悪役令嬢の涙。虐げられた泣き虫令嬢は、愛する人のために白猫と悪役令嬢を目指します。

美杉日和。(旧美杉。)

文字の大きさ
6 / 31

006

しおりを挟む
 その日から全てが一変した。

 叔父たちはあくる日には、ほぼ全ての使用人たちを本当に解雇してしまったのだ。

 お金がかかるから無駄だ。

 たったそれだけのこと、で。

 彼らが興味があるのは、母が嫌った煌びやかな宝石や装飾品。

 そんなものを増やし、見せかけだけの贅沢でこの男爵家を溢れさせた。


「ほんっとーに、ぐずねティアは」

「お嬢様っていうのは、ダメね。全然使えないもの」

「まったく。置いてあげてるのに、ホントに使えない。この屋敷で一番の無駄ね」

「これなら、他の使用人を一人残しておいた方がまだマシだったわね」

「こらこら。そんなこと言ってはダメだぞ。捨てれないモノもあるんだからな」

「あはははは。お父様、それ」

「でも本当のことよねぇ。こーんな使えないお貴族様なんて、捨てたら怒られてしまうわ」

「確かに~。ねぇ、捨てないでいてあげるんだから、もっとマシな働きしなさいよね」

「……すみません」


 テーブルで食事をする三人は後ろで控える私を横目で見ながら、クスクスと笑った。

 叔父たちのために用意した食事たち。

 今日はそれが気に入らないようだった。

 元々、お菓子作りなどはしたことがあっても、私は本格的な料理などしたことがなかった。

 そんな私のことを見かねたというよりは、ほぼ自分たちのために料理長はこの家で残された数少ない使用人のうちの一人だ。

 しかし彼一人だけでは、もちろん叔父たちの食事全てを賄うことは出来ない。

 給仕や皿洗い、下ごしらえなどはもちろん私の仕事となった。

 もっとも、そんなコト以外にも掃除や洗濯。

 この家の家事のほとんどは私の仕事になってしまったのだけど。


「だいたい、掃除もきたな過ぎよ。今日これから次期公爵様がお見えになるというのに、こんなに屋敷が汚いだなんて変に思われえるじゃない」

「ああ本当だな。変に痛くもない腹を探られても困るからな」

「え? それはどういうことなんですの?」

「なぁに、使用人が勝手に話し出すだなんて。行儀悪すぎ~」


 私がこぼした言葉に、ラナがすぐ反応する。

 まるで初めから自分こそが貴族であり、私はただの使用人だとでも言うような態度だ。

 元々、ラナが座っている席は私の席だった。

 しかし今この大広間の食堂には、私の席はない。

 ううん。それだけではない。

 そもそも私の食事すら、もう用意されることはなくなった。

 いつでも叔父様たちが食べた残りを、料理長が分けてくれるだけの日々。

 ケチな叔父たちは食事代すらも少なくしているため、パン一個とスープのみで一日過ごすこともザラだ。

 前にいた使用人たちよりも、私への扱いは遥に悪いと思う。

 だってどれだけ使用人たちのように働いたところで、お給金すらもらえないのだから。

 それでも我慢しないと、私には行くところがない。

 もしここを追い出されてしまったら、困るのは私だもの。


「あの……」

「なぁに、次期公爵様がお見えになるのが、そんなに気になるの?」

「……だってカイル様は私の婚約者ですし」

「だから?」

「え?」

「だって、あんた今使用人でしょう? 使用人がなに言ってんの?」


 上から下までラナが私のことを見た。


「でも……」

「でももなにもないでしょ。第一どーやって、会う気なのよ?」


 ラナはなにを言ってるのだろう。

 だって、カイルは私の婚約者なのに。

 どうやって会うもなにも……。

 使用人としてココで使われていたとしたって、そんなことは婚約には関係ないはず。

 それにこの状況をカイルに相談できれば、もしかしたら少しは良くなるかもしれないし。

 そう。これは私の微かな望みでもあった。

 たとえ前のような生活は出来なくても、少なくとも使用人以下の生活はしなくても良くなるかもしれない、と。


「ほーんと馬鹿ね。だいたい、ドレスももうないじゃない」

「ドレス……」


 ドレスはラナにすべて取り上げられてしまった。

 使用人には必要ないだろうと。

 叔父様たちに抗議したけれど、ココに住むための生活費だと言われれば、私には返す言葉もなかった。


「それに、食事とかの用意だってどうするの? あんたが料理しなければ、なにも出て来ないのよ。まさかカイル様におもてなししないつもりなの~?」

「そ、それは!」


 たしかに使用人はほぼいない状態で、私が給仕や他のことをしなければこの家は回りはしない。

 でもだからと言って、婚約者である私が給仕をして使用人のように働く姿をカイルはどう思うだろう。

 優しいカイルならば、きっと心配して優しい声をかけてくれるはず。

 だけどもし、私との婚約をただの貴族間の義務としての捉えてたとしたら……。

 カイルの婚約者は私ではなくても、よくなってしまうんじゃないのかな。


「でもどうします、あなた?」


 あごで、叔母が私を指した。

 私? どうしますとは、どういう意味だろう。


「あーそうだなぁ。さすがに給仕させたり、外に出したりするのは外聞があるからな。、計画前でもあるし」

「ええ、そうね。こんなでも婚約者ですものね」


 まだってどういうこと?

 やっぱり私との婚約を破棄されるってことなの?

 今もし、カイルを失ってしまったとしたら……。

 私は本当に、誰も頼る人がいなくなってしまうわ。


「ラナ、計画は分かってるわね」

「ええ、もちろんよ、お母様! あたしに任せておいて。絶対に大丈夫だから」


 ラナが私を見て、にたりと微笑む。

 それはなんとも嫌な笑顔だった。

 さっきから出てくる計画という言葉。

 絶対にいい予感はしなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

悪役令嬢ですが、今日も元婚約者とヒロインにざまぁされました(なお、全員私を溺愛しています)

ほーみ
恋愛
「レティシア・エルフォード! お前との婚約は破棄する!」  王太子アレクシス・ヴォルフェンがそう宣言した瞬間、広間はざわめいた。私は静かに紅茶を口にしながら、その言葉を聞き流す。どうやら、今日もまた「ざまぁ」される日らしい。  ここは王宮の舞踏会場。華やかな装飾と甘い香りが漂う中、私はまたしても断罪劇の主役に据えられていた。目の前では、王太子が優雅に微笑みながら、私に婚約破棄を突きつけている。その隣には、栗色の髪をふわりと揺らした少女――リリア・エヴァンスが涙ぐんでいた。

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

婚約破棄された令嬢、気づけば王族総出で奪い合われています

ゆっこ
恋愛
 「――よって、リリアーナ・セレスト嬢との婚約は破棄する!」  王城の大広間に王太子アレクシスの声が響いた瞬間、私は静かにスカートをつまみ上げて一礼した。  「かしこまりました、殿下。どうか末永くお幸せに」  本心ではない。けれど、こう言うしかなかった。  王太子は私を見下ろし、勝ち誇ったように笑った。  「お前のような地味で役に立たない女より、フローラの方が相応しい。彼女は聖女として覚醒したのだ!」

悪役令嬢が行方不明!?

mimiaizu
恋愛
乙女ゲームの設定では悪役令嬢だった公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザ。そんな彼女が行方不明になるというゲームになかった事件(イベント)が起こる。彼女を見つけ出そうと捜索が始まる。そして、次々と明かされることになる真実に、妹が両親が、婚約者の王太子が、ヒロインの男爵令嬢が、皆が驚愕することになる。全てのカギを握るのは、一体誰なのだろう。 ※初めての悪役令嬢物です。

処理中です...