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やっぱりせめて隣に並ぶなら、その関係は対等でいたい。
父と母がそうだったように。
今のままでは、私には何もないもの。
ただの同情で一緒になっていうのは絶対にダメ。
公爵家に着いたら、ちゃんとそのことをカイル様に伝えないと。
◇ ◇ ◇
そう思って馬車に乗り込み、公爵家に連れてきてもらったはずなのに。
今これはどういう状況なのかしら。
頭で理解が追い付かないというのは、まさにこういうことを言うのね。
「あ、あの……カイル様」
私の問いかけにも、かなり不機嫌な様子なカイルは何も答えようとはしない。
いや、問題はそこではない。
今の私の状況。
そう、私は今よりにもよってカイルのお膝の上に座らされているのだ。
「カイル様、ティア様が困っていますよー」
「うるさい。俺は報告を続けろと言ったはずだが」
私たちがいるのは、公爵家の中にあるカイルの執務室だ。
馬車に乗って公爵家に連れてこられたあと、私はすぐさまたくさんの侍女たちに囲まれ客間へと連行された。
そしてまるで大切な人を扱うかのように、優しく身支度をされた。
前まで家でされてきたように。
ううん。もしかしたらそれ以上かもしれないわね。
さすが公爵家の侍女たちはすごいわ。
あっという間に湯あみをさせられてから香油やいろんなクリームを塗られて、あれほど荒れていた肌や髪が、なんとか見れるまでに回復していた。
そしてそんな風に着替えさせられるうちに、カイルが帰って来たのだ。
私を見るなり、驚いたような……それでいて悲しそうな顔をした後、ずっと背中から抱きしめられている。
ウエスト卿がいろいろと説明をと言ってもカイルは私を離すことはなく、結局椅子に座るとなった時もこうしてまるでぬいぐるみ扱いなのよね。
「あ、あのカイル様。そんなことしなくても私は逃げたりしないですよ」
「あああ、ティア様そういうコトじゃないと思いますよー」
「そうなのですか? では、どういうことなんです、ウエスト卿」
「えっとですねー。辞めてください、ティア様の後ろから僕を睨むのは」
「随分と仲が良さそうだな」
カイルのその声はいつにも増して低い。
ウエスト卿と仲が良いとか言われたって、自分は私とは会話もしてくれないのに。
何をそんなにカイルは怒っているのかしら。
やっぱり手紙の返事を出さなかったから?
ああでも、今ウエスト卿がそのことは説明してくれたわよね。
一応、ふんわりとだけど。
使用人たちをみんな辞めさせてしまったために、家の勝手が分かる私が使用人のように働いていたこと。
叔父たちが自分たちが現侯爵となったから、私を元男爵令嬢として扱ってきたこと。
あんまり詳しく言われなくて正直良かったと思う。
だって本当のことをカイルに知られるのは、やっぱり惨めだもの。
「カイル様は、私に怒っているのですか?」
やっとの思いで身じろぎし、私はカイルの顔を見上げた。
相変わらず眉間には深いしわが刻まれている。
きっと何か気に障ることをしてしまったか、今の現状を嘆いているのね。
でもこればっかりはどうしようもなかったことばかりなのに。
素直に謝ったら、許してくれるかしら。
いつものあのふんわりとした笑顔が見たい。
そう思ってしまうのは、少しワガママなのだけれど。
「ほらほら、そうやって眉間にシワを寄せて怖い顔なさってると、ティア様に嫌われてしまいますよ~」
「あとで覚えておけよ、グラウス」
「絶対に嫌です。僕は覚えておきたくないので、邪魔者は退散させていただきます」
「えええ? 行ってしまわれるのですか、ウエスト卿」
「ティア様、僕の命が少しでも惜しいとお思いになるのでしたら、言い方! その言い方は本当にだめです。カイル様に誤解されちゃいますから。僕、まだ死にたくないのでお願いしますよ~」
「誤解? もしかして私、また何か間違えましたか?」
「もう間違えまくりです。本当に勘弁してくださいょ」
やや涙目になりながら、ウエスト卿は深く頭を下げそそくさと退出していった。
命ってどういう意味なのかしら。
せっかく助けて下さったから、きちんとお礼が言いたかったのに。
それにこんなに不機嫌なカイルと二人きりにされても、私にはどうすればいいのか分からないし。
せめて出ていく前にヒントとか、アドバイスとか欲しかったなぁ……。
「……ティアは、ああいう男が好みなのか?」
やっと重い口を開いたかと思えば、これはどういう意味なのだろう。
ああいう男とは、今出て行ったウエスト卿を指すはず。
んんん?
好みっていうのは、好きか嫌いかってことよね。
「えっとぉ……ウエスト卿ですか? んー、嫌いではないですよ。とてもいい方だとは思います」
「もしかして好きなのか!?」
「え? その好きっていうのは人としてっていうことですか?」
「人として、なのか?」
「えっと。親切に助けて下さいましたし、とてもいい方だとは思いますよ。カイル様はとても良い護衛騎士様を雇っていらっしゃるのですね」
「なんだ……そっちか」
「んんん? そっちじゃなければ、どっちなのです?」
「男として……恋愛対象として、ティアはああいうのが好きなのかと……」
今日初めて話したばかりだというのに、何をどうしたら私がウエスト卿を恋愛の意味での好きになるだなんて思うのかしら。
父と母がそうだったように。
今のままでは、私には何もないもの。
ただの同情で一緒になっていうのは絶対にダメ。
公爵家に着いたら、ちゃんとそのことをカイル様に伝えないと。
◇ ◇ ◇
そう思って馬車に乗り込み、公爵家に連れてきてもらったはずなのに。
今これはどういう状況なのかしら。
頭で理解が追い付かないというのは、まさにこういうことを言うのね。
「あ、あの……カイル様」
私の問いかけにも、かなり不機嫌な様子なカイルは何も答えようとはしない。
いや、問題はそこではない。
今の私の状況。
そう、私は今よりにもよってカイルのお膝の上に座らされているのだ。
「カイル様、ティア様が困っていますよー」
「うるさい。俺は報告を続けろと言ったはずだが」
私たちがいるのは、公爵家の中にあるカイルの執務室だ。
馬車に乗って公爵家に連れてこられたあと、私はすぐさまたくさんの侍女たちに囲まれ客間へと連行された。
そしてまるで大切な人を扱うかのように、優しく身支度をされた。
前まで家でされてきたように。
ううん。もしかしたらそれ以上かもしれないわね。
さすが公爵家の侍女たちはすごいわ。
あっという間に湯あみをさせられてから香油やいろんなクリームを塗られて、あれほど荒れていた肌や髪が、なんとか見れるまでに回復していた。
そしてそんな風に着替えさせられるうちに、カイルが帰って来たのだ。
私を見るなり、驚いたような……それでいて悲しそうな顔をした後、ずっと背中から抱きしめられている。
ウエスト卿がいろいろと説明をと言ってもカイルは私を離すことはなく、結局椅子に座るとなった時もこうしてまるでぬいぐるみ扱いなのよね。
「あ、あのカイル様。そんなことしなくても私は逃げたりしないですよ」
「あああ、ティア様そういうコトじゃないと思いますよー」
「そうなのですか? では、どういうことなんです、ウエスト卿」
「えっとですねー。辞めてください、ティア様の後ろから僕を睨むのは」
「随分と仲が良さそうだな」
カイルのその声はいつにも増して低い。
ウエスト卿と仲が良いとか言われたって、自分は私とは会話もしてくれないのに。
何をそんなにカイルは怒っているのかしら。
やっぱり手紙の返事を出さなかったから?
ああでも、今ウエスト卿がそのことは説明してくれたわよね。
一応、ふんわりとだけど。
使用人たちをみんな辞めさせてしまったために、家の勝手が分かる私が使用人のように働いていたこと。
叔父たちが自分たちが現侯爵となったから、私を元男爵令嬢として扱ってきたこと。
あんまり詳しく言われなくて正直良かったと思う。
だって本当のことをカイルに知られるのは、やっぱり惨めだもの。
「カイル様は、私に怒っているのですか?」
やっとの思いで身じろぎし、私はカイルの顔を見上げた。
相変わらず眉間には深いしわが刻まれている。
きっと何か気に障ることをしてしまったか、今の現状を嘆いているのね。
でもこればっかりはどうしようもなかったことばかりなのに。
素直に謝ったら、許してくれるかしら。
いつものあのふんわりとした笑顔が見たい。
そう思ってしまうのは、少しワガママなのだけれど。
「ほらほら、そうやって眉間にシワを寄せて怖い顔なさってると、ティア様に嫌われてしまいますよ~」
「あとで覚えておけよ、グラウス」
「絶対に嫌です。僕は覚えておきたくないので、邪魔者は退散させていただきます」
「えええ? 行ってしまわれるのですか、ウエスト卿」
「ティア様、僕の命が少しでも惜しいとお思いになるのでしたら、言い方! その言い方は本当にだめです。カイル様に誤解されちゃいますから。僕、まだ死にたくないのでお願いしますよ~」
「誤解? もしかして私、また何か間違えましたか?」
「もう間違えまくりです。本当に勘弁してくださいょ」
やや涙目になりながら、ウエスト卿は深く頭を下げそそくさと退出していった。
命ってどういう意味なのかしら。
せっかく助けて下さったから、きちんとお礼が言いたかったのに。
それにこんなに不機嫌なカイルと二人きりにされても、私にはどうすればいいのか分からないし。
せめて出ていく前にヒントとか、アドバイスとか欲しかったなぁ……。
「……ティアは、ああいう男が好みなのか?」
やっと重い口を開いたかと思えば、これはどういう意味なのだろう。
ああいう男とは、今出て行ったウエスト卿を指すはず。
んんん?
好みっていうのは、好きか嫌いかってことよね。
「えっとぉ……ウエスト卿ですか? んー、嫌いではないですよ。とてもいい方だとは思います」
「もしかして好きなのか!?」
「え? その好きっていうのは人としてっていうことですか?」
「人として、なのか?」
「えっと。親切に助けて下さいましたし、とてもいい方だとは思いますよ。カイル様はとても良い護衛騎士様を雇っていらっしゃるのですね」
「なんだ……そっちか」
「んんん? そっちじゃなければ、どっちなのです?」
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今日初めて話したばかりだというのに、何をどうしたら私がウエスト卿を恋愛の意味での好きになるだなんて思うのかしら。
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