悪役令嬢の涙。虐げられた泣き虫令嬢は、愛する人のために白猫と悪役令嬢を目指します。

美杉日和。(旧美杉。)

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 私よりも先に叔父様たちがカイルの行動を知ることが出来たのは、他でもないその手紙のおかげのはずだ。

 ああ、そういうことなのね。

 そうやって私宛に来た手紙を読むことで、カイルの行動を知りたかったのね。

 私がこんな風にこの屋敷で使用人のように使われていることなど、カイルは知らない。

 もし急にカイルの目に留まってしまって、自分たちが叱責でもされると困るから。

 そう考えれば、手紙を開けた意味も渡さなかった意味も分かってくる。

 私がカイルに助けを求められても、困るのは彼らなんだし。

 今はまだ私がカイルの婚約者であることには変わりはない。

 もしカイルが私との婚約を破棄しなかったら。

 きっと叔父様たちにとって、とても困ることになるはず。

 だって次期公爵夫人となる自分の姪を、こんな風に虐げていたのだから。

 叔父様たちが手紙を隠した原因は分かったけど、でもカイルの行動の意味は?


「カイル様は……もしかして私のことを心配して下さったのかしら?」

「ん-っとぉ。もしかしなくても、そうだと思いますけど?」

「でも貴族間の婚約はただの家柄同士の契約のようなものよ。私たちにはその意思も決定権もなく、今となっては私とこのまま婚約をしている意味だってなくなってしまったのに」


 父たちが生きてる頃なら、この婚約は意味があった。

 私の父と、カイルの父である公爵は親友だったから。

 子どもが生まれたら、結婚させようと私たちが生まれる前から約束をしていたと聞いたことがある。

 でも今はそんなモノよりも、私にはもう後ろ盾も何もないというのに。

 メリットも約束も……。


「ああ、そうね! きっとそうだわ」

「やっと理解していただけましたか。ティア様が愛されてるって……」

「カイル様は父を亡くした私にひどく同情して下さったのね。きっと公爵様も父たちに死なれた私を哀れに思って、あんな古い口約束を守ろうとして下さってるんだわ」

「ちっがーぅよ。どーーーーーして、そういう考えになっちゃうんですかねぇ。僕はもうがっかりですわ」

「えー。だって、きっとそうよ。それ以外にないじゃないの」

「いやいやいやいや、ティア様、貴族間のしきたりとか情報とかそんなのに感化されすぎです。あー、僕はある意味カイル様が可哀想に思えてきたわ」

「そうでしょう?」

「いやぁ、僕の可哀想とティア様の言ってる可哀想は全く違うと思いますよ」

「そうかしら。同じだと思うんですけど」

「ティア様って天然って言われたことないですか?」

「天然? えっと、私が、た、食べ物か何かってことかしら」

「えーもーーー。いいです。もういいです。全部聞かなかったコトにして下さい」


 私の返答、また何か間違ってしまったみたいね。

 ウエスト卿は少しガックリしたように肩を落とし、馬車に向かってとぼとぼと歩き出した。

 私もつられるように、小屋から出る。

 外は良い日差しだった。

 雲一つない高い空に澄んだ空気。

 たった数時間しかあの中に入れられてなかったとは思うのに、やっと解放された。

 心の底からそう思う。

 埃まみれでかび臭く、まともに人が入れたところではない。

 そう思い振り返ると、きょろきょろと辺りを見渡しながらシロが出てきた。

 ウエスト卿と離しているうちに、つい、その存在を忘れてしまっていたわね。


「シロ!」

『バカっ』

「ん? ティア様どうかなさいましたか?」


 急に声を上げた私に、ウエスト卿が振り返った。

 ああ、あれだけ言われてたのに。

 シロは誰にも見えないんだっけ。

 
「えっとぉ、最近よくうちの庭に遊びに来る猫が今通り過ぎて行ったの」

「どこですか~?」

「ああ、もう行ってしまったわ。ウエスト卿は動物好きかしら」

「ええ、小動物好きなんですよね~」

「可愛いですものね」

「ですです」


 眉を下げ、嬉しそうに話す姿を見ると、本当にかなり好きそうね。

 でもよかった、うまくごまかせて。

 再びシロに視線を落とせば、顔が明らかにやれやれと言っていた。

 でもしょうがないじゃない。

 こんなに私にははっきり見えるのに、他の人には見えないしその声も聞こえないだなんて思えないもの。

 艶々とした毛並みに、とても可愛らしい顔立ちの子猫。

 日の下で見ると、本当に立派な猫なのよね。

 どこかの飼い猫といってもいいほど。

 ただ猫の姿を借りている精霊様なんだから、あんまり猫扱いしても失礼よね。

 こうやってココから出られたのも、全部シロのおかげだし。

 落ち着いたらちゃんとお礼しないと。

 そのためにも、屋敷を出たらこれからのことをしっかり考えないと。


「いろいろ不安だとは思いますが、カイル様が絶対に助けてくださいますから大丈夫ですよ、ティア様」

「ええ……でも、私はあの方の重荷にはなりたくないのよ」

「えー。どうしてそういう思考になっちゃうんですかねー?」

「だってそうでしょ。家も後ろ盾もないわけだし」

「そんなのよりももっと大切なモノがあるじゃないですかぁ」

「大切なモノ?」

「そうですよ」

「お金もないですよ?」

「ちっがーーーいます。どうしてそうなるんですか。もぅ僕はどーしたら会話が成立するんですかねぇ」

「そう言われても……。でもねウエスト卿、もしこのまま婚約者としてカイル様の隣にいるにしてもこのままではダメだと思うんです」


 そうこのままでは絶対にダメ。

 今のままでは私はカイルの隣に並べないもの。
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