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「私はウエスト卿をそのような恋愛対象として見たことはないですよ」
「そうなのか? 今、助けられた男と恋に落ちるっていうのが流行っていると聞いたんだが」
「そうなのですか? 私は逆にその話がお聞きしたいですわ」
誰から聞いたのかしら。
それともそういう本でも流行っているのかな。
だとしたら、私も読んでみたいな。
「それにこうやって実際に私のことを思い、助け出すように言って下さったのはカイル様なのでしょう?」
「それはそうだが……」
「そうだが?」
「時間がかかってしまった。すまない、ティア。まさかこんなにも酷い状況になっているとは思わなかったんだ。全て俺のせいだ」
「どうしてカイル様のせいになるのです。あ、あの……それとそろそろ下してくださいませんか。顔を見てお話したいのです」
見上げるのも限界があるし、私としてはゆっくりカイルの顔を見ながら話したいのに。
私を抱きしめるカイルの力は強まるばかりで、全然離そうとしてくれない。
今までだって、こんな近くにカイルを感じたことなんてないのに。
心臓がもたないわ。
ああでも、ある意味顔を見られないほうがいいのかしら。
今きっと私の顔、真っ赤ね。
それだけは自覚がある。
声はすぐ頭の後ろから聞こえるし、なにより匂いが。
カイルの匂いに包まれるようで、何とも言えない感覚だ。
ううう。
これはこれで本当に、なんて言ったらいいのかしら。
恥ずかしいのか、嬉しいのか。
どこか落ち着きなく、そわそわしていて心が浮足立っている。
こんな感覚は初めてね。ああ、もしぬいぐるみになったのなら、こんな感じかしら。
でも私、ぬいぐるみほど可愛くもないのに。
それにカイルがぬいぐるみを抱っこする姿が微妙に想像できないのよね。
ん-。この状況を、ある意味遠くから見てみたいわ。
「離したくない」
「ですから、私は逃げませんよ?」
「そうではない……ティアが消えてしまいそうだから」
「消えるって。私はお化けでもないですし」
「離してしまうのが、不安なんだ。亡くなった君の両親のように……どこかに行ってしまうんじゃないかと。後を追ってしまうんじゃないか……そんな不安でいっぱいなんだ。……すまない」
「カイル様……」
後を追う。
そうね。そう考えたことは、きっと一度や二度じゃない。
寝て起きて全てが現実だったと分かるたびに、私も父たちのところに行きたいって思ってしまったから。
特に叔父たちが来てからは、そう思わない時などなかった。
だって父たちがいた時は、本当に幸せだったから。
あの頃にもう戻れないのならば、私も連れて行って欲しかった。
そう思わないでいられるほど、強くはなかった。
でもきっとそんな私の思いを感じて、カイルは不安になってしまったのね。
それほどまでに、私はこの方に大切に思われていた。
不謹慎だけどその事実が、私の胸にほのかな温かさを生む。
ああ、生きててよかった。後なんて追わなくて良かった。
本当に……。
「ティア、泣いているのか? すまない、俺が不甲斐ないばかりに」
「違うんです。どうしてそうなるんですか。むしろ逆です。まだこんな風に私のことを心配して思ってくれる人がいたことがうれしかったんです」
「当たり前だ。俺たちは婚約者だろう!」
「ええ、そうですね。でも……」
この婚約にまだ意味はあるのかしら。
聞きたい……。でも、聞きたくない。
だって聞いてしまったら。
これがもし本当にただの同情だと分かってしまったら、私はきっと何かがダメになってしまう。
そんな気がするの。
泣き出しそうになるのを、ただ必死にこらえた。
本当にダメね。私泣き虫すぎるわ。
こんなとこで泣いてしまったら、絶対に迷惑がかかってしまうもの。
「でも?」
「いいえ。何でもないです。そうですね。婚約者ですものね。そう言ってもらえて、うれしいです」
「いや。本当に今回のことは自分を不甲斐なく思うよ。もっと早く気付けていたら、君をこんな風に苦しめることも、寂しい思いをさせることもなかったはずなんだ」
「でもそれでもこうやって、私を救い出して下さったじゃないですか。全てはカイル様のおかげです」
「おかげと言われるほど、俺は何もしてないさ。ただ本当に心配だったんだ」
「それがうれしいんです」
カイルのおかげであの地獄のような家の中から出ることが出来た。
今の私には、その事実だけで充分。
体にしっかりと回された腕に、私はそっと触れた。
カイルの腕は大きく、しっかりとしていた。
温かな腕に包まれるだけでどこか安心する。
私はすりすりと触りながら、こてんと頭をカイルの胸に預けた。
顔を見たいと言ったのは私なのに、もう少しこのままでいたいと思う自分もいる。
でもそんなこと言ったら、令嬢としてはしたないかな。
なんかダメね。
こんなことされると勘違いしてしまいそうになる。
愛されてるんじゃないかって。
「ティア、君が良ければこのままここで一緒に暮らして欲しい」
「ですがカイル様……」
「婚約者なのだし、両親にも許可を取る。だから一度考えてくれないか」
「そうなのか? 今、助けられた男と恋に落ちるっていうのが流行っていると聞いたんだが」
「そうなのですか? 私は逆にその話がお聞きしたいですわ」
誰から聞いたのかしら。
それともそういう本でも流行っているのかな。
だとしたら、私も読んでみたいな。
「それにこうやって実際に私のことを思い、助け出すように言って下さったのはカイル様なのでしょう?」
「それはそうだが……」
「そうだが?」
「時間がかかってしまった。すまない、ティア。まさかこんなにも酷い状況になっているとは思わなかったんだ。全て俺のせいだ」
「どうしてカイル様のせいになるのです。あ、あの……それとそろそろ下してくださいませんか。顔を見てお話したいのです」
見上げるのも限界があるし、私としてはゆっくりカイルの顔を見ながら話したいのに。
私を抱きしめるカイルの力は強まるばかりで、全然離そうとしてくれない。
今までだって、こんな近くにカイルを感じたことなんてないのに。
心臓がもたないわ。
ああでも、ある意味顔を見られないほうがいいのかしら。
今きっと私の顔、真っ赤ね。
それだけは自覚がある。
声はすぐ頭の後ろから聞こえるし、なにより匂いが。
カイルの匂いに包まれるようで、何とも言えない感覚だ。
ううう。
これはこれで本当に、なんて言ったらいいのかしら。
恥ずかしいのか、嬉しいのか。
どこか落ち着きなく、そわそわしていて心が浮足立っている。
こんな感覚は初めてね。ああ、もしぬいぐるみになったのなら、こんな感じかしら。
でも私、ぬいぐるみほど可愛くもないのに。
それにカイルがぬいぐるみを抱っこする姿が微妙に想像できないのよね。
ん-。この状況を、ある意味遠くから見てみたいわ。
「離したくない」
「ですから、私は逃げませんよ?」
「そうではない……ティアが消えてしまいそうだから」
「消えるって。私はお化けでもないですし」
「離してしまうのが、不安なんだ。亡くなった君の両親のように……どこかに行ってしまうんじゃないかと。後を追ってしまうんじゃないか……そんな不安でいっぱいなんだ。……すまない」
「カイル様……」
後を追う。
そうね。そう考えたことは、きっと一度や二度じゃない。
寝て起きて全てが現実だったと分かるたびに、私も父たちのところに行きたいって思ってしまったから。
特に叔父たちが来てからは、そう思わない時などなかった。
だって父たちがいた時は、本当に幸せだったから。
あの頃にもう戻れないのならば、私も連れて行って欲しかった。
そう思わないでいられるほど、強くはなかった。
でもきっとそんな私の思いを感じて、カイルは不安になってしまったのね。
それほどまでに、私はこの方に大切に思われていた。
不謹慎だけどその事実が、私の胸にほのかな温かさを生む。
ああ、生きててよかった。後なんて追わなくて良かった。
本当に……。
「ティア、泣いているのか? すまない、俺が不甲斐ないばかりに」
「違うんです。どうしてそうなるんですか。むしろ逆です。まだこんな風に私のことを心配して思ってくれる人がいたことがうれしかったんです」
「当たり前だ。俺たちは婚約者だろう!」
「ええ、そうですね。でも……」
この婚約にまだ意味はあるのかしら。
聞きたい……。でも、聞きたくない。
だって聞いてしまったら。
これがもし本当にただの同情だと分かってしまったら、私はきっと何かがダメになってしまう。
そんな気がするの。
泣き出しそうになるのを、ただ必死にこらえた。
本当にダメね。私泣き虫すぎるわ。
こんなとこで泣いてしまったら、絶対に迷惑がかかってしまうもの。
「でも?」
「いいえ。何でもないです。そうですね。婚約者ですものね。そう言ってもらえて、うれしいです」
「いや。本当に今回のことは自分を不甲斐なく思うよ。もっと早く気付けていたら、君をこんな風に苦しめることも、寂しい思いをさせることもなかったはずなんだ」
「でもそれでもこうやって、私を救い出して下さったじゃないですか。全てはカイル様のおかげです」
「おかげと言われるほど、俺は何もしてないさ。ただ本当に心配だったんだ」
「それがうれしいんです」
カイルのおかげであの地獄のような家の中から出ることが出来た。
今の私には、その事実だけで充分。
体にしっかりと回された腕に、私はそっと触れた。
カイルの腕は大きく、しっかりとしていた。
温かな腕に包まれるだけでどこか安心する。
私はすりすりと触りながら、こてんと頭をカイルの胸に預けた。
顔を見たいと言ったのは私なのに、もう少しこのままでいたいと思う自分もいる。
でもそんなこと言ったら、令嬢としてはしたないかな。
なんかダメね。
こんなことされると勘違いしてしまいそうになる。
愛されてるんじゃないかって。
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