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019 あの日と同じ質問
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始まった王宮での裁判は、陛下が私たちを見下ろせる高い席に座り、ジッとその様子を見ていた。
ある意味、泥沼ともいえるそれは、公平を期すために多くの裁判員たちも参加していた。
訴えているのは、私がマリンかどうか。
父と母は私が錯乱しているためのことだと言い張り、そしてその傍らにはリオンも証言者としていた。
私は一人、味方のいない状態だ。
「皆さん、我が娘はこの度の暗殺事件に巻き込まれた被害者であり、目の前で双子の姉を殺されたことによる混乱からおかしくなってしまったのです」
父は身振り手振りを交えながら、裁判員たちに訴えかける。
「とても優しい娘です。姉が目の前で死にゆく様を見たからこそ、その心が壊れてしまい、姉の死を否定するために自分は姉であるアイラだと主張しているのです」
母は父に寄りかかりながら涙を流せば、裁判員たちも悲痛な顔を浮かべている。
同情を買うつもりなのだろう。
姉を亡くし、そのショックから壊れてしまった可哀そうな妹。
それを心から心配しする両親。
そう言いたいのだ。
「ぼくは彼女の姉の婚約者でした。だからこそ分かります。彼女はアイラではなく、マリンなのだと」
リオンの声に、裁判員たちが頷く。
私の部屋で見た時は、父たちとリオンは敵対していたというのに。
どうしてこうなったのかしら。
「おかしくなってしまったマリンは、さすがに王妃様となるのは難しいでしょう。陛下がおっしゃられたように、自宅でしばらく療養させていただきたいと思います」
「ええ。陛下のお心遣いには、心より感謝しております」
父と母は深々と頭を下げた。
お心遣いとは、きっとその言葉の意味ではない気がする。
強欲な二人だもの。きっと、陛下からマリンに対するこの事態への慰謝料か見舞金でも提示されたんだわ。
私が仮に嫁いで、そのあと問題を起こして自分たちの身が危うくなるよりも、お金をもらってさらにリオンにでも売り渡そうと考えたのね。
そう考えたら、リオンと手を組んだ意味が分かるもの。
どこまで私を利用するつもりなのかしら。
「では令嬢、そなたの意見は?」
やっと私の番が回ってきた。
「私はマリンではありません。混乱もしていなければ、いたって正常です。両親は私を悪者にすることで、自分たちの罪を逃れるつもりなのです。元々、これはマリンが始めたことですが、父たちはあの子が王妃にさえなれればなんでもよかったのです」
私なんてどうでもいい。
そう顔に書いてあるものね。
「私すら罪に問われる覚悟で進言しているのです。むしろ、嘘をついているのは両親たちです」
「そんなことはない!」
「いいえ。アイラが死んだことにすれば、自分たちは安泰だと考えているのです」
「娘はただ混乱しているだけです。娘の言うことなど信用してはいけません」
「マリン、いい加減になさい。あなたが困ることなのよ」
どれだけ答えを並べても、父たちは私がおかしくなったと言い返す。
三対一。普通に考えれば勝ち目のない戦いだ。
もちろん彼らもそれが分かった上で、私を説得にかかっている。
だけど――
「あの子の代わりになって生きるくらいなら、死んだ方がまだマシよ!」
私はただ叫んだ。
その言葉に会場は静まり返る。
断罪された方がマシだという人間など、この世にどれほどいるだろう。
きっと死ぬよりマシだと言う人間の方が多い気がする。
でも嫌なのだ。どうしても嫌だ。
あの子のまま生きていくくらいなら、私は私のまま死にたい。
もう身代わりなんて、嫌なのよ。
すると今までただ沈黙を保っていた陛下がひと際大きな声で笑い出した。
皆の注目が陛下に集まる。
陛下は真っすぐな瞳で、私を見ていた。
「気に入った。どうせ死ぬのならば、その命俺のために使う気はないか?」
陛下の言葉の意味は分からない。
だけど私の答えは一つだった。
「私が私であるとお認め下さるのなら、この命いくらでも差し上げましょう」
その言葉に、陛下はまた笑う。
「なぁ令嬢、そなたは君は姉妹や兄弟をどう思う?」
それはいつかと同じ質問だった。
その言葉にふと気づき周りを見渡せば、裁判員たちはあの時の指導員たちだと気づく。
「嫌いです」
この言葉を聞いた瞬間、裁判員たちはその顔を見合わせていた。
そして陛下からの助け舟のおかげで、私は私であるという証明を果たすことが出来たのだ。
そう、陛下のために命を捨てる約束と引き換えに。
ある意味、泥沼ともいえるそれは、公平を期すために多くの裁判員たちも参加していた。
訴えているのは、私がマリンかどうか。
父と母は私が錯乱しているためのことだと言い張り、そしてその傍らにはリオンも証言者としていた。
私は一人、味方のいない状態だ。
「皆さん、我が娘はこの度の暗殺事件に巻き込まれた被害者であり、目の前で双子の姉を殺されたことによる混乱からおかしくなってしまったのです」
父は身振り手振りを交えながら、裁判員たちに訴えかける。
「とても優しい娘です。姉が目の前で死にゆく様を見たからこそ、その心が壊れてしまい、姉の死を否定するために自分は姉であるアイラだと主張しているのです」
母は父に寄りかかりながら涙を流せば、裁判員たちも悲痛な顔を浮かべている。
同情を買うつもりなのだろう。
姉を亡くし、そのショックから壊れてしまった可哀そうな妹。
それを心から心配しする両親。
そう言いたいのだ。
「ぼくは彼女の姉の婚約者でした。だからこそ分かります。彼女はアイラではなく、マリンなのだと」
リオンの声に、裁判員たちが頷く。
私の部屋で見た時は、父たちとリオンは敵対していたというのに。
どうしてこうなったのかしら。
「おかしくなってしまったマリンは、さすがに王妃様となるのは難しいでしょう。陛下がおっしゃられたように、自宅でしばらく療養させていただきたいと思います」
「ええ。陛下のお心遣いには、心より感謝しております」
父と母は深々と頭を下げた。
お心遣いとは、きっとその言葉の意味ではない気がする。
強欲な二人だもの。きっと、陛下からマリンに対するこの事態への慰謝料か見舞金でも提示されたんだわ。
私が仮に嫁いで、そのあと問題を起こして自分たちの身が危うくなるよりも、お金をもらってさらにリオンにでも売り渡そうと考えたのね。
そう考えたら、リオンと手を組んだ意味が分かるもの。
どこまで私を利用するつもりなのかしら。
「では令嬢、そなたの意見は?」
やっと私の番が回ってきた。
「私はマリンではありません。混乱もしていなければ、いたって正常です。両親は私を悪者にすることで、自分たちの罪を逃れるつもりなのです。元々、これはマリンが始めたことですが、父たちはあの子が王妃にさえなれればなんでもよかったのです」
私なんてどうでもいい。
そう顔に書いてあるものね。
「私すら罪に問われる覚悟で進言しているのです。むしろ、嘘をついているのは両親たちです」
「そんなことはない!」
「いいえ。アイラが死んだことにすれば、自分たちは安泰だと考えているのです」
「娘はただ混乱しているだけです。娘の言うことなど信用してはいけません」
「マリン、いい加減になさい。あなたが困ることなのよ」
どれだけ答えを並べても、父たちは私がおかしくなったと言い返す。
三対一。普通に考えれば勝ち目のない戦いだ。
もちろん彼らもそれが分かった上で、私を説得にかかっている。
だけど――
「あの子の代わりになって生きるくらいなら、死んだ方がまだマシよ!」
私はただ叫んだ。
その言葉に会場は静まり返る。
断罪された方がマシだという人間など、この世にどれほどいるだろう。
きっと死ぬよりマシだと言う人間の方が多い気がする。
でも嫌なのだ。どうしても嫌だ。
あの子のまま生きていくくらいなら、私は私のまま死にたい。
もう身代わりなんて、嫌なのよ。
すると今までただ沈黙を保っていた陛下がひと際大きな声で笑い出した。
皆の注目が陛下に集まる。
陛下は真っすぐな瞳で、私を見ていた。
「気に入った。どうせ死ぬのならば、その命俺のために使う気はないか?」
陛下の言葉の意味は分からない。
だけど私の答えは一つだった。
「私が私であるとお認め下さるのなら、この命いくらでも差し上げましょう」
その言葉に、陛下はまた笑う。
「なぁ令嬢、そなたは君は姉妹や兄弟をどう思う?」
それはいつかと同じ質問だった。
その言葉にふと気づき周りを見渡せば、裁判員たちはあの時の指導員たちだと気づく。
「嫌いです」
この言葉を聞いた瞬間、裁判員たちはその顔を見合わせていた。
そして陛下からの助け舟のおかげで、私は私であるという証明を果たすことが出来たのだ。
そう、陛下のために命を捨てる約束と引き換えに。
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