悪役令嬢の涙。虐げられた泣き虫令嬢は、愛する人のために白猫と悪役令嬢を目指します。

美杉日和。(旧美杉。)

文字の大きさ
11 / 31

011

しおりを挟む
 よりにもよって、カイルの次に会いたくない人に会うなんて。

 シロは誰かが助けに来ることを知っている風だった。

 もしかしたら彼がこの近くにいることが分かっていて、音を出すように言っていたのかな。


「ぼ、僕は大丈夫ですが、それよりもその恰好はどうなさったのですかティア様」

「えっと、その、あの……」


 あまりにも急すぎて、良さげな言い訳が全然思いつかない。

 彼はカイルの一番の側近ともいえる。

 私がこんなところでこんな格好をしていたなんて、すぐにカイルの耳に入るだろう。

 貴族の令嬢とは思えない、みすぼらしい恰好。

 こんな薄汚い婚約者を見たら、カイルに幻滅されてしまうかもしれない。

 それだけはどうしても嫌。


「そ、掃除をしていたんです。そしたら、戸の前に立てかけてあったものが崩れてしまったのか、出られなくなってしまって」


 自分でも、これが苦しい言い訳だって分かってる。

 でもこれ以上の言い訳なんて思いつかないんだもの。

 ああ、泣きそうになるほど惨めね。

 確かにシロの言う通り助け出してはもらえたけど、やっぱりキツイ。

 こんな姿を誰かに見られるだなんて……。


「どうして男爵家のご令嬢であるあなたが、掃除などしないといけないんですか!」

「えっとそれは……使用人がみんないなくなってしまって?」

「使用人がいなくなったのならば、新しく雇えば済むだけの話でしょう」

「んっと、今探しているところなんじゃないのかしら」

「そんなものはすぐに見つかるはずです」

「でもほら、ちゃんと審査とか必要ですし?」

「だからといって、貴女が掃除をすることにはならないでしょうに……。しかもさっきからご自分の発言が全部疑問形なの分かってます?」


 だってしょうがないじゃない。私はその問いに対する答えを持ってないんだもの。

 それに自分から虐げられてますなんて言えるわけがないじゃないの。


「えっと、そうかしら? でも、ほら、ねぇ」

「でもも、だけどでもないですよ! ちゃんと分かってます?」


 自分だって、言い訳が苦しいことなど十分わかってるわよ。

 でもだからといって、じゃあなんて言えばいいの。

 どう繕ったって、無理なんだから。


「あああ、ティア様、ぼ、僕は何も泣かすつもりではなかったんですよ」


 慌てたようにウエスト卿は立ち上がり、ポケットから少しシワになったハンカチを差し出した。

 泣くつもりなんてなかったのに。自然に涙が流れてしまっていた。


「すみません、すみません。責めるつもりなんてこれっぽっちもなかったんです。あああ、こんなトコをカイル様に見られたら絶対にころされる~。いやだぁぁぁぁ」


 頭を抱え右往左往しならが、ウエスト卿の顔は真っ青だ。

 そんなにもカイルは怖いのかな。

 私の前では一回だって怒ったこともないのに。

 大げさっていうか、なんというか。

 私が泣いてしまったのだって、彼のせいじゃなくて、あまりにも自分が惨めに思えただけだし。

 泣いてしまったのが、逆に悪く思えてしまえるわ。


「ふふふ。ごめんなさい、ウエスト卿。私も少し気が動転してしまって」

「いやいや、僕が悪いんです。言い過ぎました。地の底より反省しております」


 本当に申し訳なさそうに、深々と頭を下げた。

 悪いことをしてしまったわね。

 助けて下さったのに、こんな風に謝らせてもしまって。

 やっぱり……ごまかせそうにないわね。

 私は半ばあきらめの目で、彼を見上げた。


「大袈裟ですよ。……ただ、カイル様に知られたくなかったんです」

「でも、そんなこと! 今、ティア様はご自分が置かれている状況を分かっていますか?」

「……ええ」

「絶対に分かっていませんって。こんなの許されることではないですよ。いくら爵位が貴女のお父様から、義理のお兄様に移ったとはいえ、ティナ様が男爵家の令嬢であることには変わりないんです」

「それは分かっています」

「だったら」

「でもウエスト卿、爵位や肩書きでは食べていくことも出来ないのですよ?」


 そうこれは、叔父様たちが来てからずっと言われてきた言葉だ。

 爵位は今、叔父にあって、領地からの収入も全て叔父たちの物。

 私はココに居させてもらっているだけで、なんら価値もない。

 悲しくたって、どれだけ泣いたって、これだけは変えられない事実だった。


「そ、そんなこと」

「爵位が移譲された以上、私の財産というのは限りある少しの物しかありません。権利があったって、住むにも生きていくにもお金はかかるでしょう」

「だからこんなことをさせられているのですか? こんな使用人のようなことを」

「そうね……」


 本当は使用人以下だ。
 
 働いたってまともにご飯をもらえるわけでもなく、お給金だってない。

 お風呂も入らせてもらえず、毎日井戸の水で体を拭いて、洗濯も自分で行う。

 本当に、ただココにいさせてもらっているだけ。

 まぁそれでも、家賃? が高いと言われれば、相場なんて分からないし。

 外で働いたこともない。

 雇ってもらえるかも分からず、外に放り出されるぐらいなら結局ここにるという選択肢しか私には思いつかなかった。


「爵位が譲渡されたからといって、貴女に財産がないわけではないはずです。きっと、あいつらが隠してるんですよ」

「そうなのかしら? 私にはそういうことは分からなくて」

「どうしてカイル様に助けを求めなかったんです?」

「だって……こんなみっともない姿……カイル様にだけは見せたくなかったんですもの」

「だとしても!」

「だってそうでしょう? 仮にもまだ、婚約者なのよ。たとえ私に価値がなくなったとしたって……。でもこんなみすぼらしくて、なんにもない姿を見たら……もう婚約者を変えられてしまったら」

「えええ。どうしてそんな発想になるんですか!?」

「……」


 どうしてもこうしても、私にはもう何もないんだもの。



_______________________________________

いつもお読みいただいている皆様に激感謝です。


ブクマ・しおり・ご感想などいただけますと、作者の更なる元気の源となり、執筆も頑張れますので、とーーーーーーってもお待ちしております(*・x・)ノ~~~♪
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

悪役令嬢ですが、今日も元婚約者とヒロインにざまぁされました(なお、全員私を溺愛しています)

ほーみ
恋愛
「レティシア・エルフォード! お前との婚約は破棄する!」  王太子アレクシス・ヴォルフェンがそう宣言した瞬間、広間はざわめいた。私は静かに紅茶を口にしながら、その言葉を聞き流す。どうやら、今日もまた「ざまぁ」される日らしい。  ここは王宮の舞踏会場。華やかな装飾と甘い香りが漂う中、私はまたしても断罪劇の主役に据えられていた。目の前では、王太子が優雅に微笑みながら、私に婚約破棄を突きつけている。その隣には、栗色の髪をふわりと揺らした少女――リリア・エヴァンスが涙ぐんでいた。

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

婚約破棄された令嬢、気づけば王族総出で奪い合われています

ゆっこ
恋愛
 「――よって、リリアーナ・セレスト嬢との婚約は破棄する!」  王城の大広間に王太子アレクシスの声が響いた瞬間、私は静かにスカートをつまみ上げて一礼した。  「かしこまりました、殿下。どうか末永くお幸せに」  本心ではない。けれど、こう言うしかなかった。  王太子は私を見下ろし、勝ち誇ったように笑った。  「お前のような地味で役に立たない女より、フローラの方が相応しい。彼女は聖女として覚醒したのだ!」

悪役令嬢が行方不明!?

mimiaizu
恋愛
乙女ゲームの設定では悪役令嬢だった公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザ。そんな彼女が行方不明になるというゲームになかった事件(イベント)が起こる。彼女を見つけ出そうと捜索が始まる。そして、次々と明かされることになる真実に、妹が両親が、婚約者の王太子が、ヒロインの男爵令嬢が、皆が驚愕することになる。全てのカギを握るのは、一体誰なのだろう。 ※初めての悪役令嬢物です。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

処理中です...