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しおりを挟む父と二人だけの晩餐というのは、久しぶりだった。姉たちが嫁いでから他国との連携や、国内貴族との晩餐で父が忙しくしていたからだ。こうやって落ち着いて二人で取る食事も悪くはないが、少し寂しく思える。
「急に二人きりでお食事がしたいなんて、どうなさったんですの?」
「いやいや、最近忙しくしていたからね。かわいいルチアの顔をゆっくり見たかっただけだよ」
父は今年45歳だっただろうか。母が亡くなり新しい王妃をという話は何度も上がったが、父は首を縦には振らなかった。もし後妻を入れるのならば子どもたちが全員結婚し、自分が王位を息子に譲ってからだと公言していた。
「で、本題は何なんです? 良い話ですか? それとも悪い話なのですか?」
こてんと小首をかしげると、父は困ったように鼻をかいた。これでも娘歴は長いのだ。父が何かを言いたくて読んだことは分かっている。
「どちらもなのだが……。いや、久しぶりの二人の食事だ。今日はいい話だけにしよう。アーサーの結婚の日取りが決まったんだ。秋に行うことになった」
「まぁ、お兄様の! それはとてもおめでたいことではないですか」
「そうだな」
「ええ」
父は満面の笑みを浮かべる。相手は婚約者である公爵令嬢で、兄がとことん惚れ込んでいるお方。何度かお会いしたことがあるが、その身分に奢ることなく公平でハニーブロンドがとても綺麗な人だった。
「お兄様は幸せ者ですね」
「ホントにな。二人が結婚し、落ち着いた頃に王位継承を行う。そうすれば晴れて隠居生活だ」
「うふふ。やっとお父様の夢が叶いますのね」
「ああ、そうだな」
父はそう言いながら、遠くを見つめる。この人はもともと王位にこだわりはなく、ただ国が平和になればという一心で王としてこの国を統治してきた。そしていつか平和な世が来たら、趣味の菜園と釣りをして生きていきたいと私たちによく話してくれていた。
母の死を自分のせいだと責め、今までずっと走り続けてきたのだ。その姿を私たちはよく知っている。兄が王位を継げば、父の負担はなくなるだろう。そうなれば私も嬉しい。
ただ一つの問題を除いては、喜ぶべきことなのだろう。
「お兄様が結婚をなさるのなら、私もどこかに輿入れをしないといけませんね」
そう遅くとも、父がこの城を去る時までには決めないといけない。新しい王と王妃が誕生すというのに、小姑である私がこの城に残るわけにはいかないから。
先ほどの浮かれ気持ちに水を差された気分だ。いつかはと分かっていたのに、なぜ今日なのだろうと思ってしまう。でも例えこれが明日であったとしても、きっと私は同じことうを思うに違いない。
そんな自分に嫌気がさす。
「でもお父様、これが悪い話というわけではないのでしょう。悪い話は何なのです?」
「いや、今日はもうやめておこう。せっかくのおいしい料理が台無しだ」
確かにこれ以上は今は聞きたくない。私の心の内を読み取るように、父は話題を変えた。
「ルチアはどんな人が好きなんだい?」
「そうですね……。お父様のようにたくましくて、大きな手のお方が好きです」
「そうか」
いつもなら喜ぶはずの父は、ただ複雑そうな顔をしていた。しかし私はそれ以上、尋ねることは出来なかった。
そしてただ静かに黙々と、美味しかったであろう料理を口に運んだ。
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