18 / 68
017 妻としてのプライド
しおりを挟む
本邸にいる侍女とは、制服も何もかも違う。
きちんとした身なりだった。
ややふくよかであり堂々とするその様は、古くからこの屋敷に勤めていそうな人に思える。
のぞきが彼女に見つかったのは誤算だったけど、ある意味好機かもしれないわね。
ここで古くから支えている人間の話は、絶対に役に立つもの。
何とかして彼女から情報を引き出さなきゃ。
私はあくまで新人の侍女を装いつつ、おどおどとした感じで彼女に話しかけた。
「す、すみません。奥様に頼まれて、お庭の掃除をしようと思っていたのですが、掃除用具の倉庫がどこにあるのか分からなくて……」
「奥様? 掃除用具って、あなた……」
腰に手をあて、キツい赤茶色の目をさらに吊り上げる侍女。
かなり怪しんでいるようね。
まぁ、見たこともない侍女がこの離れに近づいてきているんだから、それもそうか。
ある意味この人は忠実な人なのかもね。
でもこっちだって、バレるわけにはいかないのよ。
「本邸にいらっしゃる奥様です……。その……大奥様より、掃除を奥様もするように申し使っていて。私たちはその手伝いなのです」
「ああ、大奥様のご命令なのね」
「はい、そうなんです。奥様にはこの家のためによく働くように、とのことだそうです」
「それで侍女までかり出しているの?」
「奥様一人ではどうにもならないとのことで、私たちはご実家より手伝いに来ているのです」
さも興味なさそうに、『ふーん』とだけ彼女はもらした。
でも今の話で何も疑問に思わなかったってことは、奥様が本邸にいることは知っているってことよね。
知っていて、この人は夫と愛人の世話をしている。
でもそれって、つまりは義母も知っているってことじゃないかしら。
いくらあの人が外には出ないような人だからって、同じ敷地内に愛人がいたらさすがに気づくわよね。
なんともまぁ、恥ずかしくないのかしら。
いくら私が初めから貴族ではないとはいえ、この屋敷中の人間たちが平民を……いえ、私を見下しているのね。
腹を立てるだけ無駄なのだろうけど、本当に人として腐ってるわ。
私は目の前にいる侍女に気付かれないように、そっとため息を吐いた。
「掃除用具の倉庫は、この中央の庭を抜けた先にあるわ。木で出来た納屋があるから、すぐ分かるはずよ」
侍女はめんどくさそうにしながらも、指で道を示してくれる。
掃除道具なんて必要はないけど、一応これで逃げ出せるわね。
こっちの使用人たちと顔合わせしていなくて助かったわ。
じゃなきゃ、私が奥様だってバレていただろうし。
「あ、ありがとうございます、助かりました。では行ってきます」
「ねぇ……奥様って、プライドがないのかしらね」
ぼそりと漏らしたその侍女の言葉に、私は足を振り返る。
どうしてこの場面でプライドの話に繋がるのか、私には分からない。
分からないけど、考えるよりも先に言葉が口をついていた。
きちんとした身なりだった。
ややふくよかであり堂々とするその様は、古くからこの屋敷に勤めていそうな人に思える。
のぞきが彼女に見つかったのは誤算だったけど、ある意味好機かもしれないわね。
ここで古くから支えている人間の話は、絶対に役に立つもの。
何とかして彼女から情報を引き出さなきゃ。
私はあくまで新人の侍女を装いつつ、おどおどとした感じで彼女に話しかけた。
「す、すみません。奥様に頼まれて、お庭の掃除をしようと思っていたのですが、掃除用具の倉庫がどこにあるのか分からなくて……」
「奥様? 掃除用具って、あなた……」
腰に手をあて、キツい赤茶色の目をさらに吊り上げる侍女。
かなり怪しんでいるようね。
まぁ、見たこともない侍女がこの離れに近づいてきているんだから、それもそうか。
ある意味この人は忠実な人なのかもね。
でもこっちだって、バレるわけにはいかないのよ。
「本邸にいらっしゃる奥様です……。その……大奥様より、掃除を奥様もするように申し使っていて。私たちはその手伝いなのです」
「ああ、大奥様のご命令なのね」
「はい、そうなんです。奥様にはこの家のためによく働くように、とのことだそうです」
「それで侍女までかり出しているの?」
「奥様一人ではどうにもならないとのことで、私たちはご実家より手伝いに来ているのです」
さも興味なさそうに、『ふーん』とだけ彼女はもらした。
でも今の話で何も疑問に思わなかったってことは、奥様が本邸にいることは知っているってことよね。
知っていて、この人は夫と愛人の世話をしている。
でもそれって、つまりは義母も知っているってことじゃないかしら。
いくらあの人が外には出ないような人だからって、同じ敷地内に愛人がいたらさすがに気づくわよね。
なんともまぁ、恥ずかしくないのかしら。
いくら私が初めから貴族ではないとはいえ、この屋敷中の人間たちが平民を……いえ、私を見下しているのね。
腹を立てるだけ無駄なのだろうけど、本当に人として腐ってるわ。
私は目の前にいる侍女に気付かれないように、そっとため息を吐いた。
「掃除用具の倉庫は、この中央の庭を抜けた先にあるわ。木で出来た納屋があるから、すぐ分かるはずよ」
侍女はめんどくさそうにしながらも、指で道を示してくれる。
掃除道具なんて必要はないけど、一応これで逃げ出せるわね。
こっちの使用人たちと顔合わせしていなくて助かったわ。
じゃなきゃ、私が奥様だってバレていただろうし。
「あ、ありがとうございます、助かりました。では行ってきます」
「ねぇ……奥様って、プライドがないのかしらね」
ぼそりと漏らしたその侍女の言葉に、私は足を振り返る。
どうしてこの場面でプライドの話に繋がるのか、私には分からない。
分からないけど、考えるよりも先に言葉が口をついていた。
166
あなたにおすすめの小説
婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?
すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。
人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。
これでは領民が冬を越せない!!
善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。
『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』
と……。
そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。
もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません~死に戻った嫌われ令嬢は幸せになりたい~
桜百合
恋愛
旧題:もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません〜死に戻りの人生は別の誰かと〜
★第18回恋愛小説大賞で大賞を受賞しました。応援・投票してくださり、本当にありがとうございました!
10/24にレジーナブックス様より書籍が発売されました。
現在コミカライズも進行中です。
「もしも人生をやり直せるのなら……もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません」
コルドー公爵夫妻であるフローラとエドガーは、大恋愛の末に結ばれた相思相愛の二人であった。
しかしナターシャという子爵令嬢が現れた途端にエドガーは彼女を愛人として迎え、フローラの方には見向きもしなくなってしまう。
愛を失った人生を悲観したフローラは、ナターシャに毒を飲ませようとするが、逆に自分が毒を盛られて命を落とすことに。
だが死んだはずのフローラが目を覚ますとそこは実家の侯爵家。
どうやらエドガーと知り合う前に死に戻ったらしい。
もう二度とあのような辛い思いはしたくないフローラは、一度目の人生の失敗を生かしてエドガーとの結婚を避けようとする。
※完結したので感想欄を開けてます(お返事はゆっくりになるかもです…!)
独自の世界観ですので、設定など大目に見ていただけると助かります。
※誤字脱字報告もありがとうございます!
こちらでまとめてのお礼とさせていただきます。
殺された伯爵夫人の六年と七時間のやりなおし
さき
恋愛
愛のない結婚と冷遇生活の末、六年目の結婚記念日に夫に殺されたプリシラ。
だが目を覚ました彼女は結婚した日の夜に戻っていた。
魔女が行った『六年間の時戻し』、それに巻き込まれたプリシラは、同じ人生は歩まないと決めて再び六年間に挑む。
変わらず横暴な夫、今度の人生では慕ってくれる継子。前回の人生では得られなかった味方。
二度目の人生を少しずつ変えていく中、プリシラは前回の人生では現れなかった青年オリバーと出会い……。
1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳
ロミオ王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
結婚5年目のお飾り妻は、空のかなたに消えることにした
三崎こはく
恋愛
ラフィーナはカールトン家のお飾り妻だ。
書類上の夫であるジャンからは大量の仕事を押しつけられ、ジャンの愛人であるリリアからは見下され、つらい毎日を送っていた。
ある日、ラフィーナは森の中で傷ついたドラゴンの子どもを拾った。
屋敷に連れ帰って介抱すると、驚いたことにドラゴンは人の言葉をしゃべった。『俺の名前はギドだ!』
ギドとの出会いにより、ラフィーナの生活は少しずつ変わっていく――
※他サイトにも掲載
※女性向けHOT1位感謝!7/25完結しました!
旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します
【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに
おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」
結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。
「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」
「え?」
驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。
◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話
◇元サヤではありません
◇全56話完結予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる