異世界配信で、役立たずなうっかり役を演じさせられていたボクは、自称姉ポジのもふもふ白猫と共に自分探しの旅に出る。

美杉日和。(旧美杉。)

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009 ルルドの特技

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 大事をとってボクたちは、洞窟の入り口でその日を過ごすことにした。

 奥からは時折モンスターの鳴き声がするものの、出てくる気配はない。
 どうやら奥深くまで行かなければ、大丈夫そうだ。

「お腹空いたね」
「保存食でも食べる?」

 考えたら今日は、何も食べてなかった。
 こういうのもやっぱり、倒れる原因だよね。
 旅は長いんだから、ちゃんと体調管理しなくちゃ。

「そんなに持ってきてないから、それは最後にしよう」
「えー。でも、どうするの?」

 ボクは辺りを見回したあと、木の上に赤い木の実があることに気付く。
 近くの茂みには茶色い葉と、小さな黄色い実もあった。

 もしかしたら食べられるかもしれない。

「ちょっと採ってくる」

 木に登り、赤い実に顔を近づけた。
 どこまでも甘い匂い。
 だけど……。

「んー。コレはダメかな」
「え? その木の実食べられないの?」
「うん。ちょっとダメかも」

 よじ登った木から、ストンと飛び降りた。
 そして別の黄色い木の実を確認した。

「あ、これは大丈夫そう。あー、キノコもはっけーん」

 茂みの下に、やや黒くふにゃりとしたキノコ様のものを見つけた。

「ちょっと、そんなの私食べないわよ、ルルド」
「えー」
「えー、じゃなくて。どう見てもソレ食べれないでしょう」
「そんなことないよ?」

 キノコ様のそれは、確かに触るとぐにゃっとしている。
 まぁ、見た目だけだったら誰も食べないよね。

 でもボクには自信があった。
 コレは大丈夫だって。

「大丈夫、大丈夫。たまにはボクが役に立つ番だよ」
「いやだって……どう見ても……」

 キノコと枯れたような葉を摘むボクに、リーシャは完全に引いていた。
 ボクはそんな反応を気にすることなく、食べられるモノたちを採取していく。

「さ、ご飯作っちゃお」
「えええ。本気なの、ルルド」

 リーシャの顔は引きつり、口がどうしても嫌だというように歪んでいた。

「騙されたと思って、付き合ってよ」

 ボクは皮のリュックから火を起こす道具を出すと、集めた枯れ木に火をつけた。
 そして小さな片手鍋に貴重な水を入れる。

 水がお湯になる手前で、先ほどのキノコと持っていた塩を入れた。
 本当はダシがあるともっと美味しいんだよねー。
 でもまぁ、ないものは諦めよう。

 次の村では手に入るかもしれないし。
 ああ、狩りとかも出来るようになりたいなぁ。

「うわ。本当に入れた……」
「そりゃあ、食べるもん。少し味は薄いかも。ダシになるものがないし」
「ダシ? ナニソレ」
「んと、濃い味のするものっていうか。それを入れるとエキスが出るものみたいな?」

 確かにダシって言っても通じないか。
 ついつい前の世界の言葉を使っちゃう癖は気を付けないとダメだね。

 変に思われたら嫌だし。

「それならコレいれたらいいんじゃない? 一個くらい使ったって、そうも減らないし」

 そう言ってリーシャは魚の燻製を手渡してきた。
 出発前に保存食として買ったものだ。

 匂いが鮭みたいだったから、絶対美味しいと思って買ったんだよね。

「たしかに。リーシャ頭いいね」
「褒めても何にも出ないから、せめて食べれるもの作って」

 ため息交じりだが、リーシャはすでに諦めたような表情をしている。
 ボクは受け取った燻製を小さくちぎり、鍋にいれた。
 
 しばらくコトコト煮詰めると、なんともいい香りが辺りに漂ってきた。

「なんか美味しそうで悔しいんだけど」
「美味しいよ、魚入りのキノコスープだもん」

 ボクはお椀に二人分よそった。
 白い湯気が立ち、なんとも食欲をそそる。

「リーシャには少し熱いかもしれないから、しっかり冷ましてから食べね」
「……わかってる」

 こういう時、ボクは犬の獣人で良かったと思うよ。
 熱いものを熱いまま食べれるって、サイコーだ。

 木のスプーンでかき混ぜ、ボクは一口口にした。

 やや塩味が濃い気もするけど、空っぽの胃に温かいスープが流れ込む。
 小さくちぎった燻製が、味を引き立たせている。

 しかもキノコはツルツルしているのに、噛むとやや歯ごたえもあり美味しい。

「ぷはぁ。美味しい。温かい食事は本当にいいね」
「そんなに美味しいの?」
「うん。もう冷めた頃だよ。リーシャも食べてみなよ」
「……ぅん」

 やや眉をひそめたあと、リーシャは覚悟を決めてスープに口を付けた。

「やだ、美味しい。え、なんで?」
「なんでって。そりゃあ、食べられるもので作ってるし。リーシャのおかげで燻製も入れられたから美味しいさ」
「いや、そうじゃなくって……。この黒いの、絶対に食べられないと思ってた」

 採取してる時から、すごく嫌そうだったものね。
 まぁ、見た目は少しグロテスクだし、言いたいことは分かるんだ。

「これでもボクは犬の獣人だからね。鼻がいいんだよ」
「鼻?」
「そう。だから食べられるものと食べられないものが、匂いで判断できるんだ」
「そんな特技があったのね、ルルド」
「うん、まぁね」

 サイラスたちに拾われる前は、本当に酷い生活だったからね。
 お金なんて何にもなかったし。

 生きて行くためには、自分で食べられるものを探さなきゃいけなかったから。
 より一層、そういうのをかぎ分けられるようになったみたいだ。

「ルルド、ありがとう。疑ってごめんね。」
「ううん。ちゃんと説明しなかったボクが悪いんだから大丈夫だよ。さ、食べちゃおう」

 ボクがそう言うとリーシャはうなずき、残りのスープに手を付けた。
 
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