白い結婚にさよならを。死に戻った私はすべてを手に入れる。

美杉日和。(旧美杉。)

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040 役立つ記憶

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 しかしそう言いながら行儀の悪い私は、どうしても気になっていたお菓子にフォークを突き刺す。
 すると不思議な感触が伝わってきた。

 三角の立体型をしたそのお菓子は、見た目とは違い表面がサクっとしているのにそれを越えるとスッと雲にフォークを突き刺したのではないかというような柔らかな感触がした。

 えええ。なにこれ。中、どうなってるの?
 クッキーみたいなものかと思ったのに、全然違うじゃない。
 これなんていう食べ物なんだろう。

 え、むしろ食べたらどんな感じなのかな。
 泡っていうか、雲よね。
 フォークで雲なんて刺したことはないけど。

「すごい……なにこれ」

 私はお皿を目線の高さまで上げ、上からも横からもそのお菓子を眺めた。
 そしてその向こう側で二人の視線が自分をジッと見ていることに気付く。

「あああ、すみません。初めて見たもので」

 きゃぁぁぁぁ。穴があったら入りたいわ。
 貴族云々じゃなくて、人として恥ずかしすぎじゃない。

 子どもじゃないんだから、はしゃぎすぎでしょう。
 いくらビックリしたからって、家じゃないんだから。

「たぶんメレンゲを炙ったもんですね」
「メレンゲ?」
「あー、卵の白身を泡立たせたお菓子みたいなもんです」
「へぇー。すごぉい」

 貴族の中では有名なお菓子なのかしらね。
 メレンゲか。
 その言葉さえ初めて聞いたわ。

「食べたことないんですか?」
「ええ」
「ダントレットの娘なのに?」

 せっかく親切にお菓子の説明をしてくれたと思ったのに、安定にニカの言葉にはトゲがある気がするのよね。
 もっともそれぐらいに、うちの名前が悪名高いってことなんだろうけど。

「ないですよ。使用人なんかに父がこんなもの食べさせてくれるわけないじゃないですか」
「使用人って、貴女は娘だろう」
「どっちにしても同じですよ?」

 父にとっては、ね。
 あの人のお金はあの人だけのものだもの。
 娘なんてむしろ使用人以下って思ってないかしら。
 自分の持ち物って意味で。

「……なんか、すみません」

 ぽつりとニカは私に謝った。
 何に対する謝罪なんだろう。
 イマイチよくわかんないわね。

「それより、街道の件ですが」
「あ、ああ。何かいい案があるのか?」
「はい。ちょうど隣国で同じような現象が起きた際、街道沿いにリオンの花を植えたそうです」

 これも時代的にはもう少し先の話だった気がするけど、どうせ隣国のことなんて知らないだろうから大丈夫よね。

「リオンの花って、確か匂いが結構キツイんじゃなかったっけ?」
「はいそうです。あの匂いこそモンスターたちが嫌がる匂いなんです。なので街道の両脇に植えれば、馬車などが襲われる確率が減るかと思います」

 モンスターがどこから湧いているとか、根本的な解決方法は知らないけど効果があることだけは確かだ。
 実際に隣国での成功例もあるわけだし。

 こういう時って、前の記憶はありがたいわよね。
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