【完結】妹の代わりなんて、もううんざりです

美杉日和。(旧美杉。)

文字の大きさ
20 / 21

019 あの日と同じ質問

しおりを挟む
 始まった王宮での裁判は、陛下が私たちを見下ろせる高い席に座り、ジッとその様子を見ていた。

 ある意味、泥沼ともいえるそれは、公平を期すために多くの裁判員たちも参加していた。

 訴えているのは、私がマリンかどうか。
 父と母は私が錯乱しているためのことだと言い張り、そしてその傍らにはリオンも証言者としていた。

 私は一人、味方のいない状態だ。

「皆さん、我が娘はこの度の暗殺事件に巻き込まれた被害者であり、目の前で双子の姉を殺されたことによる混乱からおかしくなってしまったのです」

 父は身振り手振りを交えながら、裁判員たちに訴えかける。

「とても優しい娘です。姉が目の前で死にゆく様を見たからこそ、その心が壊れてしまい、姉の死を否定するために自分は姉であるアイラだと主張しているのです」

 母は父に寄りかかりながら涙を流せば、裁判員たちも悲痛な顔を浮かべている。
 同情を買うつもりなのだろう。

 姉を亡くし、そのショックから壊れてしまった可哀そうな妹。
 それを心から心配しする両親。
 そう言いたいのだ。

「ぼくは彼女の姉の婚約者でした。だからこそ分かります。彼女はアイラではなく、マリンなのだと」

 リオンの声に、裁判員たちが頷く。
 私の部屋で見た時は、父たちとリオンは敵対していたというのに。
 どうしてこうなったのかしら。

「おかしくなってしまったマリンは、さすがに王妃様となるのは難しいでしょう。陛下がおっしゃられたように、自宅でしばらく療養させていただきたいと思います」
「ええ。陛下のお心遣いには、心より感謝しております」

 父と母は深々と頭を下げた。
 お心遣いとは、きっとその言葉の意味ではない気がする。

 強欲な二人だもの。きっと、陛下からマリンに対するこの事態への慰謝料か見舞金でも提示されたんだわ。

 私が仮に嫁いで、そのあと問題を起こして自分たちの身が危うくなるよりも、お金をもらってさらにリオンにでも売り渡そうと考えたのね。

 そう考えたら、リオンと手を組んだ意味が分かるもの。

 どこまで私を利用するつもりなのかしら。

「では令嬢、そなたの意見は?」

 やっと私の番が回ってきた。

「私はマリンではありません。混乱もしていなければ、いたって正常です。両親は私を悪者にすることで、自分たちの罪を逃れるつもりなのです。元々、これはマリンが始めたことですが、父たちはあの子が王妃にさえなれればなんでもよかったのです」

 私なんてどうでもいい。
 そう顔に書いてあるものね。

「私すら罪に問われる覚悟で進言しているのです。むしろ、嘘をついているのは両親たちです」
「そんなことはない!」
「いいえ。アイラが死んだことにすれば、自分たちは安泰だと考えているのです」
「娘はただ混乱しているだけです。娘の言うことなど信用してはいけません」
「マリン、いい加減になさい。あなたが困ることなのよ」

 どれだけ答えを並べても、父たちは私がおかしくなったと言い返す。
 三対一。普通に考えれば勝ち目のない戦いだ。
 もちろん彼らもそれが分かった上で、私を説得にかかっている。

 だけど――

「あの子の代わりになって生きるくらいなら、死んだ方がまだマシよ!」

 私はただ叫んだ。
 その言葉に会場は静まり返る。

 断罪された方がマシだという人間など、この世にどれほどいるだろう。
 きっと死ぬよりマシだと言う人間の方が多い気がする。

 でも嫌なのだ。どうしても嫌だ。
 あの子のまま生きていくくらいなら、私は私のまま死にたい。
 もう身代わりなんて、嫌なのよ。

 すると今までただ沈黙を保っていた陛下がひと際大きな声で笑い出した。
 皆の注目が陛下に集まる。

 陛下は真っすぐな瞳で、私を見ていた。

「気に入った。どうせ死ぬのならば、その命俺のために使う気はないか?」

 陛下の言葉の意味は分からない。
 だけど私の答えは一つだった。

「私が私であるとお認め下さるのなら、この命いくらでも差し上げましょう」

 その言葉に、陛下はまた笑う。

「なぁ令嬢、そなたは君は姉妹や兄弟をどう思う?」

 それはいつかと同じ質問だった。
 その言葉にふと気づき周りを見渡せば、裁判員たちはあの時の指導員たちだと気づく。

「嫌いです」

 この言葉を聞いた瞬間、裁判員たちはその顔を見合わせていた。
 そして陛下からの助け舟のおかげで、私は私であるという証明を果たすことが出来たのだ。

 そう、陛下のために命を捨てる約束と引き換えに。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

犠牲になるのは、妹である私

木山楽斗
恋愛
男爵家の令嬢であるソフィーナは、父親から冷遇されていた。彼女は溺愛されている双子の姉の陰とみなされており、個人として認められていなかったのだ。 ソフィーナはある時、姉に代わって悪名高きボルガン公爵の元に嫁ぐことになった。 好色家として有名な彼は、離婚を繰り返しており隠し子もいる。そんな彼の元に嫁げば幸せなどないとわかっていつつも、彼女は家のために犠牲になると決めたのだった。 婚約者となってボルガン公爵家の屋敷に赴いたソフィーナだったが、彼女はそこでとある騒ぎに巻き込まれることになった。 ボルガン公爵の子供達は、彼の横暴な振る舞いに耐えかねて、公爵家の改革に取り掛かっていたのである。 結果として、ボルガン公爵はその力を失った。ソフィーナは彼に弄ばれることなく、彼の子供達と良好な関係を築くことに成功したのである。 さらにソフィーナの実家でも、同じように改革が起こっていた。彼女を冷遇する父親が、その力を失っていたのである。

一年後に離婚すると言われてから三年が経ちましたが、まだその気配はありません。

木山楽斗
恋愛
「君とは一年後に離婚するつもりだ」 結婚して早々、私は夫であるマグナスからそんなことを告げられた。 彼曰く、これは親に言われて仕方なくした結婚であり、義理を果たした後は自由な独り身に戻りたいらしい。 身勝手な要求ではあったが、その気持ちが理解できない訳ではなかった。私もまた、親に言われて結婚したからだ。 こうして私は、一年間の期限付きで夫婦生活を送ることになった。 マグナスは紳士的な人物であり、最初に言ってきた要求以外は良き夫であった。故に私は、それなりに楽しい生活を送ることができた。 「もう少し様子を見たいと思っている。流石に一年では両親も納得しそうにない」 一年が経った後、マグナスはそんなことを言ってきた。 それに関しては、私も納得した。彼の言う通り、流石に離婚までが早すぎると思ったからだ。 それから一年後も、マグナスは離婚の話をしなかった。まだ様子を見たいということなのだろう。 夫がいつ離婚を切り出してくるのか、そんなことを思いながら私は日々を過ごしている。今の所、その気配はまったくないのだが。

「優秀な妹の相手は疲れるので平凡な姉で妥協したい」なんて言われて、受け入れると思っているんですか?

木山楽斗
恋愛
子爵令嬢であるラルーナは、平凡な令嬢であった。 ただ彼女には一つだけ普通ではない点がある。それは優秀な妹の存在だ。 魔法学園においても入学以来首位を独占している妹は、多くの貴族令息から注目されており、学園内で何度も求婚されていた。 そんな妹が求婚を受け入れたという噂を聞いて、ラルーナは驚いた。 ずっと求婚され続けても断っていた妹を射止めたのか誰なのか、彼女は気になった。そこでラルーナは、自分にも無関係ではないため、その婚約者の元を訪ねてみることにした。 妹の婚約者だと噂される人物と顔を合わせたラルーナは、ひどく不快な気持ちになった。 侯爵家の令息であるその男は、嫌味な人であったからだ。そんな人を婚約者に選ぶなんて信じられない。ラルーナはそう思っていた。 しかし彼女は、すぐに知ることとなった。自分の周りで、不可解なことが起きているということを。

溺愛されている妹の高慢な態度を注意したら、冷血と評判な辺境伯の元に嫁がされることになりました。

木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるラナフィリアは、妹であるレフーナに辟易としていた。 両親に溺愛されて育ってきた彼女は、他者を見下すわがままな娘に育っており、その相手にラナフィリアは疲れ果てていたのだ。 ある時、レフーナは晩餐会にてとある令嬢のことを罵倒した。 そんな妹の高慢なる態度に限界を感じたラナフィリアは、レフーナを諫めることにした。 だが、レフーナはそれに激昂した。 彼女にとって、自分に従うだけだった姉からの反抗は許せないことだったのだ。 その結果、ラナフィリアは冷血と評判な辺境伯の元に嫁がされることになった。 姉が不幸になるように、レフーナが両親に提言したからである。 しかし、ラナフィリアが嫁ぐことになった辺境伯ガルラントは、噂とは異なる人物だった。 戦士であるため、敵に対して冷血ではあるが、それ以外の人物に対して紳士的で誠実な人物だったのだ。 こうして、レフーナの目論見は外れ、ラナフェリアは辺境で穏やかな生活を送るのだった。

殿下が私を愛していないことは知っていますから。

木山楽斗
恋愛
エリーフェ→エリーファ・アーカンス公爵令嬢は、王国の第一王子であるナーゼル・フォルヴァインに妻として迎え入れられた。 しかし、結婚してからというもの彼女は王城の一室に軟禁されていた。 夫であるナーゼル殿下は、私のことを愛していない。 危険な存在である竜を宿した私のことを彼は軟禁しており、会いに来ることもなかった。 「……いつも会いに来られなくてすまないな」 そのためそんな彼が初めて部屋を訪ねてきた時の発言に耳を疑うことになった。 彼はまるで私に会いに来るつもりがあったようなことを言ってきたからだ。 「いいえ、殿下が私を愛していないことは知っていますから」 そんなナーゼル様に対して私は思わず嫌味のような言葉を返してしまった。 すると彼は、何故か悲しそうな表情をしてくる。 その反応によって、私は益々訳がわからなくなっていた。彼は確かに私を軟禁して会いに来なかった。それなのにどうしてそんな反応をするのだろうか。

魔力量だけで選んじゃっていいんですか?

satomi
恋愛
メアリーとルアリーはビックト侯爵家に生まれた姉妹。ビックト侯爵家は代々魔力が多い家系。 特にメアリーは5歳の計測日に計測器の針が振りきれて、一周したことでかなり有名。そのことがきっかけでメアリーは王太子妃として生活することになりました。 主人公のルアリーはというと、姉のメアリーの魔力量が物凄かったんだからという期待を背負い5歳の計測日に測定。結果は針がちょびっと動いただけ。 その日からというもの、ルアリーの生活は使用人にも蔑まれるような惨めな生活を強いられるようになったのです。 しかし真実は……

「君からは打算的な愛しか感じない」と婚約破棄したのですから、どうぞ無償の愛を貫きください。

木山楽斗
恋愛
「君からは打算的な愛しか感じない」 子爵令嬢であるフィリアは、ある時婚約者マルギスからそう言われて婚約破棄されることになった。 彼女は物事を損得によって判断する傾向にある。マルギスはそれを嫌に思っており、かつての恋人シェリーカと結ばれるために、フィリアとの婚約を破棄したのだ。 その選択を、フィリアは愚かなものだと思っていた。 一時の感情で家同士が決めた婚約を破棄することは、不利益でしかなかったからだ。 それを不可解に思いながら、フィリアは父親とともにマルギスの家に抗議をした。彼女はこの状況においても、利益が得られるように行動したのだ。 それからしばらく経った後、フィリアはシェリーカが危機に陥っていることを知る。 彼女の家は、あくどい方法で金を稼いでおり、それが露呈したことで没落に追い込まれていたのだ。 そのことを受けて元婚約者マルギスが、フィリアを訪ねてきた。彼は家が風評被害を恐れたことによって家を追い出されていたのだ。 マルギスは、フィリアと再び婚約したいと申し出てきた。彼はそれによって、家になんとか戻ろうとしていたのである。 しかし、それをフィリアが受け入れることはなかった。彼女はマルギスにシェリーカへの無償の愛を貫くように説き、追い返すのだった。

私から婚約者を奪うことに成功した姉が、婚約を解消されたと思っていたことに驚かされましたが、厄介なのは姉だけではなかったようです

珠宮さくら
恋愛
ジャクリーン・オールストンは、婚約していた子息がジャクリーンの姉に一目惚れしたからという理由で婚約を解消することになったのだが、そうなった原因の贈られて来たドレスを姉が欲しかったからだと思っていたが、勘違いと誤解とすれ違いがあったからのようです。 でも、それを全く認めない姉の口癖にもうんざりしていたが、それ以上にうんざりしている人がジャクリーンにはいた。

処理中です...