異世界配信で、役立たずなうっかり役を演じさせられていたボクは、自称姉ポジのもふもふ白猫と共に自分探しの旅に出る。

美杉日和。(旧美杉。)

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001 三文芝居のうっかり役

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「あっれれ~?」

 棒読みになりたい気持ちを抑え、ボクは声を上げた。

 ううう。何度やっても、結構きつい。
 なんで毎回、こんなセリフを言わなきゃいけないんだろう。

 こういう役はなんていうのかな。
 うっかり役? 役立たず役?
 まぁ、良くて庇護欲を駆り立てる役みたいな?

 どれにしても、いい役でないことだけは分かっている。

 ここは初級者向けのダンジョンの中。
 ダンジョン内の岩肌に、明らかに罠とおぼしき出っ張りがある。
 岩や石ではないボコっとしたそれは、どこまでも不自然であり、普通の冒険者ならまずスルーするだろう。

 でもボクは違う。

「なんだろぅ、これぇ~」

 どこまでも無邪気な顔で、子どものような声を上げた。
 中身はこの見た目ほど若くないのだが、見ている人間なんてどうせ誰も分かりはしない。

 あくまで指示された通りに。
 そう、台本に沿ってこの役を演じる。
 それこそが、ボクに求められたことなのだから。

「お、おい。ルルド、馬鹿やめろ!! それはダメだ……」
「えー? アーク、何ぃ?」

 仲間の一人、アークに名前を呼ばれたボクは、振り返りながらその罠に手をかけた。
 そして振り向く反動で、その罠をしっかりと押す。

「ちょっとルルド、それ罠よ。逃げてー!」

 やや焦ったように魔法使いのミラは、急いで何かの呪文を唱え始めた。
 彼女のふわりとしたハニーブロンドの髪も、その豊満な胸も動きに合わせて揺れる。
 ミラは面倒見が良いお色気担当役だ。

 台本通りだから、対応も早いんだよね。
 でも明らかに、的確すぎて不自然だとか思わないのかな。

 内心ため息をつきながらも、ボクは淡々と役をこなしていく。

「まったくルルド、おまえ何度言ったら分かるんだよ!」

 ややキツめでしっかりとしているパーティーの剣士であるアーク。
 ガッチリとした体格と、悪態をつきながらも優しい面もあるというギャップ萌えを狙った役らしい。
 大剣を構え攻撃に備えながらも、なぜかカメラ目線はしっかりと確保している。

 目線合わせちゃダメだと思うんだけど、そこは誰もツッコミ入れないんだよね。
 
「えええ。なになになにぃ?」

 ボクは慌てふためきながら、よろけてその場に尻もちをついた。
 ああ、本当に嫌いだ、この役は。

 しっかり剣士に、お色気魔法使い。
 だけどボクは……。

「ルルド、今助ける! しっかり頭を下げているんだ」

 リーダーであるサイラスが大きな声をあげたかと思うと、スイッチによって開いた隠し扉の奥からモンスターが出てくる。

「サイラスぅ。たすけてよぉ」

 はぁ。情けない。
 こんなセリフしか、もらえないんだもの。

 このサイラスこそが、このパーティーのメインにして主役である。
 輝く金髪に青い瞳。甘いマスクに高身長。
 やや細マッチョでキザな台詞でも平気で言う。

 この前なんて『この世に悪のはびこったためしなどない!』なんて言っちゃってたっけ。
 与えられたセリフなんだろうけど。
 
 白い歯をキラーンとさせて言っちゃうとこが、なんとも言えない。
 やってる方からしたら、何を見させられてるんだろうなって思ってしまう。

 だけど彼のファンがどれほど多いことか。
 ほぼうちは、彼のキャラで持っているようなもの。

 そしてこの三文芝居のような戦闘は、全て水晶というカメラに録画されているのだ。

 扉の奥から出てきたモンスターは三匹。
 ここらへんで出てくる低級のモンスターの中ではやや強い方だ。
 もふもふのウサギを10倍くらい大きくさせたそのモンスターには、2本の短い角が生えている。

「このモンスターは電撃を放つことがある。気を付けるんだ、二人とも!」
「ええ」

 手際よく三人は敵の攻撃をかわしながら、攻撃を加えて行く。
 その姿は颯爽さっそうとしていて、視聴者が苦痛のないように出来上がっている。

 ある意味、彼らはココでは最強の存在であり、悪を倒すヒーローなのだ。
 そう考えると三文芝居っていうか、やや演技力の低い昭和って時代に流行った時代劇って感じかな。

 三人の戦闘の間、ボクは邪魔にならないように屈んだまま壁際へ移動した。
 立って移動する方が早いんだけど、そんなことしたら写っちゃうからね。

 そして台本通りに頭を抱え、ブルブルと怖がるように膝に顔を埋める。

 そう、ボクはカッコいい三人を引き立てるために、うっかりミスを犯し、意気地もなく、ただ見た目だけで採用された役。

 こんな役じゃなければ、ボクももう少し楽しめたかもしれないのに。
 撮影が嫌なんじゃなくて、こんな役しかもらえない自分が嫌なんだ。

 でもサイラスが、いつかは別の役を考えてくれるって。
 ボクはその望みだけで、頑張っている。

「ルルド、もう大丈夫だぞ? ケガはないか?」

 戦闘が終わったのか、サイラスがボクに声をかけてくる。
 見上げれば、爽やかに白い歯が見えるような笑顔をサイラスは浮かべていた。

 これだけ笑顔ってことは、上手く撮影が終わったようだね。
 機嫌がいいのは良いことなんだろうけど。

「ありがとう、サイラスぅ」
「いや、ケガがなければいいさ」
「またサイラスがそんな甘いことを言うからだぞ!」
「そう言うなよ、アーク。仕方ないだろ? ルルドはまだ幼いんだから」
「でも本当にダンジョンは危険だから、変なモノとか勝手に触っちゃダメよ?」

 ミラがしゃがみ込んでいるボクに手を差し伸べた。
 ボクは半泣きになりながらその手を掴み、何度もうなずく。

「わかったよぉ。ごめんね、みんなぁ」
「分かればいいんだ。今度から気を付けるんだぞ」
「ありがとう、アーク」

 本当に良くできた芝居だよな。
 うっかりミスを責めず、他の三人がそれをフォローする。
 しかも仲間の友情みたいなモノもしっかりと見ている人には伝わるだろう。

「さぁ、一気にダンジョンを抜けるぞ! 行くぞ、みんな」
「「「おー」」」

 テロップでもあるならきっと、四人の旅はまだまだ続く。
 とか書かれているのかな。
 そんな風に思いながら、ボクたちは歩き出した。

 そして数歩歩き、撮影が終わったと同時にピタリと立ち止まる。
 
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