13 / 31
013
しおりを挟む私よりも先に叔父様たちがカイルの行動を知ることが出来たのは、他でもないその手紙のおかげのはずだ。
ああ、そういうことなのね。
そうやって私宛に来た手紙を読むことで、カイルの行動を知りたかったのね。
私がこんな風にこの屋敷で使用人のように使われていることなど、カイルは知らない。
もし急にカイルの目に留まってしまって、自分たちが叱責でもされると困るから。
そう考えれば、手紙を開けた意味も渡さなかった意味も分かってくる。
私がカイルに助けを求められても、困るのは彼らなんだし。
今はまだ私がカイルの婚約者であることには変わりはない。
もしカイルが私との婚約を破棄しなかったら。
きっと叔父様たちにとって、とても困ることになるはず。
だって次期公爵夫人となる自分の姪を、こんな風に虐げていたのだから。
叔父様たちが手紙を隠した原因は分かったけど、でもカイルの行動の意味は?
「カイル様は……もしかして私のことを心配して下さったのかしら?」
「ん-っとぉ。もしかしなくても、そうだと思いますけど?」
「でも貴族間の婚約はただの家柄同士の契約のようなものよ。私たちにはその意思も決定権もなく、今となっては私とこのまま婚約をしている意味だってなくなってしまったのに」
父たちが生きてる頃なら、この婚約は意味があった。
私の父と、カイルの父である公爵は親友だったから。
子どもが生まれたら、結婚させようと私たちが生まれる前から約束をしていたと聞いたことがある。
でも今はそんなモノよりも、私にはもう後ろ盾も何もないというのに。
メリットも約束も……。
「ああ、そうね! きっとそうだわ」
「やっと理解していただけましたか。ティア様が愛されてるって……」
「カイル様は父を亡くした私にひどく同情して下さったのね。きっと公爵様も父たちに死なれた私を哀れに思って、あんな古い口約束を守ろうとして下さってるんだわ」
「ちっがーぅよ。どーーーーーして、そういう考えになっちゃうんですかねぇ。僕はもうがっかりですわ」
「えー。だって、きっとそうよ。それ以外にないじゃないの」
「いやいやいやいや、ティア様、貴族間のしきたりとか情報とかそんなのに感化されすぎです。あー、僕はある意味カイル様が可哀想に思えてきたわ」
「そうでしょう?」
「いやぁ、僕の可哀想とティア様の言ってる可哀想は全く違うと思いますよ」
「そうかしら。同じだと思うんですけど」
「ティア様って天然って言われたことないですか?」
「天然? えっと、私が、た、食べ物か何かってことかしら」
「えーもーーー。いいです。もういいです。全部聞かなかったコトにして下さい」
私の返答、また何か間違ってしまったみたいね。
ウエスト卿は少しガックリしたように肩を落とし、馬車に向かってとぼとぼと歩き出した。
私もつられるように、小屋から出る。
外は良い日差しだった。
雲一つない高い空に澄んだ空気。
たった数時間しかあの中に入れられてなかったとは思うのに、やっと解放された。
心の底からそう思う。
埃まみれでかび臭く、まともに人が入れたところではない。
そう思い振り返ると、きょろきょろと辺りを見渡しながらシロが出てきた。
ウエスト卿と離しているうちに、つい、その存在を忘れてしまっていたわね。
「シロ!」
『バカっ』
「ん? ティア様どうかなさいましたか?」
急に声を上げた私に、ウエスト卿が振り返った。
ああ、あれだけ言われてたのに。
シロは誰にも見えないんだっけ。
「えっとぉ、最近よくうちの庭に遊びに来る猫が今通り過ぎて行ったの」
「どこですか~?」
「ああ、もう行ってしまったわ。ウエスト卿は動物好きかしら」
「ええ、小動物好きなんですよね~」
「可愛いですものね」
「ですです」
眉を下げ、嬉しそうに話す姿を見ると、本当にかなり好きそうね。
でもよかった、うまくごまかせて。
再びシロに視線を落とせば、顔が明らかにやれやれと言っていた。
でもしょうがないじゃない。
こんなに私にははっきり見えるのに、他の人には見えないしその声も聞こえないだなんて思えないもの。
艶々とした毛並みに、とても可愛らしい顔立ちの子猫。
日の下で見ると、本当に立派な猫なのよね。
どこかの飼い猫といってもいいほど。
ただ猫の姿を借りている精霊様なんだから、あんまり猫扱いしても失礼よね。
こうやってココから出られたのも、全部シロのおかげだし。
落ち着いたらちゃんとお礼しないと。
そのためにも、屋敷を出たらこれからのことをしっかり考えないと。
「いろいろ不安だとは思いますが、カイル様が絶対に助けてくださいますから大丈夫ですよ、ティア様」
「ええ……でも、私はあの方の重荷にはなりたくないのよ」
「えー。どうしてそういう思考になっちゃうんですかねー?」
「だってそうでしょ。家も後ろ盾もないわけだし」
「そんなのよりももっと大切なモノがあるじゃないですかぁ」
「大切なモノ?」
「そうですよ」
「お金もないですよ?」
「ちっがーーーいます。どうしてそうなるんですか。もぅ僕はどーしたら会話が成立するんですかねぇ」
「そう言われても……。でもねウエスト卿、もしこのまま婚約者としてカイル様の隣にいるにしてもこのままではダメだと思うんです」
そうこのままでは絶対にダメ。
今のままでは私はカイルの隣に並べないもの。
10
あなたにおすすめの小説
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています
六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。
しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。
「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!
悪役令嬢ですが、今日も元婚約者とヒロインにざまぁされました(なお、全員私を溺愛しています)
ほーみ
恋愛
「レティシア・エルフォード! お前との婚約は破棄する!」
王太子アレクシス・ヴォルフェンがそう宣言した瞬間、広間はざわめいた。私は静かに紅茶を口にしながら、その言葉を聞き流す。どうやら、今日もまた「ざまぁ」される日らしい。
ここは王宮の舞踏会場。華やかな装飾と甘い香りが漂う中、私はまたしても断罪劇の主役に据えられていた。目の前では、王太子が優雅に微笑みながら、私に婚約破棄を突きつけている。その隣には、栗色の髪をふわりと揺らした少女――リリア・エヴァンスが涙ぐんでいた。
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた
22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。
婚約破棄された令嬢、気づけば王族総出で奪い合われています
ゆっこ
恋愛
「――よって、リリアーナ・セレスト嬢との婚約は破棄する!」
王城の大広間に王太子アレクシスの声が響いた瞬間、私は静かにスカートをつまみ上げて一礼した。
「かしこまりました、殿下。どうか末永くお幸せに」
本心ではない。けれど、こう言うしかなかった。
王太子は私を見下ろし、勝ち誇ったように笑った。
「お前のような地味で役に立たない女より、フローラの方が相応しい。彼女は聖女として覚醒したのだ!」
悪役令嬢が行方不明!?
mimiaizu
恋愛
乙女ゲームの設定では悪役令嬢だった公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザ。そんな彼女が行方不明になるというゲームになかった事件(イベント)が起こる。彼女を見つけ出そうと捜索が始まる。そして、次々と明かされることになる真実に、妹が両親が、婚約者の王太子が、ヒロインの男爵令嬢が、皆が驚愕することになる。全てのカギを握るのは、一体誰なのだろう。
※初めての悪役令嬢物です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる