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閑話 繰り返す夢(ブレイズ視点)
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何度か見る夢がある。
たかが夢ごときで、何だというのか。
初めは自分もそう思っていた。
しかし繰り返し見る夢の中に出て来る女性が、彼女だと認識できたその瞬間から、夢はまるで警告のようにさえ思えていた。
らしくはない。
元々そんな風に思うような人間ではなかった。
ただ強く、誰よりも強くなることだけを目標に生きてきたから。
でもそれは言い替えれば、あの日助けられなかった彼女を二度と同じ目に遭わせないため。
そう考えれば、繰り返す夢もまた、彼女への心配からかもしれない。
「今度こそ、俺は彼女を救えるのだろうか」
誰もいなくなった部屋で、あの愛人とアンリエッタが座っていたソファーをただ眺めた。
「君が傷つき……ましてや死ぬなどという、あんな恐ろしい未来など絶対にごめんだ」
そう、夢の中では何度も繰り返し彼女の最期を見た。
朝靄のかかる静かな街の中。
ほんの少し動き始めたその中を、俺は一人歩く。
何かの用事があったのか、ただの散歩だったのか。
ただ足は真っすぐに、街中にかかる橋を目指していた。
遠くに見える欄干には、先客の女性が一人。
深くフードをかぶったその人の顔は見えない。
何か思いつめているのか、欄干に手をかけたまま彼女はジッと流れの速い川を見つめていた。
嫌な予感がした俺は、ゆっくりと彼女に近づく。
しかしその瞬間、彼女は欄干を掴む手に力を入れたかと思うと、そのまま川へ身を投げる。
「いけない!」
俺の言葉に彼女は一瞬、こちらを見た。
薄紫の綺麗な宝石のような瞳。
いつかの、記憶の中の少女とその姿がかぶる。
ただ伸ばした腕は彼女を掴むことは出来なかった。
彼女の体はあっという間に、川の中へ。
急いで俺は橋の脇から川へ降り、必死に彼女を探す。
ただ流れの早い川ではすぐに彼女を見つけることが出来ず、音を聞きつけた他の兵士たちと共に探したものの、見つけた時にはすでに彼女の体は冷たくなっていた。
引き上げ、彼女のフードを外す。
青白く、どこまでもやせ細った体。
そしてその白い肌を埋め尽くすような赤いあざ。
どうして彼女が死ななければならなかったのか、俺は知らない。
そもそも、彼女のことを全く知らないのだ。
いつか父の目がなくなったら、彼女に詫びに行きたいと思っていた。
しかし現実はただ忙しく、今さら自分の謝罪など何になるのか、そういう思いも加速して、言い訳をつけては逃げていた。
何が強い男だ。
彼女一人守れずに、俺は……。
冷たくなった彼女を抱きしめ、いつも夢は終わる。
酷い夢だ。彼女が死ぬなんて。
だけど結婚したアンリエッタが、幸せではないと知った時、夢は現実になるのではないかという恐怖に付きまとわれた。
だから今度こそ、彼女を守り切ってみせる。
本当なら今すぐにでも、あの屋敷から連れ出し自分の庇護下に置きたい。
あの不誠実な旦那だって殴ってしまいたいくらいだ。
でも、彼女には彼女の計画があるという。
あの愛人も友人だというし、今はその意志に従おう。
彼女が生きたいように、彼女の幸せだけを願って。
「彼女が望む未来のためならば、どんなことだってしてやるさ。あんな夢のように、失わせることなんて絶対に俺がさせない」
また夜が来る。
いつかあの夢を見なくなる日が来るのだろうか。
ああ、もしかしたら彼女が本当の意味で幸せになった姿を見られたら、終わるのかもしれないな。
そんな風にただ思えて仕方なかった。
たかが夢ごときで、何だというのか。
初めは自分もそう思っていた。
しかし繰り返し見る夢の中に出て来る女性が、彼女だと認識できたその瞬間から、夢はまるで警告のようにさえ思えていた。
らしくはない。
元々そんな風に思うような人間ではなかった。
ただ強く、誰よりも強くなることだけを目標に生きてきたから。
でもそれは言い替えれば、あの日助けられなかった彼女を二度と同じ目に遭わせないため。
そう考えれば、繰り返す夢もまた、彼女への心配からかもしれない。
「今度こそ、俺は彼女を救えるのだろうか」
誰もいなくなった部屋で、あの愛人とアンリエッタが座っていたソファーをただ眺めた。
「君が傷つき……ましてや死ぬなどという、あんな恐ろしい未来など絶対にごめんだ」
そう、夢の中では何度も繰り返し彼女の最期を見た。
朝靄のかかる静かな街の中。
ほんの少し動き始めたその中を、俺は一人歩く。
何かの用事があったのか、ただの散歩だったのか。
ただ足は真っすぐに、街中にかかる橋を目指していた。
遠くに見える欄干には、先客の女性が一人。
深くフードをかぶったその人の顔は見えない。
何か思いつめているのか、欄干に手をかけたまま彼女はジッと流れの速い川を見つめていた。
嫌な予感がした俺は、ゆっくりと彼女に近づく。
しかしその瞬間、彼女は欄干を掴む手に力を入れたかと思うと、そのまま川へ身を投げる。
「いけない!」
俺の言葉に彼女は一瞬、こちらを見た。
薄紫の綺麗な宝石のような瞳。
いつかの、記憶の中の少女とその姿がかぶる。
ただ伸ばした腕は彼女を掴むことは出来なかった。
彼女の体はあっという間に、川の中へ。
急いで俺は橋の脇から川へ降り、必死に彼女を探す。
ただ流れの早い川ではすぐに彼女を見つけることが出来ず、音を聞きつけた他の兵士たちと共に探したものの、見つけた時にはすでに彼女の体は冷たくなっていた。
引き上げ、彼女のフードを外す。
青白く、どこまでもやせ細った体。
そしてその白い肌を埋め尽くすような赤いあざ。
どうして彼女が死ななければならなかったのか、俺は知らない。
そもそも、彼女のことを全く知らないのだ。
いつか父の目がなくなったら、彼女に詫びに行きたいと思っていた。
しかし現実はただ忙しく、今さら自分の謝罪など何になるのか、そういう思いも加速して、言い訳をつけては逃げていた。
何が強い男だ。
彼女一人守れずに、俺は……。
冷たくなった彼女を抱きしめ、いつも夢は終わる。
酷い夢だ。彼女が死ぬなんて。
だけど結婚したアンリエッタが、幸せではないと知った時、夢は現実になるのではないかという恐怖に付きまとわれた。
だから今度こそ、彼女を守り切ってみせる。
本当なら今すぐにでも、あの屋敷から連れ出し自分の庇護下に置きたい。
あの不誠実な旦那だって殴ってしまいたいくらいだ。
でも、彼女には彼女の計画があるという。
あの愛人も友人だというし、今はその意志に従おう。
彼女が生きたいように、彼女の幸せだけを願って。
「彼女が望む未来のためならば、どんなことだってしてやるさ。あんな夢のように、失わせることなんて絶対に俺がさせない」
また夜が来る。
いつかあの夢を見なくなる日が来るのだろうか。
ああ、もしかしたら彼女が本当の意味で幸せになった姿を見られたら、終わるのかもしれないな。
そんな風にただ思えて仕方なかった。
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