きしなさいよね」
「……すみません」
テーブルで食事をする三人は後ろで控える私を横目で見ながら、クスクスと笑った。
叔父たちのために用意した食事たち。
今日はそれが気に入らないようだった。
元々、お菓子作りなどはしたことがあっても、私は本格的な料理などしたことがなかった。
そんな私のことを見かねたというよりは、ほぼ自分たちのために料理長はこの家で残された数少ない使用人のうちの一人だ。
しかし彼一人だけでは、もちろん叔父たちの食事全てを賄うことは出来ない。
給仕や皿洗い、下ごしらえなどはもちろん私の仕事となった。
もっとも、そんなコト以外にも掃除や洗濯。
この家の家事のほとんどは私の仕事になってしまったのだけど。
「だいたい、掃除もきたな過ぎよ。今日これから次期公爵様がお見えになるというのに、こんなに屋敷が汚いだなんて変に思われえるじゃない」
「ああ本当だな。変に痛くもない腹を探られても困るからな」
「え? それはどういうことなんですの?」
「なぁに、使用人が勝手に話し出すだなんて。行儀悪すぎ~」
私がこぼした言葉に、ラナがすぐ反応する。
まるで初めから自分こそが貴族であり、私はただの使用人だとでも言うような態度だ。
元々、ラナが座っている席は私の席だった。
しかし今この大広間の食堂には、私の席はない。
ううん。それだけではない。
そもそも私の食事すら、もう用意されることはなくなった。
いつでも叔父様たちが食べた残りを、料理長が分けてくれるだけの日々。
ケチな叔父たちは食事代すらも少なくしているため、パン一個とスープのみで一日過ごすこともザラだ。
前にいた使用人たちよりも、私への扱いは遥に悪いと思う。
だってどれだけ使用人たちのように働いたところで、お給金すらもらえないのだから。
それでも我慢しないと、私には行くところがない。
もしここを追い出されてしまったら、困るのは私だもの。
「あの……」
「なぁに、次期公爵様がお見えになるのが、そんなに気になるの?」
「……だってカイル様は私の婚約者ですし」
「だから?」
「え?」
「だって、あんた今使用人でしょう? 使用人がなに言ってんの?」
上から下までラナが私のことを見た。
「でも……」
「でももなにもないでしょ。第一どーやって、会う気なのよ?」
ラナはなにを言ってるのだろう。
だって、カイルは私の婚約者なのに。
どうやって会うもなにも……。
使用人としてココで使われていたとしたって、そんなことは婚約には関係ないはず。
それにこの状況をカイルに相談できれば、もしかしたら少しは良くなるかもしれないし。
そう。これは私の微かな望みでもあった。
たとえ前のような生活は出来なくても、少なくとも使用人以下の生活はしなくても良くなるかもしれない、と。
「ほーんと馬鹿ね。だいたい、ドレスももうないじゃない」
「ドレス……」
ドレスはラナにすべて取り上げられてしまった。
使用人には必要ないだろうと。
叔父様たちに抗議したけれど、ココに住むための生活費だと言われれば、私には返す言葉もなかった。
「それに、食事とかの用意だってどうするの? あんたが料理しなければ、なにも出て来ないのよ。まさかカイル様におもてなししないつもりなの~?」
「そ、それは!」
たしかに使用人はほぼいない状態で、私が給仕や他のことをしなければこの家は回りはしない。
でもだからと言って、婚約者である私が給仕をして使用人のように働く姿をカイルはどう思うだろう。
優しいカイルならば、きっと心配して優しい声をかけてくれるはず。
だけどもし、私との婚約をただの貴族間の義務としての捉えてたとしたら……。
カイルの婚約者は私ではなくても、よくなってしまうんじゃないのかな。
「でもどうします、あなた?」
あごで、叔母が私を指した。
私? どうしますとは、どういう意味だろう。
「あーそうだなぁ。さすがに給仕させたり、外に出したりするのは外聞があるからな。まだ、計画前でもあるし」
「ええ、そうね。まだこんなでも婚約者ですものね」
まだってどういうこと?
やっぱり私との婚約を破棄されるってことなの?
今もし、カイルを失ってしまったとしたら……。
私は本当に、誰も頼る人がいなくなってしまうわ。
「ラナ、計画は分かってるわね」
「ええ、もちろんよ、お母様! あたしに任せておいて。絶対に大丈夫だから」
ラナが私を見て、にたりと微笑む。
それはなんとも嫌な笑顔だった。
さっきから出てくる計画という言葉。
絶対にいい予感はしなかった。
叔父たちはあくる日には、ほぼ全ての使用人たちを本当に解雇してしまったのだ。
お金がかかるから無駄だ。
たったそれだけのこと、で。
彼らが興味があるのは、母が嫌った煌びやかな宝石や装飾品。
そんなものを増やし、見せかけだけの贅沢でこの男爵家を溢れさせた。
「ほんっとーに、ぐずねティアは」
「お嬢様っていうのは、ダメね。全然使えないもの」
「まったく。置いてあげてるのに、ホントに使えない。この屋敷で一番の無駄ね」
「これなら、他の使用人を一人残しておいた方がまだマシだったわね」
「こらこら。そんなこと言ってはダメだぞ。捨てれないモノもあるんだからな」
「あはははは。お父様、それ」
「でも本当のことよねぇ。こーんな使えないお貴族様なんて、捨てたら怒られてしまうわ」
「確かに~。ねぇ、捨てないでいてあげるんだから、もっとマシな働きしなさいよね」
「……すみません」
テーブルで食事をする三人は後ろで控える私を横目で見ながら、クスクスと笑った。
叔父たちのために用意した食事たち。
今日はそれが気に入らないようだった。
元々、お菓子作りなどはしたことがあっても、私は本格的な料理などしたことがなかった。
そんな私のことを見かねたというよりは、ほぼ自分たちのために料理長はこの家で残された数少ない使用人のうちの一人だ。
しかし彼一人だけでは、もちろん叔父たちの食事全てを賄うことは出来ない。
給仕や皿洗い、下ごしらえなどはもちろん私の仕事となった。
もっとも、そんなコト以外にも掃除や洗濯。
この家の家事のほとんどは私の仕事になってしまったのだけど。
「だいたい、掃除もきたな過ぎよ。今日これから次期公爵様がお見えになるというのに、こんなに屋敷が汚いだなんて変に思われえるじゃない」
「ああ本当だな。変に痛くもない腹を探られても困るからな」
「え? それはどういうことなんですの?」
「なぁに、使用人が勝手に話し出すだなんて。行儀悪すぎ~」
私がこぼした言葉に、ラナがすぐ反応する。
まるで初めから自分こそが貴族であり、私はただの使用人だとでも言うような態度だ。
元々、ラナが座っている席は私の席だった。
しかし今この大広間の食堂には、私の席はない。
ううん。それだけではない。
そもそも私の食事すら、もう用意されることはなくなった。
いつでも叔父様たちが食べた残りを、料理長が分けてくれるだけの日々。
ケチな叔父たちは食事代すらも少なくしているため、パン一個とスープのみで一日過ごすこともザラだ。
前にいた使用人たちよりも、私への扱いは遥に悪いと思う。
だってどれだけ使用人たちのように働いたところで、お給金すらもらえないのだから。
それでも我慢しないと、私には行くところがない。
もしここを追い出されてしまったら、困るのは私だもの。
「あの……」
「なぁに、次期公爵様がお見えになるのが、そんなに気になるの?」
「……だってカイル様は私の婚約者ですし」
「だから?」
「え?」
「だって、あんた今使用人でしょう? 使用人がなに言ってんの?」
上から下までラナが私のことを見た。
「でも……」
「でももなにもないでしょ。第一どーやって、会う気なのよ?」
ラナはなにを言ってるのだろう。
だって、カイルは私の婚約者なのに。
どうやって会うもなにも……。
使用人としてココで使われていたとしたって、そんなことは婚約には関係ないはず。
それにこの状況をカイルに相談できれば、もしかしたら少しは良くなるかもしれないし。
そう。これは私の微かな望みでもあった。
たとえ前のような生活は出来なくても、少なくとも使用人以下の生活はしなくても良くなるかもしれない、と。
「ほーんと馬鹿ね。だいたい、ドレスももうないじゃない」
「ドレス……」
ドレスはラナにすべて取り上げられてしまった。
使用人には必要ないだろうと。
叔父様たちに抗議したけれど、ココに住むための生活費だと言われれば、私には返す言葉もなかった。
「それに、食事とかの用意だってどうするの? あんたが料理しなければ、なにも出て来ないのよ。まさかカイル様におもてなししないつもりなの~?」
「そ、それは!」
たしかに使用人はほぼいない状態で、私が給仕や他のことをしなければこの家は回りはしない。
でもだからと言って、婚約者である私が給仕をして使用人のように働く姿をカイルはどう思うだろう。
優しいカイルならば、きっと心配して優しい声をかけてくれるはず。
だけどもし、私との婚約をただの貴族間の義務としての捉えてたとしたら……。
カイルの婚約者は私ではなくても、よくなってしまうんじゃないのかな。
「でもどうします、あなた?」
あごで、叔母が私を指した。
私? どうしますとは、どういう意味だろう。
「あーそうだなぁ。さすがに給仕させたり、外に出したりするのは外聞があるからな。まだ、計画前でもあるし」
「ええ、そうね。まだこんなでも婚約者ですものね」
まだってどういうこと?
やっぱり私との婚約を破棄されるってことなの?
今もし、カイルを失ってしまったとしたら……。
私は本当に、誰も頼る人がいなくなってしまうわ。
「ラナ、計画は分かってるわね」
「ええ、もちろんよ、お母様! あたしに任せておいて。絶対に大丈夫だから」
ラナが私を見て、にたりと微笑む。
それはなんとも嫌な笑顔だった。
さっきから出てくる計画という言葉。
絶対にいい予感はしなかった。
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